園芸学会雑誌
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園芸作物のやく培養に関する研究 (第1報)
アスパラガスのやく培養におけるカルスの誘導と器官分化
八鍬 利郎原田 隆稲垣 昇志賀 義彦
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1972 年 41 巻 3 号 p. 272-280

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抄録
アスパラガスのやく培養法を確立するため, カルス形成と器官分化におよぼすやくの発育度, 殺菌方法および生長調節物質の影響について検討した. 培養基は Murashige and Skoog (MS) 培地に蔗糖20g/l, 寒天7.0g/lおよび生長調節物質としてN6-benzyladenine (BA) とNAAを加えたものを用いた. 培養は25°C, 1日16時間照明の下で行なつた. 調査結果の大要はつぎのとおりである.
1. やくの発育度とカルスの形成: 発育度の異なるやくをBA 0.1mg/lおよびNAA 1.0mg/lを添加したMS培地で18週間培養した結果, カルスの形成率は花粉一核期の時期がもつとも高く (79.3%), 花粉成熟期のやくではもつとも低かつた (3.9%). また一核期のやく起源カルスからは15.2%の根の分化と6.1%の茎の分化が認められ, 二核期のやく起源カルスからは6.3%の根の分化が認められた.
2. つぼみの殺菌法と汚染率およびカルスの形成: 滅菌水で洗つただけのつぼみからとつたやくでは汚染率が30%でもつとも高かつたが, 汚染しなかつたやくはすべてカルスを形成し, その後の生長も良かつた. 70%エタノールに5, 10および30分間浸漬したつぼみからとつたやくでは汚染したものはなかつた. この場合, 5分間浸漬ではカルスの生長もよく, 器官の分化率も高かつたが, 10分および30分間浸漬ではカルスの生長と器官の分化が阻害された. 10%および20%のアンチホルミン液に30分間浸漬した区ではよい結果が得られなかつた.
3. BAおよびNAA濃度とカルスの形成: 本試験ではBAの濃度4段階 (0, 0.1, 1.0および10.0mg/l) とNAAの濃度6段階 (0, 0.001, 0.01, 0.1, 1.0および10.0mg/l) を組み合わせて添加した24種の培地で一核期のやくを培養した. カルスの形成率はBA 0.1~10.0mg/l, NAA 0.1~10.0mg/lにおいて高かつた. カルスの生長はBA 0.1~10.0mg/l, NAA 1.0mg/lでよく, もつとも良好なのはBA 1.0mg/l, NAA1.0mg/lの区であつた.
4. カルスの移植と根および茎の分化: 花粉一核期のやくをBA 0.1mg/l, NAA 1.0mg/lを添加したMS培地で16週間培養し, やくから形成されたカルスをコメ粒大に分割して種々の濃度のBAおよびNAAを含む15種の培地に移植した. その結果, 移植により器官の分化が促されることが認められた. すなわち, すべての区で根の分化が起こり, 根の分化率はBA 0.1mg/l, NAA 0.3mg/lでもつとも高かつた (36.7%). また茎の分化は移植18週間後にBA 0.1mg/l, NAA1.0mg/lを添加したMS液体培地を注加することにより促された. 液体培地添加5週間後の調査ではBA 1.0mg/l>, NAA 0.1mg/lおよびBA 1.0mg/l, NAA 1.0mg/lの寒天固形培地上に上記液体培地を注加した区で茎の分化率は23.3%を示しもつとも高かつた.
5. 再生植物の性と染色体数: 根および茎の両器官を分化したカルス塊からは幼植物も得られたが, これらの中には雌株も含まれていた. 染色体を観察した結果は2nおよび4nの個体が認められたが, 目下のところ半数体は得られていない.
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