抄録
4倍体ブドウの巨峰系品種の中で, ‘巨峰’及び‘ピオーネ’の果房には多くの無核小粒果が混入するが, これに比べて‘紅瑞宝’, ‘紅伊豆’, ‘レッド•クイーン’, ‘ハニー•レッド’ではより多くの有核果が着粒し, 無核果の混入は少ない. このような無核果の着生原因を知るために, 各品種の花器の完全性と胚珠への花粉管の伸長を比較した.
‘巨峰’及び‘ピオーネ’では, 胚珠の形態的異常や胚のうの未発達が他の品種より多くみられた. 生殖核と栄養核のない花粉も両品種で特に多かったが, 寒天培地上での発芽能力とは一定の関係がなかった. 子房内に伸長した花粉管の数は, いずれの品種でも子房組織の中央部または下部で著しく減少したが, ‘巨峰’と‘ピオーネ’ではその減少が特に著しく, 胚珠へ到達する花粉管も極めて少なかった.
これらのことから, ‘巨峰’及び‘ピオーネ’で有核果の着生が少ないのは, 胚珠の発達が十分でないこと, 及び花粉管の子房内組織での生長が不活発であるために胚珠が不受精になりやすいことが原因であると考えられる. これらの品種では, 不受精に終った子房の多くがそのまま生長を続けて無核果になるものと思われるが, その機構は不明である.