抄録
‘ピオーネ’における有核果の結実不良の主な原因になつている雌ずい中での花粉管伸長停止が不和合性現象と共通する機構によるものか否かを知るために, 他家受粉や反復受粉等の受粉試験や花穂の高温処理を行って, 雌ずい中での花粉管伸長や結実, 種子形成に及ぼす影響を検討した.
1. 通常雌ずい中での花粉管伸長が極めて良い‘マスカット•オブ•アレキサンドリア’, ‘キャンベル•アーリー’などの花粉を‘ピオーネ’に受粉したが, 雌ずい各部への伸長花粉管数の増加は認められず, 結実した果粒の有核果率や種子数が自家受粉の場合よりも高まることもなかった. 一方, 他の品種に‘ピオーネ’の花粉を受粉すると, 品種によっては自家受粉の場合より伸長花粉管数がやや減少した.
2. 6時間毎に2日間, 自家受粉を反復して行っても, ‘ピオーネ’の雌ずい内への花粉管伸長は変わらなかったが, 2時間ごとの反復受粉では, 花柱から子房中央部までの伸長花粉管数が増加した. しかし, 珠孔への花粉管の到達や有核果の結実を増加させる効果は認められなかった.
3. 開花3日前またはそれ以前の蕾受粉, 開花4日後またはそれ以後の老花受粉では, 花粉管は花柱または子房内へ伸長しなかった. 開花1日前または2日後の受粉では, 開花当日の受粉と同程度の花粉管伸長であった.
4. 開花期前または開花中の‘ピオーネ’の花穂に, 40~50°Cの高温処理を5~30秒あるいは30分間行ったが, 雌ずい内各部位への伸長花粉管数の増加は認められなかった.
5. 以上のことから, ‘ピオーネ’の雌ずい中でみられる花粉管伸長の抑制は, おもに自家不和合性とは異なる機構によるものと考えられる.