抄録
浸種やプライミングなどの播種前処理を行ったニンジン種子について,異なる水分ストレス条件下における発芽および幼根の生長を,無処理種子のそれらと比較した.
発芽率は,-1.0MPaにおいて,無処理種子では明らかに低下し,浸種種子でも低下する傾向が認められたが,プライミング種子では低下が認められなかった.ニンジン種子においては,発芽率にみられる水分ストレスに対する感受性は,播種前処理中の発芽過程の進行により低くなると考えられた.
平均発芽所要日数は,無処理および浸種種子では浸透ポテンシャルの低下に伴って増大し,その度合いは浸種種子の方が大きかった.しかしながら,プライミング種子では,平均発芽所要日数は-0.4あるいは-0.6MPaまでまったく増大しなかった.プライミング種子と浸種種子との間で認められた,発芽所要日数の水分ストレスに対する感受性の違いは,播種前処理中の種子細胞内の浸透調節に起因することが示唆された.
発芽所要日数の変動係数には,浸透ポテンシャルの影響が認められなかったことから,発芽所要日数のばらつきは,水分条件に影響されないと考えられた.
幼根の伸長速度は,無処理および浸種種子では-0.4MPa以下で,プライミング,催芽,およびプライミング後催芽の各種子では-0.2MPa以下で浸透ポテンシャルの低下に伴って低下し,催芽およびプライミング後催芽の両種子で低下の度合いが大きかった.幼根の生長の水分ストレスに対する感受性は,無処理種子と比較して,プライミング種子ではやや高く,催芽およびプライミング後催芽の両種子では著しく高いことが明らかになった.