抄録
源助ダイコンを盛夏に栽培すると根部中央部に空洞が発生する空洞症が多発する. この空洞は根部中央部に発生した細胞間隙が発達したものである. この間隙は普通大型の柔細胞で充填されるが, 高地温下では柔細胞の充填が阻害されるため空洞へと発達する. 一般に細胞は一度木化すると細胞分裂も細胞肥大も停止する. そこで本研究では空洞の発生と細胞間隙の周辺の柔細胞の木化との関係を明らかにしようとした.
高地温下の葉重と根重は中地温および低地温下のものに比べて小さかった. 細胞間隙の周辺の柔細胞は高地温のものではフロログリシン-塩酸溶液で赤く染色されたが, 他の地温のものは染まらなかった. 早播きでは晩播きに比べ根部の生育は促進された. 早播きした場合の地温は晩播きに比べて6°~12°C高かった。早播きでは細胞間隙の中に大型の柔細胞の増生はみられなかったが, 晩播きでは認められた. 播種後60日目の根部では大きな褐色の空洞から小さい白色で充填された痕跡のみられる空洞まであった. 空洞の発生した根部の中心部は前者ではフロログリシン-塩酸溶液で赤く鮮明に染色されたが, 後者では薄いピンク色にしか染まらなかった. これらのことより以下のような推論ができる. 高地温下では細胞間隙の周辺の柔細胞が木化するため, 間隙への柔細胞の増生•侵入が阻害され間隙は発達し空洞となる. これに反し, 適地温下では木化が起きないため間隙の周辺の柔細胞から大型の細胞が間隙の中へと侵入し間隙は充填されていくため空洞へと発達しない。