用水路に泥水を流下させて農地を改良する流水客土の技術は有史以来のものである。東日本大震災で大規模な農地復旧工法が検討される今日,流水客土について国内外の事績を概括し,特に富山県の成功事例に焦点を当てる。富山県の水田は多くが扇状地に展開し,砂質浅耕土で日減水深は数十mmと大きい。灌漑取水温も8月平均13~20℃ときわめて低く低収量であった。そこで扇頂部近くの採土地で粘性土を微粒化し,急勾配農業用水路網を流下させて厚さ15~50mmの客土を行った。富山県では5流域の13,648haで実施され,減水深が20~50%抑制され,田面水温が1℃以上上昇し,米の収量が11~45%増産した。北海道の泥炭地および勾配の緩い内地の扇状地6地区ではポンプと送泥管の組合せによるポンプ送泥客土が6流域の7,630haで実施された。