抄録
ニホンナシの自家不和合遺伝子型 (S遺伝子型) が決定されていない品種を含む多品種の花柱タンパク質を用い, S遺伝子型と花柱タンパク質との関係を等電点電気泳動法によって調査した. その結果, 現在までに知られている7種類の複対立遺伝子のうち, S1~S5遺伝子に対応した5種類のタンパク質バンド (S-タンパク質) を検出した.
これらのS-タンパク質バンドは, pH3.5~9.5のアンフォラインを用いて泳動すると陰極電極の極く近辺に分離されたことより, かなり塩基性のタンパク質であると考えられた. それぞれのバンドは陰極側からS1, S4, S2, S5, S3遺伝子に対応しており, この配列は佐々ら (1992,1993) が報告したバンド配列とは異なっていた. S1, S5およびS3タンパク質バンドはクーマシーブリリアントブルーで濃く染色され, S4タンパク質バンドは比較的薄く, S2タンパク質バンドは極薄く染色された. なお, 愛宕と松風で塩基性タンパク質バンドが全く認められなかったことから,中性または酸性のS-タンパク質が存在する可能性が示唆された.
それぞれのS-タンパク質バンドは, 酸性部分のS-タンパク質とは無関係なバンドと比較すると極めて弱い活性であったが, RNase活性を示した.