抄録
温州ミカンの花粉退化の原因を追求するため, 葯および花粉の発育に伴う, 形態学的, 細胞組織学的な研究を行なつた。なお稔性種文旦および夏ミカンを用いてその差異を比較するとともに, 温州ミカンの温度処理およびIAA処理についても同様の調査をした。
1. 葯発育の初期では, 花粉母細胞の減数分裂および小胞子形成のいずれにおいても, 稔性, 不稔性種の間に差異は認められなかった。
2. 稔性種のタペート細胞は, 4分子から小胞子が遊離した直後より退化しはじめ, 小胞子の細胞質から液胞が消失する時期までに完全に退化してしまう。
3. 不稔性の温州ミカンのタペート細胞は, 小胞子の液胞発現期に, 異常に拡大した液胞を生ずることがあり, その後, 小胞子の液胞拡大期には完全に崩壊した。しかし, 細胞状のままで大きな液胞をもたないタペート細胞は, 通常はそのままの状態で崩壊せず, 小胞子の液胞拡大期になつて始めて退化した。従つてこのような場合, タペート細胞は花粉発育のための栄養源としての働きをせず, また花粉に栄養を与えるとしても量的に少ないと思われる。
4. このような温州ミカンのタペート細胞の異常は, 温度処理 (1969年3月10日より30日まで, 最低温度20°C), またはIAA処理 (露地, 花蕾の直径約3mm, 500pp) を行なうことにより, ある程度まで回復し, 花粉稔性を高めることができた。