抄録
【目的】実験環境下において、血液に汚染された鍼に接触した通電用クリップ(以下、クリップ)
がどの程度汚染されるかをadenosine tri-phosphate(以下、ATP)測定法を用いて検証した。また、
クリップの形状の違いによる汚染度の違いも併せて比較した。
【方法】滅菌したワニ口クリップと平口クリップ各25 個をヒツジ血液に浸漬した鍼に10 秒間接触
させ、その後、クリップの鍼と接触した部分を試薬キットの綿棒で拭き取り、迅速にルミノメー
タにてATP 量(Relative Light Unit:RLU)を測定した。また、鍼については汚染部分より上方を
切断し、試薬キットに投入後、迅速にルミノメータにてATP 量を測定した。鍼からクリップへの
ATP 量の移行率を算出し、2 群の移行率を比較した。
【結果】ワニ口クリップから検出されたATP 量の中央値(四分位範囲)は3(0-17)RLU、ワニ口
クリップに接触後の鍼から検出されたATP 量は268(187-370)RLU であった。一方、平口クリッ
プから検出されたATP 量は38(12-102)RLU、平口クリップに接触後の鍼から検出されたATP 量
は395(204-684)RLU であった。このことから、ワニ口クリップへのATP 量の移行率は1.3(0-5.5)%
であり、同様に平口クリップでは7.2(1.2-21.8)%であった。二群間の移行率を比較したところ、p
< 0.05 で有意な差がみられた。
【考察】平口クリップはワニ口クリップよりも血液に汚染されやすい可能性が示唆された。しかし、
ワニ口クリップも移行率は0%ではないことから一度クリップに鍼を接触した後、強さの調整のた
めに鍼の刺入深度を変えるなどすれば、交差感染を引き起こす可能性も否定できないと考えられ
る。
【結語】ヒツジ保存血で疑似汚染した鍼にクリップを接触させた場合、クリップからは血液由来の
ATP が検出された。平口クリップから検出されたATP 量は、ワニ口クリップから検出されたそれ
より有意に多かった。