園芸学会雑誌
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低酸素条件下の根のエタノール, 乳酸およびリンゴ酸代謝と細胞液 pH におけるトマトとキュウリ間の差異
郭 世栄名田 和義加藤 仁橘 昌司
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1999 年 68 巻 1 号 p. 152-159

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抄録
キュウリの根域低酸素に対する耐性機構を明らかにする目的で, キュウリ'シャープI'と根域低酸素耐性が劣るトマト'ハウス桃太郎'を用いて, インタクト植物の根と分離根におけるエタノール, 乳酸およびリンゴ酸代謝と細胞液pHに及ぼす培養液の溶存酸素濃度(DO)(0, 1, 4 ppm)の影響について比較検討した.トマトでは, いずれの根においてもDO 1 ppm以下ではエタノールと乳酸が蓄積し, アルコール脱水素酵素(ADH)および乳酸脱水素酵素(LDH)活性が著しく上昇した.また, リンゴ酸濃度は低DO下で僅かながら低下した.これに対して, キュウリ根ではDO 0 ppm区の分離根で乳酸濃度がわずかに上昇した以外は, エタノールと乳酸の蓄積はほとんどみられず, 酵素活性についても, ADH活性が低DO下でわずかに上昇したのみであった.また, 根のリンゴ酸濃度はDO 1 ppmで著しく上昇したが, DO 0 ppmでは上昇はみられなかった.一方, インタクト根の細胞液pHは, トマトではDO 1 ppm以下で著しく低下したが, キュウリでは, DO 1 ppmでは変化せず, DO 0 ppmでは逆に顕著に上昇した.以上の結果から, キュウリ根には, 根域酸素濃度が低下すると, リンゴ酸生合成の代謝系を活性化して, 乳酸蓄積による細胞質アシドーシスを回避するという代謝特性があり, これがキュウリの根域低酸素耐性に関与している最も重要な要因の一つであると考えられる.
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