抄録
イチジグ'桝井ドーフィン'とカキ'平核無'果実の植物油およびエタノール処理によるエチレン生成の誘導について調べた.
緑熟段階のイチジク果実を収穫し, ナタネ油を果頂部の目から注入したところ, 急激なエチレン生成の誘導がみられ, その様相はエチレン処理による誘導様相と極めてよく一致していた. 油処理によりまず最初にエチレン生成酵素 (EFE) が急速に活性化され, その後ACC含量が徐々に増加した. エチレンの作用性の拮抗的阻害剤である2,5-ノルボルナジエン処理によりEFE活性とACC含量のいずれも増加が抑制され, 48時間後からはエチレン生成量も顕著に抑制された. ACC合成酵素の阻害剤であるアミノオキシ酢酸 (AOA) は油誘導エチレンをほぼ完全に抑制した. カキ果実切片もナタネ油の減圧浸透処理によりエチレン生成の誘導がみられたが, 生成量はイチジクに比べると少なかった.
イチジクとカキ果実をエタノール蒸気処理したところ, 急激なエチレン生成の誘導がいずれの果実でも認められた. イチジクでは, EFE活性は0.5~1.Oml/100gFWのエタノール処理濃度で最大となり, それ以上ではかえって抑制されたが, ACC含量はエタノール濃度が高いほど増加する傾向がみられた. このエタノール誘導エチレンはAOAによりほぼ完全に阻害された.
以上のことから, 油およびエタノール処理により誘導されたイチジクおよびカキ果実のエチレンは, ACC経路による一種のストレスエチレンに由来するように思われる.