論文ID: 38.1829
人新世に入り,人間活動が地球環境に大きな影響を及ぼした結果,世界各地で水に関わる数々の問題が表出している.それらの影響や問題を理解,予測し対応するために,人間活動と水システムを一体的に捉えその動態を理解しようとするより実証的な学問として誕生したのが「社会水文学」である.この新たな学問が誕生して約10年が経ち,社会水文学の全体像やフレームワークが徐々に姿を現しつつある一方で,社会水文学を舞台とした水文学者と人文・社会科学者との協働を通して,水の学際研究の課題あるいは可能性が指摘され始めている.本論は,これまでの社会水文学の展開とそこで明らかとなってきた水の学際研究の課題あるいはその可能性を整理した上で,日本で水の学際研究を推進する上での視座の提供を試みた.ここまでの水の学際研究の課題として「共通言語の欠如」,「分野による科学哲学の差異」,「時空間・主体のスケール問題」といった課題があることを指摘し,それらの課題に対して日本(あるいはアジア)で水の学際研究を進展させるための「価値システム」「ガバナンス」「文化」「歴史」の4つの要素からなる概念を提示し,それぞれの要素について解説を行なった.