園芸学会雑誌
Online ISSN : 1880-358X
Print ISSN : 0013-7626
ISSN-L : 0013-7626
60 巻, 3 号
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
  • 福田 博之, 瀧下 文孝, 工藤 和典, 樫村 芳記
    1991 年 60 巻 3 号 p. 495-503
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    わい性台木に接木した場合,比較的旺盛な生育をする'ふじ'と,弱勢になりやすい'つがる'の6~9年生樹を供試して,4年間にわたり乾物生産に対する着果程度の影響を検討した.
    1.弱勢の'つがる'供試樹は,'ふじ'樹に比較して,地上部の重量が乎均で約70%と少なかったが,台木部では約90%で大きな差異はなかった.この結果,'つがる'樹は,台木部に対する地上部の重量比が小さくなった.
    2.供試樹の平均葉面積指数(LAIa)は'ふじ'が2.39であったのに対して,'つがる'では1.20と著しく低かった.'つがる'で葉面積指数が低かったのは,新梢の発生が少ないことが関係していると思われる.
    3.これら供試樹の1樹当たり年間乾物生産量(DM)は,それぞれ'つがる'が4,280~10,011g,'ふじ'が9,091~13,494gであった.1樹当たり乾物生産量(DM)と果実乾物重(F)の間には高い正の相関が認められた.
    4.1樹当たり乾物生産量(DM)および果実乾物重(F)をそれぞれ葉重 (L)で除した,葉の乾物生産能(DM/L)と着果程度(F/L)との間には,両品種を込みにした場合にも,極めて高い直線的な相関(r=0.96)が認められた.このことから,着果程度(F/L)が同じ樹での比較では,葉の乾物生産能(DM/L)には品種間差異はないと推察された.なお,葉の乾物生産能(DM/L)は着果程度(F/L)の増加とともに2倍以上に増大することが認められた.
    5.着果程度(F/L)が増加すると果実に対する乾物の分配率が高まり,枝幹に対する分配率が低下した.着果程度(F/L)が同じ樹での比較では,枝幹および新梢の生育量は'つがる'より'ふじ'のほうが大きかった.
    6.1果当たりの葉面積および葉果比と葉の乾物生産能(DM/L)との間には,指数級数的な関係が認められた.
  • 近藤 悟, Jamnong Uthaibutra, 弦間 洋
    1991 年 60 巻 3 号 p. 505-511
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    収穫期の異なるリンゴ'つがる','千秋','ふじ'の3品種を供試して,発育中の果実内糖含量,アントシアニン含量および内生エチレン濃度の変化,また果皮と果肉の部位別に1-アミノシクロプロパン-1-カルボン酸 (ACC),アブシジン酸(ABA)含量の変化を調査し成熟との関わりを検討した.
    1.'つがる'では満開後95日以降,'千秋'では満開後107日以降,'ふじ'では満開後124日以降,果実中のショ糖含量がブドウ糖含量を上回り,またこの時期はそれぞれの品種の果実の内生エチレン濃度の増加時期とほぼ一致した.
    2.果皮と果肉中のACC含量の増加割合は,早生品種'つがる'では内生剤エチレン濃度の上昇と一致したが,収穫期の遅い品種ほどACC含量とエチレン濃度との関係は明らかでなかった.
    3.果肉中のABA含量の変化は,収穫期の早い品種ほど,ACC含量およびエチレン濃度の増加と類似のパターンを示し,その含量も多かった.さらに'つがる'では果皮中のABA含量とアントシアニン含量が同様な推移を示した.これらの結果から,ABAは成熟(老化)に関係する要因の一つであろうと推察され,また,'つがる'では着色への関連が示唆された.
  • 張 浚澤, 田辺 賢二, 田村 文男, 伴野 潔
    1991 年 60 巻 3 号 p. 513-519
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    花芽のペルオキシダーゼアイソザイムを分析することにより,ナシ属の42種•品種を同定した.アイソザイムの分析では再現性が認められ,5種類のペルオキシダーゼアイソザイム表現型が得られた.
    Aのアイソザイム表現型を示した満州マメナシ,ホクシマメナシ,満州野生,豊富梨,またCのアイソザイム表現型を示した朝鮮マメナシ,三重マメナシ,岩手ヤマナシ,マメナシ-12は各々種間差が認められなかった.'二十世紀'の芽条変異により生じた'おさ二十世紀',および'二十世紀'の高配品種である.'菊水','八達',ならびに'二十世紀'の自然受粉品種である'愛宕','新興'はそれぞれ同じEグループに入り,'二十世紀'との識別は不可能であった.
    関東地方の古い品種である'六月','赤穂','早生幸蔵','真鍮','早生赤'は同じBグループに含まれた.一方同じ関東地方の品種である'平子'と'長十郎'は同一表現型のDを示した.以上の関東地方の品種では共有する四つのアイソザイム(a, c, d, e, 第2図) が認められた.
  • 岡本 五郎, 大森 直樹
    1991 年 60 巻 3 号 p. 521-529
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブドウ'ピオーネ'では,胚珠の受精率が低いために有核果が着生しにくい.この原因を探るために,開花約1週間前の小花を培養し,培地の無機塩,ホルモンおよび雌ずいの抽出物の添加濃度が胚珠の発育と受粉後の花粉管生長に及ぼす影響を調査した.有核果が多く着粒する'マスカット•オブ•アレキサンドリア'を比較の対照とした.
