抄録
本実験においては, ヒウガナツの自家不和合性に関する知見を増すことを目的として, 二, 三の組織形態学的観察を行い, つぎのような結果を得た.
1. 走査型電子顕微鏡を用いて, 自家受粉区ならびに他家受粉区 (ハツサク花粉受粉) の柱頭上の花粉の行動を比較観察した. 他家受粉区では, 柱頭から分泌される粘液によって受粉された花粉がすみやかに被覆されはじめ, 受粉12時間後になると完全に被いつくされてその識別も不可能となった. これに対して, 自家受粉区では, 柱頭粘液による受粉花粉の被覆が遅れ, 受粉12時間後においてもその存在がはっきりと確認できた.
2. 蛍光顕微鏡を用い, まず花柱内における花粉管の伸長部位について予備調査を行った. その結果, 花柱上部では花柱溝細胞の内側や柔組織の細胞間隙を伸長し, 花柱中部, 花柱下部ではもっぱら花柱溝壁細胞の内側を伸長することが観察された. つぎに, 以上の観察結果に基づいて, 自家受粉区ならびに他家受粉区の花柱内における花粉管の伸長について比較検討を加えた. その結果他家受粉区では受粉1日後には花柱上部に, また受粉3日後には中部に到達し, 受粉5日後には花柱下部から子房部へ侵入していた. ところが自家受粉区では受粉7日後になっても花粉管は柱頭内で停滞し, 花柱上部にも到達していなかった.