園芸学会雑誌
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ブドウ果実および果汁中のC6-化合物の生成
清水 純一渡辺 正澄
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1981 年 50 巻 3 号 p. 393-399

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抄録

‘甲州’および‘リースリング’の果実および果汁を供試し, 香気成分としてのC6-化合物生成の相違を比較検討した.
1. ‘リースリング’を供試した結果, 果実の成熟, 糖分の増加に伴って, 果実中の1-hexanol と trans-2-hexenol は若干の増加の傾向を示したが, 1-hexanalやtrans-2-hexenal は, 糖分の含有率が最大になる時期付近で最大値に達し, その後は減少した.
2. ‘リースリング’果実を破砕, 圧搾して得た果汁中では1-hexanal や trans-2-hexenal は, 圧搾直後から60分まで急激に増加し, その後は減少した. 一方, 1-hexanol と trans-2-hexenol は経時的に増加する傾向を示した. また, 同一サンプルについての官能テストでは, C6-化合物特有の若草臭の増加を60分前後まで感じたが, それ以降はほとんど変化しなかった.
100ppmの亜硫酸の存在は,C6-アルデヒド類の生成を強く抑制したが, trans-2-hexenal は経時的に増加した. C6-アルコール類の生成も同様に抑制された.
3. 種々の濃度で亜硫酸を加えて果汁を調製した場合, 1-hexanal の生成は, ‘甲州’, ‘リースリング’共に200ppmの濃度でほとんど抑制されたが, trans-2-hexenal は, 1,000ppmの濃度で‘甲州’では27%程度の, ‘リースリング’では4%程度の生成がみられた.一方, C6-アルコール類の生成は, ‘甲州’では200ppmの濃度でほとんど抑制されたが, ‘リースリング’では1,000ppmの濃度で, 1-hexanol と trans-2-hexenolとの生成がわずかに認められた.
4. ‘甲州’では, 65°C, 10分の果実の加熱処理でC6-化合物の生成は完全に抑えられた. ‘リースリング’では, C6-アルデヒド類の生成は65°C, 15分の処理でほとんど抑えられたが, 1-hexanol と trans-2-hexenolは65°C, 15分以上の処理に対しても少量の生成が認められた.
5. 空気中の酸素との接触を抑えた条件下で両品種の果実を破砕, 圧搾したときのC6-化合物含量を定量した. 蒸留水中での場合, 両品種共多量のC6-アルデヒド類が検出された. ‘甲州’に比べ‘リースリング’の方がC6-化合物量は多かった. 200ppmの亜硫酸水溶液中での場合は, C6-化合物の生成は蒸留水中に比べて抑えられた. C6-化合物の含量は蒸留水中の時と同様に, ‘リースリング’の方が多かった.
ジクロルメタン中では, 両品種の生成活性はさらに強く抑制された. 1-hexanal や trans-2-hexenal は‘甲州’の方に多く見だされた. C6-アルコール類は両品種に同程度検出された. 果実中のC6-化合物の潜在量をジクロルメタン中で処理した時の量とすると, C6-アルデヒド類は‘甲州’に多く, C6-アルコール類は同程度であった.

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