ブドウの芽の休眠打破機構を明らかにするために,芽の休眠打破とシアン生成に深くかかわりのあるエチレン生成との関連を調査した.1.'デラウェア'の休眠枝から採取した挿し穂の芽と切り口に,エチレン前駆物質のACC,エチレンガスおよびエチレン発生剤であるエテホンを処理したところ,ACC処理には明らかに休眠打破効果が認められたが,エチレンおよびエテホン処理には効果が認められなかった.2.45℃の温湯浸漬により休眠打破処理した'デラウェア'の休眠枝に,処理後直ちにエチレン合成阻害剤であるアミノオキシ酢酸(AOA)および塩化コバルト,エチレン作用阻害剤であるチオ硫酸銀(STS)を塗布処理したところ,AOAおよび塩化コバルト処理では萌芽の抑制が認められたが,STS処理では萌芽は抑制されなかった.3.'デラウェア'の休眠枝に,シアン化合物である石灰窒素20%上澄液,シアナミド10%水溶液,シアン化カリウム10%水溶液およびシアン化ナトリウム10%水溶液をそれぞれ塗布処理したところ,いずれのシアン化合物においても休眠打破効果が認められた.その内,石灰窒素およびシアナミドにおいて休眠打破効果が顕著であった.以上のことから,ブドウの芽の休眠打破には,エチレンそのものではなく,エチレン生合成に伴って同時に生成されるシアンが重要な役割を果たしているのではないかと推察した.