2013 年 82 巻 1 号 p. 39-50
斑入り花を着生するトレニアの易変性変異体「雀斑(そばかす)」を EMS 処理した M2 世代から分離した.正常型の花弁の下唇は紫色の全色であるが,変異型では花弁の下唇の地色が薄紫色となり,紫色の小さな斑点を生じる他,紫色の扇型のセクターを生じる.この形質は不安定で,下唇が紫の全色に復帰変異した花が高頻度で生じ,さらに,変異型の花の自殖により得られた S1 世代に復帰変異体を高頻度で生じた.変異型の花弁では,正常型に比較してアントシアニン濃度が著しく低下していた.これは,トレニアのアントシアニン生合成酵素遺伝子である TfCHS(カルコン合成酵素遺伝子),TfF3H(フラバノン-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子),TfDFR(ジヒドロフラボノール-4-リダクターゼ遺伝子),TfANS(アントシアニジンシンターゼ遺伝子),TfUFGT(UDP-グルコース 3-O-グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子)の発現低下によるものであった.この発現低下は,R2R3-MYB 転写因子遺伝子である TfMYB1 の第 2 イントロンに,En/Spm ファミリーに属する DNA 型トランスポゾン Ttf1 が挿入することによって起こっていた.さらに,Ttf1 の TfMYB1 からの脱離によって復帰変異が発生することが示された.TfMYB1 を過剰発現させたトレニアの組換えカルスでは,上記の 5 つのアントシアニン生合成酵素遺伝子が発現誘導されることによってアントシアニンが蓄積して紫色に着色し,TfMYB1 が R2R3-MYB 転写因子遺伝子として機能することが確認された.以上から,Ttf1 の挿入された TfMYB1 がホモ接合になることにより,斑入り形質が生じると結論された.Ttf1 はトランスポゼースをコードする配列を持たず,非自律性因子であると考えられた.これらの結果に基づき,トレニアの育種ならびにトランスポゾンタギングへの雀斑変異体の利用の可能性について考察した.