園芸学会雑誌
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自家不和合性テッポウユリの花柱溝粘液の分泌量とその組成の自家および他家受粉による変動
市村 一雄山本 幸男
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1992 年 61 巻 3 号 p. 609-617

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抄録

テッポウユリの花粉管は花柱溝粘液中を生長するので, 花柱溝粘液は自家不和合性の発現と密接に関係していると考えられている。そこで花柱溝粘液が自家花粉管生長に及ぼす影響を調査するとともに, 花柱溝粘液の自家および他家受粉後の分泌量とその組成について追究した.
自家花粉管生長は花柱溝粘液の注入により促進された. 促進の程度は注入した花柱溝粘液量に依存し, 特に80mg•ml-1の炭水化物濃度に相当する濃度では他家花粉管生長と有意差のない生長を示した.
炭水化物含量とタンパク質含量に基づいた受粉後の花柱溝粘液量に, 自家受粉雌ずいと他家受粉雌ずいとの間で著しい差はみられなかった.
アラビノガラクタンを主成分とする花柱溝粘液の組成にも自家受粉雌ずいと他家受粉雌ずいとの間で著しい差はみられなかった.
花柱溝粘液の真の分泌量は花柱溝に残っている量と花粉管に利用された量の合計であると考えられる. 雌ずいを14C-グルコースでラベルし, 花柱溝粘液と花粉管に取り込まれた14Cを測定すると, 花柱溝粘液に取り込まれた14Cには自家受粉雌ずいと他家受粉雌ずいとの間で差はみられなかったが, 花粉管に取り込まれた14Cは,他家花粉管は自家花粉管の2倍程度の値を示した. これより, 花柱溝粘液の真の分泌量は他家受粉後の方が自家受粉後より多いことが示唆された.
以上の結果より, テッポウユリの自家不和合性は花柱溝粘液の供給が不足するために引き起こされるものと考えられた.

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