園芸学会雑誌
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ブドウ′甲州′の揮発性成分とそのワインの香気特性
清水 純一渡辺 正澄
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1981 年 50 巻 3 号 p. 400-407

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抄録

′甲州′ブドウの香気特性を知るために, 果汁の揮発性成分をGC-MS分析によって同定した. また, 果汁とワインとの揮発性成分の関係や, 果汁中のテルペン化合物の単離, 確認および定量を行い, 品種特性を特徴的な揮発性成分から検討した.
1) ′甲州′の果汁およびワインから得た全揮発性成分をGCのパターンより比較した. 果汁中の成分のほとんどはワイン中にも検出された.
2) 果汁の全揮発性成分から酸性区分を除いた画分中に26成分をGC-MS法によって同定した. これらのうち, ピリジンおよび2種のフェノール化合物(2,6-di-tert-butyl-4-methylphenol, tert-butyl-2-methoxyphenol)を新たにブドウの揮発性成分として見いだした. また本画分中に, 2種類のテルペン化合物 (terpinen-4-ol, linalool) を検出した. テルピネン-4-オールはかなりの量で, リナロールは微量で存在した.
3) 果汁中のテルペン化合物を一層確実に同定するために, テルピネン-4-オールおよびリナロールに相当するピーク成分を調製用ガスクロによって分取し, 本化合物の標準品のマススペクトルとの比較により果汁中にテルピネン-4-オールがかなりの量で, リナロールは微量に存在することを再確認した.
4) 5品種のブドウ果汁およびそれぞれのワイン中のテルピネン-4-オールをガスクロ法によって定量した. ′甲州′果汁では174~595μg/l(平均: 385μg/l), そのワインでは125~525μg/l(平均: 320μg/l)の範囲で含有されていた. また′善光寺′や′カベルネソービニヨン′にも検出され, 果汁中ではそれぞれ7~42, 32μg/lで, そのワインでは5~32および32~114μg/lと定量された. しかしながら, ′リースリング′や′シャルドネ′ では見いだされなかった.
5) テルピネン-4-オールの閾値は, ブドウ果汁およびワイン中では300μg/l程度であり, ′甲州′果汁やそのワイン中にはそれぞれ平均385, 320μg/l含まれていることから, このものの果汁やワインの香気への寄与はかなり大きいものと推測される.
上記の結果から, ′甲州′ブドウの揮発性成分中のテルペン化合物は, テルピネン-4-オールが主要であり, また他品種に比較してこの化合物の含有量が多いことを明らかにした. このことが揮発性成分から見た′甲州′の品種特性の一つであると結論した.

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