抄録
山形県庄内地方の在来品種で, 古くからエタノールでは極めて脱渋しにくいことが知られている pollination constant の渋ガキ′伝九郎′と渋ガキの主要品種でアルコール脱渋が比較的容易とされている′平核無′果実の脱渋性を比較•検討した.
果実は両品種とも100%着色果を用い, 脱渋方法は温湯 (W.W.), エタノール (EtOH), 炭酸ガス (CO2) 処理の3種類とした.
脱渋処理中の果皮の着色, 果肉硬度の変化はいずれの処理でも両品種間でほとんど差がなかった. ′伝九郎′は′平核無′に比べてW.W.で脱渋しやすく, EtOHでは極めて脱渋困難であった. また, CO2に対してはほとんど同じような脱渋性を示した.
果肉中のエタノール及びアセトアルデヒドは, W.W. では′伝九郎′の方が蓄積がやや早かった. EtOHでは′伝九郎′は′平核無′に比べて果実内に多量のエタノールが蓄積するにもかかわらず, アセトアルデヒドの蓄積はほとんどなかった. CO2に対してはエタノール, アセトアルデヒドの蓄積は両品種でよく類似していた. 果汁のアセトアルデヒドに対する反応性は両品種間でほとんど差がなかった.
以上のことから, ′伝九郎′でアルコール脱渋が困難なのは主として果実内に入ったエタノールがアセトアルデヒドに転換しにくいことによっており, 温湯脱渋が容易なのは, 嫌気的な条件ではむしろ, ′平核無′よりアセトアルデヒドが生成しやすいためであると推察された.