抄録
PLB形成に関与する表皮系組織切片(OT)の細胞分裂は, OTの外側の細胞層(表皮側)から始まった.細胞分裂頻度は外側の細胞層(第1層から第3層)が盛んで, 分裂方向は外側の細胞層が主に垂層分裂, 内側の細胞層が垂層分裂と並層分裂を行っていた.また分裂細胞群の分裂頻度は中央部で活性化し, これらのことからOT外植体からの球状体のPLB形成の様相が推察された.OT外植体の分裂性細胞に対する植物ホルモンの影響は, NAAとBAとの間で大きく異なった.細胞分裂活性はBAを添加した処理区で培養期間を通して高くなったが, NAAを添加した処理区ではほとんどの培養体において分裂活性が確認できなかった.細胞の大きさは, BA区で最小化し, NAA区で最大化した.このことからNAAは細胞を成熟させ, BAは若い分裂細胞へと変化させるものと考えられた.また核DNA含量を調査した結果, BA区や対照区では培養期間を通して2c核と4c核とで安定していたが, NAA区では培養期間が進むにつれて核DNA量が8c核や16c核まで増加した.以上のことから植物ホルモンは細胞周期に大きく影響を及ぼしているものと考えられた.即ちNAAはDNA生成を抑制はしないものの有糸分裂を抑制していると考えられ, S期からM期かけて大きな影響を及ぼすと推察された.また細胞分裂活性と細胞の大きさの結果から植物ホルモンはG1期の長短にも影響を与えるようである.これらのことから, 植物ホルモンによって引き起こされる培養中の変異は, その原因の一つとして細胞周期の乱れから生じるように考察された.