2014 年 37 巻 1 号 p. 1_105-1_113
本研究の目的は,『家族の価値カード』を発端に家族のあり方について語り,共有するグループが,自閉症スペクトラム障がいの子どもをもつ母親たちの会話や物語生成にもたらす意義,およびナラティヴ・コミュニティとしての可能性を検討することである。母親51人が33カードから選んだ「家族の価値」および母親たちの語りと会話を分析した。選ばれたカードは〔家庭に笑いがある〕〔子どもが健康で順調に成長する〕〔夫との人間関係〕〔自分の時間をもつ〕〔子どもを愛する〕〔家族といっしょに食事する〕等であった。母親たちは厳しい状況においてもユーモアを含んで経験を語った。他人の物語を聴く機会を得て自分の現実が新たにつくられ,その意味が広がった。このグループは「いまだ語られなかった物語」が聴衆を得て,参加者相互の会話の力によって「新しい自己」を生み出すことを可能とする場として,「ナラティヴ・コミュニティ」の役割を果たした可能性がある。