    NitschあるいはMS培地の無機塩濃度,Nitschの培地の窒素濃度を高めると,両品種とも子房の発育は促されたが,胚のうの発育と受粉後の花粉管伸長は抑制された.この傾向は特に'ピオーネ'で著しかった.1~10ppmのGA, BA, NAAを添加すると, 子房の発育は影響されなかったが,'ピオーネ'雌ずい内での胚のうの発育と花粉管伸長が抑制された.'ピオーネ'雌ずいの水抽出物を培地に加えると,両品種とも子房および胚のうの発育は影響されなかったが,花柱内への花粉管伸長が著しく抑制された.
    以上のことから,'ピオーネ'の小花は窒素栄養の供給が豊富であると,胚のうの発育と花粉管の生長が抑制される.'ピオーネ'の雌ずいに多く含まれる花粉管生長阻害物質は,無機物質やホルモン様物質とは異なるものと思われる.
  • 森口 卓哉, 石沢 ゆり, 真田 哲朗, 寺本 さゆり, 山木 昭平
    1991 年 60 巻 3 号 p. 531-538
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    成熟期と糖組成の異なるモモの糖含量とスクロース代謝関連酵素活性の季節変動を調べた.'あかつき'(早~中生品種)と'ゆうぞら'(晩生品種) はグルコースとほぼ同量のフルクトースを含んでいたが,'長野野生桃早生'(中生品種)と'ほうきもも'(晩生品種)はフルクトース含量が少なかった.いずれの品種も成熟期にはスクロースが主たる糖であった.果梗中には転流型糖であるソルビトールが多く含まれていたが,他の糖もかなりの量で存在していた.成熟期や糖組成の差異にかかわらず,すべてのモモで,スクロースの蓄積に伴いスクロース合成酵素活性が上昇したが,スクロース-6-リン酸合成酵素活性はスクロース蓄積期にも低いレベルで推移した.酸性インベルターゼ活性はすべての品種において果実の成熟に伴い減少した.ウリジン-5'-ジホスフォーグルコースピロホスホリラーゼ活性は果実の生育に伴い減少し,'長野野生桃早生'以外の品種においては成熟期にわずかに上昇したものの,活性の季節変動に大きな差は認められなかった.以上の結果より,モモ果実のスクロースの合成と蓄積にはスクロース合成酵素が重要な役割を果たしていることが推察された.
    さらに,モモ未熟果よりスクロース合成酵素の部分精製を行い,酵素の化学的性質とスクロース代謝関連酵素活性の季節変動から,モモおよび他の果実や果菜類でのスクロース蓄積特性を論議した.
  • 森下 昌三, 山川 理
    1991 年 60 巻 3 号 p. 539-546
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    1.簡易低温処理施設を利用した早生型イチゴの早期選抜法を確立することを目的として,その基礎資料を得るために早晩性の異なる品種を用いて,花成誘導処理期間と早晩性との関係を検討した.
    2.'女峰','とよのか','はるのか'および'はるよい'では遅くとも花成誘導開始15日目には最終葉が決定し花芽形成が始まったが,'八千代'では20日目においても葉分化が認められた.
    3.花成誘導に必要な処理期間は品種によって異なり,'女峰''とよのか'および'はるのか'では15日処理で100%,'はるよい'では20日処理で100%花成誘導されたが,'千代田'および'八千代'は20日処理においても完全に花成誘導されることはなく,それぞれ50%および11%にとどまった.
    4.処理直後の花芽検鏡結果と出らい状況とはほぼ一致し,生長点に肥厚が認められたものは栄養生長に復帰することなくその後も花芽形成を継続すると考えられた.
    5.花成誘導に失敗した株は無処理区とほぼ同じ時期に出らいした.これらの株は定植後の9月上中旬以降に自然条件で花成誘導されたと考えられた.このことから,花成誘導が不完全な段階で非誘導条件に移された場合,誘導以前の状態に戻ることが示唆された.
    6.花成誘導された株の第二花房は無処理区の第一花房と同じかやや遅れて出らいしたことから, 第一花房の花成刺激は第二花房には影響しない一過性のものであると考えられた.
    7.品種の早晩性と花成誘導処理期間との間には一定の関係があり,早生品種ほど花成誘導処理期間が短く,晩生品種ほど長くかかることが明らかになった.この結果,花成誘導処理によって早生型イチゴを早期選抜できる可能性が示唆された.
  • 寺林 敏, 滝井 謙, 並木 隆和
    1991 年 60 巻 3 号 p. 547-553
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    トマト(品種:大型福寿)を水耕栽培し,昼間(7時から19時)と夜間(19時から翌朝7時)各々の時間帯における養水分の吸収量を測定し,養水分の昼間と夜間の吸収の違いを比較,検討した.
    栽培時期の違いにかかわらず,1日の全吸収量に対する夜間の吸収量の割合(夜間吸収率)は硝酸態窒素,リン,カリウム,カルシウム,マグネシウムの中で,常にリンがいちばん高く,40~50%の値を示した.五つの養分の中では,カルシウムの夜間吸収率が水分の夜間吸収率にもっとも左右されやすかった。養水分の夜間吸収率は低温期に高い値を示す傾向が認められた.
    測定した養分の間では,陽イオンと陰イオンの吸収量の関係は,相対的に,昼間では陽イオンが,夜間では陰イオンが多く吸収されていた.
    これらの結果から,リンは夜間においても積極的に吸収され,1日のうちでの吸収量の変動が極めて少なく,1日のうちでの光強度や気温の変化ならびに吸水量の変化にも影響を受けにくいことが示された.
  • 久保 省三, 嶋田 永生, 岡本 信行
    1991 年 60 巻 3 号 p. 555-566
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本試験では,培土の理化学性のみの異なる条件で数種の果菜類を育苗し,培土条件の相違が苗の形態的指標および養分含有率,吸収量に及ぼす影響を検討した.得られた結果は以下のとおりである.
