園芸学会雑誌
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トマトの生育ならびに開花•結実に関する研究 (第11報)
花の発育ならびに形態に及ぼす温度の影響
斎藤 隆伊東 秀夫
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1971 年 40 巻 2 号 p. 128-138

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抄録

トマトの花芽の発育ならびに形態, とくに子房の心室数に対する幼苗期の環境条件として温度の影響について調査した。
1. 花房上における花芽の発育は, 一般的傾向として分化•発育の早い花房上基部に近い花ほど優位に立つて大きく, 1花重はもちろん, がく片, 花弁, やく, 子房ともに大きく子房の心室数も多い。
2. 花の発育ならびに形態に対する温度段階の影響をみるため, 昼夜の温度較差を5°Cとし, 昼温 (8時間) を15, 20, 25および30°Cに保つた条件下と, 昼夜温ともに17, 24, 30°C および昼温17°C:夜温9°Cに保つた条件下で苗を育成した結果, 温度の低い昼温15°C:夜温10°Cおよび昼温17°C:夜温9°C下で花は最もよく発達し, がく, やく, 花弁ともに大きくなるとともにその数も増え, 子房も大きく, 心室数が多くなり, 温度の高いほど花の発達が悪く, 各器官とも小さく, 心室数も少なくなつている。
3. 花の形態の特徴として心室数に及ぼす昼温と夜温の影響を別々にみるため, まず, 昼温を17°Cとし, 夜温を4, 8および12°Cに保つて低温処理を行なつた場合の心室数の変化をみると, 夜温8°C下で心室数が最も多くなり, 4°Cおよび12°C下では心室数の増加は若干少なくなつている。つぎに, 昼温を17, 24および 30°Cとし, 夜温をすべて8°Cとして低温処理を行なつた場合の心室数の変化をみると, 昼温の低い17°C下では心室数は著しく増加するが, 昼温24°Cおよび30°C下では8°Cの低夜温処理による心室数の増加はほとんどみられない。心室数の増加は夜温の低下のみでなく, 昼夜の総体的な低温下で起こるものとみられる。
4. 低温の継続期間と心室数との関係をみるため, 昼温 17°C:夜温8°Cの低温処理を4, 6, 8, 10, 15, 20および30日間行なつた結果, 6日間処理によつてわずかに心室数の増加が認められ, 10日間処理によつて心室数は明らかに増加し, それ以上低温処理期間が長くなるにつれて心室数の増加が多くなるとともに, 心室数の多い花数も増加している。
5. 1日当たりの低温処理時間と心室数との関係をみるため, 8°C の低温に夜間1日当たり4, 8および16時間あわせ, 残りの時間を17°Cにあわせて3, 6, 9,12および15日間処理した結果, 1日4時間低温にあわせた場合には9日間処理によつてわずかに心室数の増加がみられ, 12日間処理で心室数は明らかに増加し, 1日当たり8時間あるいは16時間低温にあわせた場合には6日間処理でわずかに心室数の増加がみられ, 9日間処理で心室数は明らかに増加している。
6. 苗の発育段階を変えて低温処理を行なつた場合に心室数がどのように変化するかを花の発育段階と対照してみるため, 本葉1, 2, 4, 6, 8および10枚展開時から 9°C の低温処理を20日間行なつた結果, いずれの時期の処理においても, 各花房において処理時にちようど分化直前から分化直後の比較的早い段階の花芽の心室数が最も増加し, それより発育段階の進むにつれて心室数の増加は少なく, 雄芯形成期を過ぎた花芽では低温にあつても心室数の増加はほとんどみられない。
7. トマトの花芽の発育ならびに形態に対して温度が大きな影響を及ぼしており, 低温は花芽の発育増大, 心室数の増加の主要な要因となり, その低温の程度が低く, その継続期間が長いほど影響の程度が強くなつている。

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