園芸学会雑誌
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機械油乳劑の植物に及ぼす害作用, 特に油の諸性質と害作用との關係に就て
杉山 直儀
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1938 年 9 巻 1 号 p. 70-92

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抄録
1. 日本石油株式會社のCマシン油 A スピンドル油, Bスピンドル油,白スピンドル油, ダイナモ油, ライトダイナモ油, 80號, 120號, 140號, 170號潤滑油に就て大麥幼植物, 及び果樹の葉に塗布した結果, 白スピンドル油を除く他の總ての油は何れも著しい藥害を惹起し, 植物に對して甚だ有害な事を認めた。白スピンドル油による藥害は比較的輕微である。流動パラフィンは全く藥害を起さない。
2. 油乳劑として撒布する場合は油を塗布する場合に比して藥害は一般に輕微であるが, 1%乳劑として撒布してもCマシン油, Aスピンドル油, Bスピンドル油は夏期梨に對して尚藥害を惹起す。
3. Bスピンドル油と白スピンドル油の粘度の最も低い2種の油を除く他の油は總て撒布後或は塗布後長く葉中に油が殘溜するのが認められる。此は植物の生理的障碍と關聯して重要な現象と思はれる。
4. 硫酸にて油を洗滌すると精製の程度が高くなるに從つて藥害は少くなる。Aスピンドル油, Bスピンドル油, Cマシン油共約6割の發煙硫酸を加へて洗滌した場合には油を直接葉に塗布しても藥害はなくなる。1%乳劑として撒布する場合には梨では濃硫酸3割を加へて洗滌した程度で藥害は見られない。
5. 硫酸洗滌を行なつてもCマシン油, Aスピンドル油を原料とした油は葉中に長く殘溜する事に變りはない。
6. 硫酸洗滌により精製の度を増すに從つて油の色は次第に淡色になり比重及び粘度は減ずる。
7. 上記3種の油を硫酸洗滌した際には油が可なり多量に失はれる。
8. 硫酸洗滌の際生ずるタール分を水酸化石灰で中和して得た液は藥害を示さない。色は血赤色で表面張力低く乳化力がある。
9. 油乳劑を撒布すると植物の蒸散作用は其直後から急減する。最初の減少率は此の實驗に用ひた油の範圍内では油の種類による差は認められない。其後蒸散作用は次第に正常に囘復するが粘度の高い油を撒布したもの, 或は藥害を生じたものでは囘復は遲れる。
10. 油の葉からの消失する早さは揮發度の大きなもの程早く, 此性質は油の生理的障碍作用と重大な關係のある事が指摘され, 從つて油の物理的性質の中粘度と併せて揮發度を測定する必要がある。
11. 市販の機械油には蒸溜温度のきはめて廣いものがあり, 此等に就ては更に區劃分溜によつて蒸溜温度の狹い範圍の區分に分けて研究を進める事が植物に對する生理的障碍を研究する上に有效な手段と思はれる。
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