抄録
砂丘地の早掘ナガイモはすりおろした場合, 褐変することが点とされている。そこでこれら褐変物質の検索と芋の掘取時期, 部位, 貯蔵によるトロロの褐変状態および褐変基質としての polyphenol 含量の変化, さらにむかご, 葉における polyphenol 含量などについて実験を行なつた。
1. ナガイモの褐変にあずかる物質は polyphenol 物質で, paper chromatography によりRf0.07, 0.29, 0.43, 0.62の4スポットを認めた。同様にむかごでは 0.07, 0.43の2スポットを認めた。その内褐変基質として大きな役割をもつと思われるRf0.43物質の紫外部吸収スペクトルを求めたところ芋, むかごとも極大吸収277mμ, 極小吸収260mμであつた。
2. ナガイモの掘取時期と polyphenol 含量の関係は早掘芋ほど含量が多く掘り取りがおそくなるにしたがつて減少した。しかし11月掘取芋ではまたやや増加をみた。以上の傾向は芋の中央部より先端部で著しかつた。トロロの着色状態は polyphenol 含量とほぼ平行的な関係がみられ, その含量の多いものほど着色も著しかつた。
3. ナガイモの部位と polyphenol 含量の関係は, 先端部が最も多く, ついで基部で中央部は最も少なかつた。
4. 掘取時期を異にするナガイモの貯蔵と polyphenol 含量の関係は10月3日測定では掘取時よりかなり増加を示し, 11月27日の測定では一層顕著な増加がみられた。しかし2月10日の測定では前回に比べてかなり減少を示した。貯蔵による polyphenol 含量の増加は掘取時期の早いものにおいて著しかつた。
5. むかごの polyphenol 含量は芋よりもかなり多い。採取時期および部位との関係は芋の場合とほぼ相似た傾向を示した。またつるに着生したむかごを地中に埋めると polyphenol 含量は著しく減少した。
6. 葉の polyphenol 含量は, 芋およびむかごより一層多く, また下位の葉より上位の葉が多かつた。