    1.各作物とも展開葉数の変動は小さく,特にキュウリでその傾向が強かった.
    2.培土条件の相違による変動は,各作物とも葉重,茎重,地上部重で大きかったが,地上部生育の形態的指標間には各々正の相関が認められ,各形態の生育は地上部重の大小と概ね並行的であった.
    3.地下部生育と地上部生育との関係は作物によって異なり,トマトでは正の相関が認められ地下部生育と地上部生育が並行的であったが,キュウリ,ナスではまったく相関が認められなかった.
    4.培土条件の相違により,葉茎比,地上部重/草丈の変動は小さく,TR比,SR比の変動は総じて大きかった.
    5.各作物とも養分含有率および吸収量の各成分間の相互関係は明らかでなかった.しかし,トマト,ナスなどのナス科果菜類では地上部生育と窒素含有率の問に高い正の相関が認められた.
    以上の結果から,培土の理化学性のみが異なる条件で育苗した場合,地上部生体重,根重,TR比が培土条件による変動が大きく,かつ各々に独立した指標であると考えられた.
  • 長谷川 繁樹, 船越 建明, 桂 直樹, 吉岡 宏
    1991 年 60 巻 3 号 p. 567-574
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ワケギりん茎の休眠打破に及ぼす水の影響を明らかにするために,加圧および減圧下での吸水処理を行って吸水とほう芽の関係,吸水部位とその程度,肥厚葉と休眠の関係および吸水処理と呼吸量の関係について検討した.
    25および200kPaの圧力下における吸水処理でのりん茎の吸水率は,100kPa吸水処理に比べて高くなった.ほう芽までの日数は100kPa吸水処理に比べ25kPa吸水処理で26日,200kPa吸水処理で30日早くなった.また,りん茎の吸水率とほう芽までの日数の間には1%水準で有意な負の相関関係が認められた.
    25kPa吸水処理によるりん茎の主な吸水部位は肥厚葉であった.貯蔵葉でも外側の部分でわずかに吸水が認められたが,休眠打破との関係はなく,また,盤茎への吸水は認められなかった.
    りん茎の肥厚葉を剥離するとほう芽が早くなった.その効果は剥離程度が強いほど高く,すべての肥厚葉を剥離すると直ちにほう芽した.
    肥厚葉の呼吸活性は25kPa吸水処理区では処理後3日目までに急激に高まり,その後も高く維持された.一方,無処理区および100kPa吸水処理区でも呼吸活性がやや高くなったが,その水準は25kPaよりかなり低かった.また,盤茎の呼吸活性は,休眠中も高く維持されていた.
    以上のことから,ワケギりん茎を吸水処理すると主として肥厚葉に水が入ることによって肥厚葉で生理的変化が引き起こされ,休眠が打破されたものと結論された.
  • 吉田 裕一, 藤目 幸擴, 中條 利明
    1991 年 60 巻 3 号 p. 575-581
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    大果系イチゴ (Fragaria×ananassa Duch.) '愛ベリー'の花器および果実の発育に対する温度の影響 (15°, 20°,25°C一定, 25°/15°C=6:00~18:00/18:00~6:00,無加温ガラス室)について検討した.
    1.雄ずい分化期までは温度処理区間の花芽発育段階の差はわずかであったが,雌ずい分化期以後の花芽の発育は高温で促進され,特に雌ずいの発育が早かった.
    2. 15°Cでは,花床上に形成される雌ずい列数が増加し,花床頂部と基部の雌ずいの発育段階の差が大きくなり,奇形果が多発した.雌ずい分化終了期以後平均気温15°C以下で経過した対照区は,開花期が遅く花芽の発育は抑制されたが,開花期における雌ずいの発育段階の差は小さく,奇形果の発生は15°C区より少なかった.
    3. 奇形果発生は20°C区, 25°/15°C区が少なかったが,果実重が小さかった.
    以上のことから,平均気温を15°Cより高く維持することが奇形果発生防止のために有効であると考えられる.
  • 景山 詳弘
    1991 年 60 巻 3 号 p. 583-592
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    第1花房開花期の水耕トマトにおいて, 培養液中の窒素濃度が生育と窒素吸収量に及ぼす影響を調査した.実験は品種'強力米寿'と'TVR-2'を用いて, は種後44日目 (11月7日) から13日間行った. 実験区は窒素濃度を2日ごとに補正し, 常に100ppmに維持した区と, 最初0ppmに2日間おいて, 以後2日遅れで100ppm区において前2日間に吸収された量と同じ窒素量を与えた0+αppm区を設けた. 0+αppm区の生体重は2日遅れで100ppm区のものとほぼ同じになるという増加の推移を示した. 乾物重も生体重と同様, 2区の関係は2日違いで同じであった. つまり, トマトは0ppmに近い濃度でも100ppm濃度での窒素吸収速度とほぼ同じ速度で窒素を吸収し, その吸収量に比例した生育量を示した.
    また, 供試した2品種間では, 生育量と窒素吸収量は量的には品種固有の差があり, '強力米寿'の方がTVR-2'より多かったが, 窒素吸収量と生育量が比例関係にあるという点では同じであった.
