抄録
イチジク果実の細胞壁成分の品種間差異を明らかにするため,カプリ系の'VC-180'(ビオレー•ドーフィン×カプリフィッグ6085),サンペドロ系の'キング','サンペドロホワイト',普通系の'桝井ドーフィン'蓬莱柿'を供試し,細胞壁の成分をペクチン質(水,熱水,EDTA画分)とヘミセルロース,セルロース画分に分けて,ウロン酸と中性糖含量を調べた.また,果実の成熟過程における細胞壁成分の変化を調べるため,桝井ドーフィンを供試し,着色割合が1分,5分,10分の果実で細胞壁成分含量を比較した.
1.カプリ系'VC-180'の果実は,サンペドロ系および普通系品種に比べて,熱水,EDTA,ヘミセルロース,セルロースの各画分で,ウロン酸と中性糖を合計した総糖含量が多かった.サンペドロ系と普通系品種の果実では,セルロース画分の中性糖含量の品種間差が大きかった.
2.'桝井ドーフィン'果実の着色程度別の細胞壁成分含量を単位重量当たりで比較した場合,水画分のウロン酸含量は5分着色果で最も多かったが,熱水およびEDTA画分では着色の進んだ果実ほどウロン酸含量が少なく,またペクチン質の合計量も同様の傾向であった.水,熱水およびEDTA画分の中性糖含量は,着色程度の違いによる差が小さかった.ヘミセルロースおよびセルロース画分は,ウロン酸,中性糖含量ともに着色の進んだ果実ほど少なかった.
3.'桝井ドーフィン'果実の細胞壁成分を1果当たりに換算したところ,水画分のウロン酸含量は着色の進んだ果実ほど多く,熱水およびEDTA画分では逆に少なくなった.中性糖は着色の進んだ果実の水,熱水画分で多かった.また,ペクチン質の総糖含量と,ヘミセルロースおよびセルロース画分のウロン酸,中性糖,総糖含量は着色程度の違いによる差が認められなかった.