環境改変技術としての農業土木は, 施設の建設だけでなく, 地域空間の人的要素や精神的要素にも関わっている。水の連続性が人と人のっながりを生み出し, 農業水利施設は伝説や信仰を生み出す場となり, 伝説等は施設の維持, 利害調整を円滑に行う記憶・教育装置として機能してきた。この特質は, 自然を前に恵みを引き出し, 脅威に対して祀りごとを行って鎮めて暮らす伝統的な生活と, その中に一体となった農業に基礎をおく技術の性格に由来している。田園空間のなかにおける全体性を持った「文化としての農業土木」の具体的な様相を, 青森県津軽地域の新田開発が生み出した豊かな伝承を中心に提示する。