    次に, 水耕2段どり栽培において, 培養液中の窒素濃度を1週間ごとに補正して100ppm区に維持した区と, 栽培終了までの全窒素量として1株当たり4gを与えた区を比較した. 2区の間で, 生体重の増加速度は果実肥大期までは同じであり, 収量もほぼ同量であった.しかし, 実験終了時の100ppm区の茎葉重は4g施用区の1.6倍であった. 一方, 実験期間中の100ppm区における総窒素吸収量は4g施与区の約1.7倍であったにもかかわらず, 果実への窒素の分配量は両方の区で同じであった. つまり, 吸収された窒素の果実生産効率 (窒素1g当たりの果実生産量) が, 100ppm区ではかなり低くなることを示した.
    以上から, トマトは吸収した窒素の量に応じた生育をし, 果実を生産するものと考えられた. したがって, 水耕トマトにおける培養液の窒素管理は, 従来から行われている濃度に基づいた方法より, 生産量に見合った窒素量を施すという, 量に基づいた方法の方がより効率的であると考えられる.
  • 橘 昌司, 小西 信幸, 神田 啓臣
    1991 年 60 巻 3 号 p. 593-599
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    キュウリ'久留米落合H型'の葉と根のin vivoおよびin vitro硝酸還元酵素活性の自然光下での日変化を調べた.
    根の硝酸還元酵素活性はin vivo, in vitroともに日変化しなかった. これに対して葉の硝酸還元酵素活性は明確な日変化を示し, in vitro活性は日中には日射量にほぼ比例して変動し, 日没後は変化せずに低い値で推移した. 一方, in vivo活性の日変化はin vitro活性の日変化と一致せず, 正午頃に最低になったあと次第に高まり, 日没頃に最大になってその後は翌朝まで次第に低下した. 一定照度の人工光下で栽培したキュウリの葉のin vivo硝酸還元酵素活性も消灯後に最大になるという日変化を示した.
    葉の硝酸態窒素濃度は午前中から次第に低下して午後3時頃に最低になり, その後は翌朝まで緩やかに増大した. 葉の硝酸態窒素濃度を代謝プールと貯蔵プールに分けて調べたところ、代謝プールは正午から午後3時にかけてはほとんどゼロとなった. この時間帯では, 活性測定培地から硝酸塩を除いた場合のin vivo活性は著しく小さかった.
    根の硝酸還元酵素活性はin vivo, in vitroともに葉の活性より低く, キュウリでは葉が主要な硝酸還元の場であると考えられた.
    以上の結果から, 葉における硝酸還元は正午頃に最も盛んになるという日変化をしていると考えられるが, in vivo活性が日中に最低になる理由についてはさらに検討する必要がある.
  • Mohammad Ali, 大久保 敬, 藤枝 國光
    1991 年 60 巻 3 号 p. 601-612
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    Solanum melongena, S. melongena var. insanumおよびそれらの一代雑種では, 0.5~2.0mg•liter-1の2,4-dichlorophenoxyacetic acid (2,4-D) を添加したMurashige and Skoog (MS) 培地で培養した実生の下胚軸外植体が, 体細胞胚形成能を示した. S. gilo, S. integrifoliumおよびそれらとS. melongenaとの一代雑種では, 2,4-D, indole-3-acetic acid, 3indole -butyric acid, あるいは1-naphthaleneacetic acidを,単独または6-benzylaminopurineと組み合わせたMS培地のいずれにおいても, 下胚軸外植体が体細胞形成カルスを分化しなかった. したがって, S. melongenaの2,4-Dによる体細胞胚形成反応は劣性遺伝子支配か, または異種ゲノムのエピスタシスで抑制される形質と思われる.
    一方, 上記のSolanum属植物はいずれも, 下胚軸外植体からの不定芽形成が, ホルモン無添加のMS培地で誘起された. ただし, 体細胞形成能を示した遺伝子型では, 外植体の不定芽形成率が概して低かった.
    S. melongenaの体細胞胚形成過程の組織学的調査で, 体細胞胚形成カルスは前胚を形成する前に2次生長することが確かめられ, また体細胞胚の発育が受精胚に似た経過を辿ることが観察された.
  • 時本 巽
    1991 年 60 巻 3 号 p. 613-618
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    野生種を含むブドウを, 種苗特性分類基準の外観的形質により分類を行うため, 多変量解析の適用を検討した.
    調査は20系統, 167形質につき, 6年間行った. これらのデータを年次平均, 標準偏差, 内部相関につき検討し, 56形質を解析のために残した.
    次に2~3の形質を組合せてクラスター分析を行い,供試種を2~5クラスターに分けた.
    さらに形質を全体, 葉および新梢, 果実, 熟梢に区分し, クラスターをカテゴリーにして数量化3,4類を適用し, 供試種間の親近度を2次元プロット図により検討した.
    この方法で, V. viniferaV. amurensis, V. coignetiaeは明らかに区別され, シラガブドウはV. amurensisと別であることが分かるなど, 種間の差が判定できた. 3類では品種間の差も現れたが, サンプルの図上での分散が著しく, 分類しにくい場合もあった.
  • 吉田 裕一, 時實 充洋, 藤目 幸鑛, 中條 利明
    1991 年 60 巻 3 号 p. 619-625
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    イチゴ'愛ベリー', '宝交早生', '麗紅', 'とよのか', '女峰'の5品種を用いて, 花床上での雌ずいの分化ならびに発育と開花時の雌ずい形質について調査し, '愛ベリー'の奇形果発生要因について検討した.
    1.'愛ベリー'は花床上の雌ずい列数が多く, 雌ずい分化開始から終了までの期間が他の4品種より長かった. しかし, 雌ずいの分化速度は'宝交早生'以外の3品種より速かったことから, '愛ベリー'は雌ずい列数が多いために, 花床頂部と基部の雌ずいの分化時期の差が大きくなると考えられる.
