先人がつくった古い歴史をもつ農業水利施設は,地域の農業を支えながら,多面的機能を発揮している。事例として,京都市内最大の農業取水施設である一ノ井堰とその周辺の農業用ため池をとりあげ,その景観保全機能と,そこからつながる農業用水路の灌漑機能と治水機能との調整の実態を整理する。また,受益地が市街化区域であるため多くの農地が宅地などに転用されるとともに,これらの農業水利施設を維持管理する農家の減少と残存する農家の高齢化と兼業化が進み,維持管理が困難になっている。そこで,維持管理を行っている洛西土地改良区の水管理システムの導入を紹介しながら,多面的機能を有する農業水利施設の次世代への継承について考える。