抄録
ブドウ'ピオーネ'の成木で, 毎年着色が良好な樹(A, B)と不良な樹(C, D)から穂木を採取し, それをテレキ5BB台木に接ぎ, 得られた個体を同じ園内に定植して新梢や果実の生長を比較した.さらに, 樹体間で果実着色に違いが生じる点を, 13C光合成産物の転流・分配の面から検討した.新梢生長, 新梢当たり葉面積, 葉のクロロフィル含量には着色良好樹, 不良樹間に差がなかった.果実肥大は, 良好樹, 不良樹間の差よりも樹体間差の方が大きかった.果実の糖含量と果皮のアントシアニン含量は, 成熟期間を通して不良樹よりも良好樹で多く, 特に成熟開始2∿3週間後以降に両者の差が大きく現れ, 収穫時には後者が前者の2∿3倍であった.本梢葉の13C濃度は, 処理終了時には不良樹よりも良好樹で高かったが, その後は良好樹, 不良樹とも急速に低下し, 72時間後には両者に差がなくなった.副梢葉の13C濃度は良好樹, 不良樹間に大差なかった.果実の13C濃度は, 両者とも処理終了後急速に上昇したが, 72時間後以降の上昇は不良樹よりも良好樹で大きかった.処理終了120時間後の新梢各部における13C分配率は, 果実では不良樹よりも良好樹で高かったが, 本梢葉では逆に不良樹で高かった.これらのことから, 'ピオーネ'における果実着色の樹体間差には成熟開始期以降における光合成産物の果実への転流量の違いが関係していると観察された.