    2.'愛ベリー'では他の品種と異なり, 花床頂部の雌ずいは基部の雌ずいより生長が遅いため, 開花時の花床頂部と基部の雌ずいの子房幅の差が大きくなる. さらに, 花床頂部の雌ずいが分化してから開花までの期間が他の品種よりも短く, 未発育のまま開花するため,花床頂部に不稔種子を伴う奇形果が形成されると考えられる.
    3.'宝交早生'は, 雌ずい分化開始から終了までの期間は短かったが, 基部の雌ずいの生長速度が5品種中最も速く, 花床頂部と基部の雌ずいの子房幅の差が比較的大きかった.
    4.'麗紅', 'とよのか', '女峰'の3品種では, 花床頂部の雌ずいは基部の雌ずいより生長が速く, 開花時の雌ずいの子房幅の差は小さかった.
  • 薛 恵民, 荒木 肇, 石 嶺, 八鍬 利郎
    1991 年 60 巻 3 号 p. 627-634
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ニンニク (Allium sativum L.) において珠芽と側球の底盤および花床部からembryogenic callusが誘導され, 不定胚の発生が観察された. また, embryogenic callusからは植物体再生の検討を行った結果, 高い再生率が得られた.
    珠芽および側球の底盤からのernbryogenic callusの誘導にはいずれもAZ培地を基本とし, p-CPA 10μM, カイネチン1μMおよび2,4-D10μMを添加した培地が適していた. 側球の底盤からのembryogenic callus形成には2,4-Dがp-CPAに比べて影響が大きいが,2,4-Dとともにp-CPAを添加することにより形成数や大きさを増大させた. 花床部の培養はBDS培地を用い,NAAとBAの影響を検討したが, embryogenic callus形成にはBAが阻害的に働き, NAA 1~10μM単独添加が良好であった.
    組織学的観察によりembryogenic callus内における不定胚の発生が確認された. また, 植物生長調節物質無添加のMS培地において不定胚が発育したが, 不正常な発育を示すものも認められた.
    Embryogenic callusからの植物体再生には植物生長調節物質の効果が認められ, NAA 1μMとBA 5~10μMの組み合わせが優れており, 75%以上のカルスがシュートを形成した.
  • 金澤 俊成, 瀬戸 晋, 水越 ゆかり, 八鍬 利郎
    1991 年 60 巻 3 号 p. 635-642
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ギョウジャニンニク (Allium victorialis L. ssp. platyphyllum Hult.) の生育特性および養分吸収特性を明らかにする目的で, 生育経過ならびに無機成分含有量の変化を調査した.
    1. 2~3葉の葉がほう芽期から展葉期にかけて急激に伸長し, 8月から9月にかけて枯葉したが, りん茎は枯葉期まで肥大した. またほう芽葉芽は生育期間を通して伸長した.
    2. 生体重および乾物重は葉の生長とともに著しく増加し6月にピークを示したが, それ以後9月まで減少し10月以降再度増加した.
    3. 窒素, リンの株当たりの含有量は4月から8月にかけて増加を続け, カリウムおよびカルシウムは4月から6月にかけて増加していることから, この時期に養分の吸収が活発に行われていることが推察された.
    4. 各成分はほう芽期から抽だい•開花期まで葉に多かったが, その後りん茎と根に移行し, 休眠期以降は根に多く含まれた. ほう芽葉芽の各成分含有量は秋まで増加し続けた.
    5. リンの含有率は他のネギ属植物に比べて高く,ギョウジャニンニクの特徴の一つと考えられた.
  • 鈴木 誠一, 堀 裕
    1991 年 60 巻 3 号 p. 643-650
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    1. センニンソウの栄養生長は自然日長下では昼/夜温24。/19°C, ないし30°/25°Cで良好であり, 17°/12°Cではほう芽•伸長が著しく遅れ, 発らい•開花しなかった.
    2. 適温下で生育させた場合, 5,6月の間の約1か月間を8時間日長に保つことによって新梢先端が褐変•枯死した. 花芽分化 (とそれに続く発らい•開花) は自然日長 (終始14時間以上で推移) および16時間日長によって誘起されたが, 8時間および12時間の日長では誘起されなかった. このような長日による花芽分化の誘起には, ほう芽後約1か月を経た6月以降, 約1か月間の処理が必要と認められた.
    3. 16時間日長を6月末で打ち切って8時間日長に戻した区は, 7月末に戻した区に比べて発らい•開花が明らかに遅れた. したがって, 分化後の花芽•花房の発達は16時間日長によって抑制されるものと考えられた.
    4. 自然日長下, GA3100および1,000ppm処理は,無処理に比べて, 概して栄養生長と発らい•開花を早めたが, 特に8回散布区で花数を著しく減少させた.8回散布区では雄しべが退化し, 雌ずいを欠いた不完全花が多数見られた. また, 正常花, 不完全花を問わず,雄しべの弁化に伴う多がく片花がみられた.
  • 米田 和夫, 百瀬 博文, 窪田 聡
    1991 年 60 巻 3 号 p. 651-657
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    未熟および成熟したファレノプシス株の花茎発生ならびに開花に及ぼす日長と温度の影響を調べるため,人工気象室を利用して, 1986年は28°と23°C, 1987年は28°と22°Cによる温度処理と, 8時間日長 (9am~5pm) と自然日長の日長処理を組み合わせ実験を行った.
    1. 1986年の花茎発生率は, 未開花株の23°C8時間区は自然区に比べて高く, この傾向は開花株でもほぼ同様であった. 未開花株の28°C自然区では花茎は発生しなかったが, 8時間区はわずかに発生し, また, 開花株でも自然区より, 8時間区がやや高かった. 1987年においては, 28°Cで, 株齢や日長処理によっても花茎が発生しなかった以外は, 花茎の発生傾向は1986年の場合とほぼ同様であった.
