抄録
温州ミカンの葉色から樹体の生理状態を知りうるための基礎的知見を得るために, 本報では葉内クロロフィル量の系統間差異, 季節的変化, および葉色に影響をおよぼす要因である受光量ならびに葉内窒素量とクロロフィル含量との関係について調査した結果を報告する.
1. 温州ミカン葉のクロロフィル含量の系統間差異をみると, 供試系統のうち宇佐美は15mg/g(乾燥重), 杉山, 林, シルバーヒル, 石川, 薬師寺, 青島, 片山, 宮川早生および興津早生は7~9mg, 大岩5号と十万は5mg含んでいた.
2. ミカン葉のクロロフィル含量は年間の上半期 (1~6月) に少なく, 下半期 (7~12月) に多い. 減少から増加に向かう時期は春葉の展開完了期頃である. 1樹内におけるクロロフィル量の分布にはかなり特異性があり, 枝梢の令が進むにつれて葉中のクロロフィルは減少し, 年間を通じて陽葉の含量が陰葉より常に少ない.
3. 冬期の晴天日に自然光が陽葉側60~70klux, 陰葉側1~2kluxとなるのに対し, 防寒風用に寒冷しやを掛けると, 陽葉側10~20klux, 陰葉側1~2kluxとなり, さらにこもを掛けると陽葉側1~2klux, 陰葉側0.3~0.4kluxとなり, 著しく照度を減じた. クロロフィル量は無処理の陽葉が1か月で急激に減少したのに対し, 防寒風処理では処理期間中減少しなかつた.
4. 葉内全窒素量とクロロフィル量との関係を追求した結果, 窒素量に対応してクロロフィル量は増加の傾向にある. 年間窒素20g与えた多区では葉内全窒素量が3.5~4.5%ときわめて多く含まれたのに対し, クロロフィルは10g与えた中区にくらべてほとんど増加していない. 従つて本結果からでは全窒素量が約3.5%以上になるとクロロフィル量は増加しないことが推察された.