園芸学会雑誌
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γ線を照射したチューリップの形態学的研究(第1報)
照射時期の影響について
松原 尚生
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1975 年 43 巻 4 号 p. 430-442

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抄録
植物体を構成する各器官の分化や発育の様相がよく知られているチューリップを材料とし, 放射線の照射による影響を明らかにすることを目的として, 花芽分化初期(7月) から出らい期 (3月) までの時期を選び60Coγ線を照射し, その影響を検討し, 以下の結果を得た.
1. 照射時期によつて, 生育段階が異なるので, その影響の現われる様相は多種多様であるが, 概して, 照射時期が早い生育段階の若いものほど放射線感受性が高い傾向を示した.
2. 照射時と開花時の花器の形態学的比較検討から,照射の影響は分化中の段階のものでもつとも著しく, 分化完了後の段階のものでもつとも少なかつた.
3. 花弁の原基状態の組織のように, 活発に増殖中の細胞は高線量照射により異常分裂を引き起こした後にえ死を起こしていたが, 分化完了後のゆるやかな増殖中の細胞 (組織形成中の細胞) は高線量照射で細胞分裂は阻害されるが, 細胞は異常伸長生長を行なつて生存することが明らかになつた.
4. 照射による障害の回復力は照射後の花らい状態や花弁組織の状態などの観察結果から, 器官未分化の組織で大きい傾向が認められた.
5. 細弁花したチューリップは花芽分化完了後の花弁両翼部分の形成初期の高線量照射で現われた.
6. 照射による花弁の形態学上の諸変化および照射により誘発された赤はんの分布の様相やそれを構成する細胞の状態などの関係から, チューリップの花弁は先端分裂組織や周辺分裂組織で形成されるが, 12月頃までは主として Part A (花弁中央部分) が, 11月頃から3月頃までは Part B (花弁両翼部分) が作られることがほぼ明らかになつた.
7. 照射による気孔の異常の程度などから, チューリップ花弁の気孔の分化は, 11月下旬~12月上旬頃から始まることがほぼ明らかになつた.
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