    2. 未開花株の22°および23°C8時間区の開花率は自然区に比べて高く, 平均到花日数は少なかった. 開花株でも未開花株と同様であった. 両年とも28°C区は処理に関係なく開花は認められなかった.
    3. 花茎発生節位は日長処理, 温度処理や株齢に関係なく, 第4~5節位からの発生が多かった.
    4. 開花株は未開花株に比べて日長の影響が比較的少なかった. また, 未開花株より開花株において花茎は伸長した.
    5. 小花数は22°および23°Cの未開花株8時間区は自然区よりやや多く, この傾向は開花株でもほほ同様であった. また, 未開花株は開花株に比べて小花数は少なかった.
  • 市村 一雄, 山本 幸男
    1991 年 60 巻 3 号 p. 659-668
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    テッポウユリの花粉管は, 花柱溝粘液中を生長するので, 花柱溝粘液は自家不和合性の発現と密接に関係していると考えられている. そこで, 花柱溝粘液が花粉管生長に及ぼす影響とその組成を調べた.
    In vitroの試験として, 寒天培地上での影響を調べたところ, 花柱溝粘液は自家花粉管と他家花粉管に対して異なる影響を及ぼさなかった.
    In vivoの試験として, あらかじめ採取した花柱溝粘液を花柱溝に注入すると, 自家花粉管生長は著しく促進された. 促進の程度は注入した花柱溝粘液に含まれる炭水化物濃度に依存する傾向がみられた. 自家, 他家および未受粉雌ずいから採取した粘液の間で促進の程度に差はみられなかった.
    熱処理した花柱溝粘液および花柱溝粘液の高分子画分もin vivoの試験において, 自家花粉管生長を著しく促進した. 花柱溝粘液の主成分は平均分子量が約50,000であるアラビノガラクタンであった. 標品のアラビノガラクタンによっても自家花粉管生長は著しく促進された.
    以上の結果より, 花柱溝粘液の主成分であるアラビノガラクタンの不足することが, テッポウユリの自家花粉管生長を遅延させている可能性が示唆された.
  • 坂田 祐介, 有隅 健一, 宮島 郁夫
    1991 年 60 巻 3 号 p. 669-675
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    九州南部のヤマツツジ群落には花色が豊富なこと,花径に小輪から大輪までの幅があることおよびブロッチの無い花弁を持つ個体があることなど, 九州中•北部の群落に比較して形態にかなりの変異が認められた.色素分布も, 後者はシアニジン系のみに限られるのに対し, 前者はシアニジン系にデルフィニジン系の混在する個体が数多く見られることなど, 変異に富んだ様相を示した. これらの変異は, 九州南部の群落はヤマツツジにデルフィニジン系色素を持つ他の種が浸透交雑したことによって成立した可能性があることを示唆している. これに対し, 霧島山系韓国岳周辺のミヤマキリシマ群落の形態と色素分布の様相は変異にきわめて乏しかった. おそらく純粋種としてこの群落を捉えてよいであろう.
    一方マルバサツキは, トカラ列島中之島御岳の群落で花径とブロッチの出現率を除いた諸形質に変異は認められなかったが, 薩摩半島開聞岳の群落で花色に変異が認められた. 色素的にも5-メチルフラボノールやデルフィニジン系色素を含まない個体が見られ, この場合は山頂部にすでに侵入しているヤマツツジがマルバサツキとの交雑に与かり, 群落の成立に濃い影を落としたと考えられる.
    一般に異質の"germplasm"が出会うところでは, 諸形質の変異は大幅に拡大されるが, 九州南部のヤマツツジや開聞岳のマルバサツキがそうであろう. したがって将来これらの個体を育種材料として用いる場合には,本研究で認められた多くの変異の中から, より有用な個体を抽出することが肝要と思える.
  • 元岡 茂治, 林 孝洋, 美馬 義卓, 小西 耕, 小西 国義
    1991 年 60 巻 3 号 p. 677-683
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    コンピュータを利用して容器内で培養している小植物体の生長量を, 非破壊•非接触で経時的に計測する簡易な画像解析法を検討した. ビデオカメラで収録した植物体の画像を, 画像取り込みボードを組み込んだ16ビットパーソナルコンピュータで取り込み, 画像面積に占める画素数を計測した. 次いでその画像の画素数と植物の実際の草丈, 葉数, 葉面積, 生体重および乾物重との相関係数を求めた.
    1. 試験管で培養中のスパティフィラムを一定距離からさまざまな方位角で撮影し, 1試験管における画像処理数が画像面積と調査項目との相関係数に及ぼす影響について調べた。画像面積と植物の生長量との相関は, 異なる方位角で撮影した複数の画像から得られた平均画像よりも, 画像面積が最も大きい密画面の方が高かった. 密画面では, 植物体の画像面積と葉面積, 草丈, 生体重, 乾物重との間に非常に高い相関が認められた. また画像面積は植物の生長とともに増加し, 画像面積からその植物の乾物重の推定が可能であった.
    2.試験管で培養中のミヤコワスレを用いて, ビデオカメラと試験管との俯角が画像面積と調査項目間との相関に及ぼす影響について調べた. ミヤコワスレにおいても密画面の画像面積と植物の草丈, 葉面積, 生体重, 乾物重との間には高い相関が認められた. 特に俯角が0度または20度のときに, 相関が高かった. 俯角が30度ならびに45度ではガラスの歪みなどのために画像がゆがみ, 相関がやや低かった.
