抄録
ナス果実は低温に貯蔵されると典型的な低温障害を生ずるものであるから, これを材料として低温障害発生の機構を解明しようと試み, 本報では低温障害発生の一般的様相ならびに組織的変化を検鏡した結果を報告する. 材料は主に千両種を用い, 有孔ポリエチレン袋に詰めて, 1°C, 6°C, 10°Cおよび20°Cに貯蔵した.
1. 7月収穫果では1°Cおよび6°Cにおいて著しいピッティングの発生があり, 低温貯蔵果を20°Cに移すと障害の進展が促進された. 10°Cおよび20°C貯蔵果ではピッティングの発生はなかつた.
低温貯蔵果を20°Cに移すとがく部を中心とした腐敗が急速に進展した. その程度は低温にあつた期間が長いほど著しく, 1°C3日では影響がなかつた, 10°C貯蔵果も20°Cに移すと, 当初から20°Cにあつたものより速く腐敗した.
2. 10月収穫果では6°Cおよび6°C貯蔵後昇温した場合でもピッティングの発生はみられず, 昇温後の腐敗の発生も7月収穫果に比べると緩慢であつた. 千両種に限らず冷涼期の果実は夏季のものより低温耐性が高い.
3. ナス果実の貯蔵適温は, 夏期収穫のものでは10°C以上, 冷涼期のものはより低温にあると思われる.
4. 顕微鏡観察によると, ピッティングは表皮より数層内部の細胞の変形. かつ変に始まり漸次周辺に及ぶものであつて, 初期ピッティングの進展は表層からの水分損失に関係がないと思われる.