本報では,今後新たに水理・水利用機能診断の実務に携わる技術者や研究者に向けて,作業の参考とするための既往施設における水理・水利用性能からみた機能調査および機能診断事例を整理して紹介した。特に,事例の中で使用された調査・分析ツールとしての水路カルテと,それに含まれる性能診断項目の実地での有効性を示した。さらに,これまでの現場での調査経験に基づき,用水系で見られる典型的問題とその発生原因を考察することによって,将来的な機能診断に向けて留意すべきチェックポイントを整理した。整理の結果,用水系の水理・水利用機能に関する重要な問題は,水利システムの水需給調整機能を評価する上で重要な施設である分水工,およびその周辺に発現する場合の多いことがわかった。