    3. 容積の大きいプラントボックスにミヤコワスレの複数個体を植え付けて培養した場合も, 群落の画像面積が最大となる1画面を俯角0度または90度で撮影した密画面においては, 画像面積と葉面積, 生体重, 乾物重との相関が高く, 画像解析が可能であった.
    以上, 培養容器が異なっても, また植物の種類が変わっても, 0度から20度の俯角で撮影した密画面像面積をコンピューターで計測することにより, 容器内植物の生長量の測定が非破壊•非接触で可能であった.
  • 福嶋 忠昭, 北村 利夫, 村山 秀樹, 吉田 敏幸
    1991 年 60 巻 3 号 p. 685-694
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    渋ガキ'平核無'を用い, エタノールによる脱渋機作を種々の観点から検討した. 結果は以下のとおりである.
    1. デシケータ内に果実を入れ, ふたをずらして開口部を設けて35%エタノールまたは5%アセトアルデヒド処理を施したところ, 両処理区とも果実内のアセトアルデヒド含量は4日目まで同じような値を示したにもかかわらず, エタノール処理の方がアセトアルデヒド処理より早く脱渋した。
    2. 乾熱果または煮沸果を種々の濃度のアセトアルデヒド溶液に2日間さらし, 果肉内のアセトアルデヒド含量と脱渋量の関係式を求めた. これをエタノール処理中の果実に適用すると, アセトアルデヒドの非酵素的作用だけで脱渋するには, 果実内に存在するアセトアルデヒドの量が著しく少なかった.
    3. エタノール処理の果肉組織の浸透圧と水不溶性物質の保水能は増加する傾向があった. その程度は脱渋速度が大きい処理2~4日で著しかった.
    4. 煮沸果を90°C下で乾燥すると, 目減りが増加するとともに浸透圧が増加し, 可溶性タンニン含量が減少し, 12時間後にはアセトアルデヒドの発生が認められなくても完全に脱渋した.
    5. エセホンやIAAを組織切片に与えても脱渋が認められ, IAAをへたに浸潰し放置して置くと果実は完全に脱渋した.
    以上の実験を踏まえて考察した結果, エタノールによる脱渋は, 処理によって生ずるアセトアルデヒドの非酵素的作用による水溶性タンニンの不溶化によるのみならず, エタノールによって誘導される細胞壁多糖類の分解がタンニン細胞周辺組織の浸透圧の上昇を招き, その結果タンニン細胞中の水が脱水され, 接近したタンニン分子が水素結合や疎水結合により巨大分子となって脱渋するものも相当あると推察された.
  • 板村 裕之, 北村 利夫, 平 智, 原田 久, 伊藤 教善, 高橋 芳浩, 福鳴 忠昭
    1991 年 60 巻 3 号 p. 695-701
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カキ'平核無'果実の, 採取後または脱渋後の果実軟化とエチレン生成および呼吸の関係について調査した.
    1. 幼果期から未熟期にかけて採取した果実の採取後の果実軟化の程度とエチレン生成量および呼吸量の関係を調べた結果, いずれの熟度の果実においても, 果実がまだ十分堅い状態で, エチレン生成の誘導と呼吸の増大が起こった. なお呼吸の上昇は, エチレン生成の増大が始まった後か, またはほぼ同時に起こった.
    2. 未熟果にアルコール処理を行い, 処理後のエチレン生成と果肉硬度の変化について調べたところ, 処理開始後2日よりエチレン生成の急激な増大が認められたが, 果肉硬度は採取当日の堅さを維持していた. しかしながら, 処理開始後3日から果肉硬度は急速に低下し, 処理開始後4日で, 完全に軟化した.
    3. 成熟果実に濃度の異なるアルコールを処理したところ, アルコールの処理濃度が高いほどエチレン生成のピーク値が高く, 果実の軟化も早く起こった.
    4. 未熟果にアルコールあるいは炭酸ガス処理を行い, 処理後のエチレン生成量, 呼吸量, へた脱落率ならびに果実軟化率を調べた結果, アルコール処理ではエチレン生成, 呼吸ともに対照区に比べて増大開始時期が早くなり, 炭酸ガス処理では逆に遅くなった. それに伴って, へたの脱落および果実の軟化が, アルコール処理で早まり, 炭酸ガス処理で遅れた.
    以上の結果から, '平核無果実の採取後または脱渋後の果実軟化は, エチレンによって引き起こされることが示唆された.
  • 寧 波, 久保 康隆, 稲葉 昭次, 中村 怜之輔
    1991 年 60 巻 3 号 p. 703-710
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    チュウゴクナシ'鴨梨'の樹上および収穫後の成熟特性をニホンナシ'二十世紀'およびセイヨウナシ'ラ•フランス'と対比しながら調べた.
    呼吸活性は3種類とも樹上成熟に伴って増加した.収穫後の呼吸活性は'鴨梨'と'ラ•フランス'では, 収穫熟度にかかわらずクライマクテリック•パターンを示したが, '二十世紀'では, ノンクライマクテリック•パターンであった. 樹上成熟果のエチレン生成は, '鴨梨'では収穫期における落果直前, 'ラ•フランス'では成熟期の後半頃に始まったが, '二十世紀'では過熟になってもみられなかった. 収穫果実のエチレン生成は, '鴨梨'と'ラ•フランス'では明確に認められ, ACC含量とEFE活性もエチレン生成と同調した変化様相を示した. 特に'鴨梨'のエチレン生成量は極めて多く, 最も多量の場合には380nl/g•hrにも達した. また, 収穫時期が早いほど追熟中のエチレン生成量も多い傾向があった.一方, '二十世紀'では樹上ではある程度のACC含量の蓄積がみられたが, EFE活性が低く, エチレン生成は樹上でも収穫後もほとんどみられなかった.
