園芸学会雑誌
Online ISSN : 1880-358X
Print ISSN : 0013-7626
ISSN-L : 0013-7626
イチゴ'愛ベリー'の花芽発育と奇形果発生に対する窒素栄養の影響
吉田 裕一藤目 幸擴中條 利明
著者情報
ジャーナル フリー

1992 年 60 巻 4 号 p. 869-879

詳細
抄録

大果系イチゴ(Fragaria×ananassa Duch.)'愛ベリー'の花器,特に雌ずいの分化,発育と奇形果発生に対する窒素施与量(0,21,42,84,126mg-N/株•週)と施与開始時期(10月1,11,21,31日,11月10,20日:84mg.N/株•週)の影響について調査した.
1.花芽発育段階の進行と1番花原基の直径の増加速度は,窒素施与量が21mg以上の処理区間に差は認められなかったが,0mg区ではきわめて遅かった.花芽形成開始後,窒素施与開始時期が早いほど,花床上で分化する雌ずい列数が増加し,花床基部の雌ずいと頂部の雌ずいとの分化時期の違いが大きくなった.その結果,開花時における花床頂部の子房幅,頂部と基部の子房幅の比(T/B比)は小さくなり,果実先端部に不稔種子を伴う奇形果が多発した.
2.雌ずい分化初期(11月10日)を過ぎれば,多窒素施与の影響は特に小さく,雌ずい列数,T/B比は小さくなった.また,がく片分化期以後(10月21,31日)に窒素施与を開始した場合,奇形果発生は抑制されたことから,雄ずい分化期頃までの多窒素施肥が奇形果発生に強く影響すると考えられる.
3.受精後の雌ずいの発育には光合成産物の競合も影響していると考えられるが,花床基部と頂部の雌ずいの分化時期の差が大きいことが多窒素施与区における奇形果発生の最も大きな原因であると考えられる.奇形果発生を抑制するためには,この分化時期の差を小さくするために,花芽発育期,特に雄ずい分化期頃までの葉柄中硝酸態窒素濃度を0.10~0.15%(乾物当たり)に制御することが望ましいと考えられる.
謝辞本論文の作成に当たり,御指導,御助言を賜った元京都大学教授藤本幸平博士に深く感謝致します.

著者関連情報
© 園芸学会
前の記事 次の記事
feedback
Top