抄録
モモの摘果剤ピーチシンの散布による落果は満開後25日ころまでに終了する. 慣行の仕上げ摘果は, 満開後35~40日である. 筆者はこの間 (満開後25~40日) の落果について, その落果量, 落果の原因を調査した.
1. 供試樹は, モモ「白鳳」で4樹については13年生より16年生に至る4年間 (1962~1965年), 3~6樹について4年生より7年生に至る4年間 (1962~1965年), また別に4~8樹について4年生より7年生に至る4年間 (1967~1970年) の3つのグループに分けて, 検討した. 1962~1965年の試験は, 若木 (4~7年生) と成木(13~16年生) の比較で, 満開後25日より満開後40日までの間の落果量は, ピーチシン200ppm溶液1回散布区, 対照区間に有意差なく, 年による変動が認められた. 4年生より7年生に至る間の試験では, 土壌条件, 栽培年次を異にする2つのグループ間で比較を試みた.
その結果, 落果量は対照区, ピーチシン200ppm溶液1回散布区間に有意差なく, 各樹齢の間にも差が認められなかつた. ピーチシン200ppm2回散布, 400ppm1回散布処理についても, 落果量は対照区, 処理区間に有意差が認められなかつた. したがつて, この期の落果は, 樹齢に関係なく, 年により変動のある, ピーチシン散布に関係のない他の原因によるものであると推定できる. この期の落果量は, 10.7±1.5%である. そこで, ピーチシンによる摘果の場合, 仕上げ摘果時 (満開後40日ころ) の結実歩合16~18%を理想とするならば, 満開後25日より40日までの落果がやく10%であるので, ピーチシンの落果終了時 (満開後25日) の結実歩合が26~28% (大略25~30%) となるのが適正な摘果程度と言える.
2. 満開期に花柱を切除した幼果は, 満開後25日より40日の間に落果する. したがつて自然状態におけるこの時期の落果も受精しなかつたものの落果と推定される. また, この期の落果量は, ピーチシン散布区, 対照区間に差がない. このことにより不受精果は, ピーチシン散布区, 対照区どちらにも同じ量だけあると考えられる. そして, ピーチシン散布区において, 満開後25日までの落果が多い事実より, ピーチシンは受精果の一部を落すものと考えられる.