    樹上成熟に伴うデンプンの急減と糖含量の増加は3種類ともみられたが, 糖組成は異なり, '鴨梨'と'ラ•フランスは樹上成熟期間を通じて終始果糖含量が最も高かったが, '二十世紀'ではショ糖含量が成熟期間中急増して最も高くなった.
    樹上成熟に伴う有機酸含量は, 'ラ•フランス'でリンゴ酸が急増したこと以外にはあまり変化がなかった. 収穫後は, '鴨梨'ではリンゴ酸含量が追熟中一度増加した後減少したが, 'ラ•フランス'では漸減傾向を示した.
    果肉硬度はいずれの品種とも樹上では減少し, 特に'ラ•フランス'では著しかった. 収穫後は, '鴨梨'では追熟中に果肉硬度はほとんど減少せず, 収穫時点の硬度を保持していたが, '二十世紀'では漸減し, 'ラ•フランス'では追熟とともに急減した.
    以上を総合すると'鴨梨'果実の成熟特性は多量のエチレンを生成するにもかかわらず, 果肉硬度の保持が良好であるという点で, 特徴づけられる.
  • 高 俊平, 久保 康隆, 中村 怜之輔, 稲葉 昭次
    1991 年 60 巻 3 号 p. 711-717
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    イチジグ'桝井ドーフィン'とカキ'平核無'果実の植物油およびエタノール処理によるエチレン生成の誘導について調べた.
    緑熟段階のイチジク果実を収穫し, ナタネ油を果頂部の目から注入したところ, 急激なエチレン生成の誘導がみられ, その様相はエチレン処理による誘導様相と極めてよく一致していた. 油処理によりまず最初にエチレン生成酵素 (EFE) が急速に活性化され, その後ACC含量が徐々に増加した. エチレンの作用性の拮抗的阻害剤である2,5-ノルボルナジエン処理によりEFE活性とACC含量のいずれも増加が抑制され, 48時間後からはエチレン生成量も顕著に抑制された. ACC合成酵素の阻害剤であるアミノオキシ酢酸 (AOA) は油誘導エチレンをほぼ完全に抑制した. カキ果実切片もナタネ油の減圧浸透処理によりエチレン生成の誘導がみられたが, 生成量はイチジクに比べると少なかった.
    イチジクとカキ果実をエタノール蒸気処理したところ, 急激なエチレン生成の誘導がいずれの果実でも認められた. イチジクでは, EFE活性は0.5~1.Oml/100gFWのエタノール処理濃度で最大となり, それ以上ではかえって抑制されたが, ACC含量はエタノール濃度が高いほど増加する傾向がみられた. このエタノール誘導エチレンはAOAによりほぼ完全に阻害された.
    以上のことから, 油およびエタノール処理により誘導されたイチジクおよびカキ果実のエチレンは, ACC経路による一種のストレスエチレンに由来するように思われる.
  • 黒田 治之, 匂坂 勝之助, 千葉 和彦
    1991 年 60 巻 3 号 p. 719-728
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    木本類植物の耐凍性差の生化学的機構を明らかにするために, 厳寒期におけるリンゴ属植物 (Malus) 9種 (3品種を含む) を用いて, 耐凍性と過酸化物代謝の関連について検討した.
    1. リンゴ属植物の枝の耐凍性は次のように高低4階級に分けられた.
    低いもの: M. pumila var. domestica ('紅玉')
    M. halliana
    やや低いもの: M. pumila var. domestica ('デリシャス'), M. asiatica
    やや高いもの: M. pumila var. domestica ('旭'),
    M. prunifolia var. ringo, M. sieboldii,
    M. sieboldii var. arborescens,
    M. platycarpa

    高いもの: M. baccata, M. astracanica
    2. 過酸化物分解系の酵素活性は皮層部と木部のいずれにおいてもM. pumila var. domesticaの3品種とM.astracanica, M. asiatica, M. baccataで高く, M. prunifolia var. ringo, M. halliana, M. sieboldii, M. sieboldii var. arborescens, M. platycarpaで低かった.主要な過酸化物生成系である電子伝達系のNADH-CcRとCcO活性も同様の結果を得た. 皮層部と木部のいずれにおいても, 一部の例外を除いて過酸化物分解系の酵素活性と過酸化物生成系の酵素活性との間には有意の相関関係がみられ, 特にG6PDH活性とNADH-CcR (皮層部, r=+0.944**;木部, r=+0.877**) あるいはCcO活性 (皮層部, r=+0.973**;木部, r=+0.937**) との間に高い相関係数が得られた.
    3. NADH-CcR活性/G6PDH活性比あるいはCcO活性/G6PDH活性比を酸化ストレスに対する感受性を表す細胞内状態の指標 (oxidizability index, OI) と定義し, OI値と枝の耐凍性の関係を検討した. 枝の耐凍性と皮層部のOI値の間には一定の関係がみられなかった. しかし, 枝の耐凍性と木部のNADH-CcR活性/G6PDH活性比 (r=-0.793**) あるいはCcO活性/G6PDH活性比 (r=-0.662*) の間には負の高い相関係数が得られ, 枝の耐凍性は木部組織のOI値が高い種あるいは品種ほど低いことが示された.
    以上の結果から, 厳寒期におけるリンゴ属植物の枝の耐凍性は木部の過酸化物代謝と密接に関係しているものと考えられる.
feedback
Top