園芸学会雑誌
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リンゴ果実及び種子の発育に及ぼす果実発育初期の温度の影響
田村 勉福井 博一今河 茂三野 義雄
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1981 年 50 巻 3 号 p. 287-296

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抄録

リンゴ果実の初期の発育過程を明らかにすることを目的として, 開花後7日目から30日間ビニルハウスを用いて樹体全体の加温処理を行い, 果実の肥大と種子の発育について組織形態学的な調査を行った.
1. 夜間加温区と昼夜間加温区は, 夜温がいずれも23°C, 昼間は後者のみ外気温+4°Cの温度に設定した.
2. 夜間加温区と昼夜間加温区の間では, 果実の発育にほとんど差がなかった.
3. 加温処理によって果径と果重の増加が促進され, 対照区との差は開花後19日目が最大であった. しかし, 35日目以後ではその差が見られなくなり対照区と同じ大きさとなった.
4. 加温処理を行った果実の細胞径は果径及び果重の場合と同じ傾向を示し, 開花後19日目に対照区との差が最大となったが, その後差は小さくなり, 最終的には対照区と同じになった.
5. 加温処理によって細胞分裂が促進された. また細胞分裂停止期は対照区の開花後40日目に対し, 加温処理区では30日目と加温処理によって10日早くなった.
6. 加温処理を行った果実の種子の発育は細胞層数の変化と同じ傾向が見られ, 加温処理区の種子は開花後30日目で最大長となり発育が停止したのに対し, 対照区の種子は40日目まで発育を続けていた.
7. 種子内の胚の発育は加温処理によって促進され, 成熟胚に達した時期は加温処理区のものが対照区のものより10日間早かった. しかし, 対照区との差が最大となった時期は開花後30~40日目で果実の発育の場合より遅れていた.
以上のことから, 加温処理によって果実の発育が促進され, それは細胞分裂と細胞肥大に基づいており, またそれらは種子の発育と密接な関係のあることが明らかとなった. しかし, 胚が果実の発育に及ぼす影響は小さいものと考えられ, 胚乳が関与しているものと推測される.

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