園芸学会雑誌
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タマネギ鱗茎の休眠と呼吸機構に関する研究
緒方 邦安邨田 卓夫蔡 平里
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1960 年 29 巻 2 号 p. 129-134

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抄録
本研究はタマネギ貯蔵に関する生理学的研究の一環として,タマネギ鱗茎の休眠と呼吸機構との関係を究明する目的で,1959年には大阪府立大学農学部産泉州中生を,1956年には大阪農試春木分場産の愛知白,貝塚早生,今井早生,泉州中生,晩生,および山口甲高の6品種を用いて実験を行ない,大約次の如き結果をえた。
1.タマネギ鱗茎におけるガス代謝量は,成熟に伴ない漸次減少して休眠状態に入り,休眠期に最低となるが,ある一定期間の後には上昇を始め,萠芽期にかけて一層増大する。この消長傾向は底盤部組織および鱗茎全体としてのガス代謝量の上にともに認められ,かつその増減期は一致する。
2.タマネギ鱗茎の底盤部組織における呼吸の主要経路は通常EMBDEN-MEYERHOFの経路を通り,TCA cycleに入り,糖が完全酸化されるのでR.Q.はほぽ1.0を示す。
3.底盤部組織のTCA cycleに関与する種々の脱水素酵素の活性は休眠中は極端に弱められているが8月中,下旬に至つて急激に増大する。この増大の時期は呼吸上昇の時期とほぼ一致する。
4.底盤部組織のガス代謝に対するDNPの添加効果は休眠中ほぼ一定して大きな変化はないが,脱水素酵素の活性が高まる時期に著しい増加を示す。これはタマネギがこの時期に至り呼吸機構の上に質的変化がもたらされることを示唆するものである。
5.タマネギの発芽発根にあたえる乾湿条件の影響は休眠期間中はないものと認められるが,底盤部を数時間水浸した後,湿砂土上において水分を与えると,8月中旬に至つて反応を示し,発根はほぼ100%に達する。この時期は鱗茎底盤部において酵素活性の変化が認められ呼吸機構に質的な変化が惹起している時期と一致することから,タマネギの真の休眠覚醒期はこの時期にあることを認め,タマネギ鱗茎の休眠期は比較的短期間に終了することを知つた。
6.タマネギの品種間におけるガス代謝量の相違については,成熟期間中は早生品種は晩生品種に比べ小さいが,休眠期および休眠覚醒期には早生品種の方が大きい。したがつて早生品種は晩生品種に比べ,より早く休眠状態に近づくものと思われるが,貯蔵中の基質の分解は大きく,ことに休眠覚醒期におけるエネルギー生産量の大なることは発芽を早め貯蔵性を低下させることになると思われる。
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