日本東洋医学系物理療法学会誌
Online ISSN : 2434-5644
Print ISSN : 2187-5316
最新号
日本東洋医学系物理療法学会誌
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総説
  • 並木 隆雄
    2024 年49 巻2 号 p. 1-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     漢方医学において、舌診は舌色や舌の形態などを観察することで、患者の体質、血液循環の状態、水分代謝、病態などを把握する重要な診断法である。しかし、その診断の科学的根拠はいまだ不十分である。診断時には光源などの外部環境要因や観察者の診断の主観的要因などの問題がある。この問題のうち、前者の要因は、機械の開発で解決するためコンピュータ診断支援システムのTongue Image Analyzing System(TIAS)を開発することになった。TIAS で色は、L∗ a∗ b∗ という客観化された数値になり、さらに診療支援ソフトを開発実装できれば、2 番目の問題点での改善に寄与できる可能性もある。また、診療や教育においても、舌による診断の精度向上や舌診の技術習得の短縮ができるのではと考えている。世界での舌診関連の論文数は急増している。そのような動向と呼応して国際標準化機構(ISO)活動による舌診機器やその周辺機器の標準化も併せて、舌診のさらなる科学的根拠の創出は、日本でも海外でも今後もさらに進展していくであろう。
会長講演
  • 山口 智
    2024 年49 巻2 号 p. 9-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     神経疾患に対する鍼灸治療は、本邦の診療ガイドラインにて頭痛や脳卒中、末梢性顔面神経麻痺などが推奨されている。当科では、長年に渡り脳神経内科と連携し神経疾患の診療や研究を推進してきた。最近の実態調査では、末梢性顔面神経麻痺や一次性頭痛、脳卒中の診療依頼が多い。
     神経疾患の中で鍼灸や手技療法が対象になりやすい症状は疼痛である。鍼の鎮痛機序については、1)下行性疼痛調節機構、2)内因性疼痛抑制機構、3)脊髄後角に関与した分節性の機序、4)軸索反射、5)アデノシンによる局所鎮痛作用が示されている。
     頭痛の診療ガイドライン2021 では、片頭痛急性期・予防、緊張型頭痛、薬物使用過多による頭痛、チーム医療について鍼治療が推奨されている。当科では片頭痛や緊張型頭痛に対する鍼治療の効果とその作用機序について基礎・臨床研究を脳神経内科と共同で実施してきた。難治性の片頭痛や緊張型頭痛に対して鍼治療の有効性は高く、現代医療でその果たす役割の大きいことを強調した。また、こうした鍼治療の作用機序は局所における鎮痛効果のみならず、主に高位中枢を介し症状の改善に寄与する事が示唆された。さらに脳循環や自律神経を指標とした検討では、患者群と健常者ではその反応に差異があり、生体の正常化作用に関与することが明らかとなり、こうした作用機序が伝統医療の特質と考えている。
     本学会では、神経疾患に対する鍼通電療法と手技療法の効果や作用機序について専門医学会と連携し、より質の高い研究を推進したいと考えている。一方、こうした鍼通電療法や手技療法を担当する専門性の高い鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の育成に精進する所存である。
特別講演
  • - 主に神経血流を指標とした検討 -
    井上 基浩
    2024 年49 巻2 号 p. 15-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     腰椎の機能単位は椎体を連結する椎間板、そして左右一対の椎間関節からなる。腰部の退行変性は、一般的には椎間板の変性から始まる。椎間板の変性は、もう一つの支持組織である椎間関節の器質的・機能的破綻を導き、腰椎機能単位の不安定性へと移行する。腰椎の不安定性を回避する目的で骨棘形成等の退行性骨増殖性変化が出現し、再安定化へと進展するが、椎間孔や脊柱管といった神経組織の通過部位が狭小化する。これらの過程で、各種の疾患・症状が出現することとなる。鍼治療は、これらの過程で生じる疾患・症状に対し効果を示すことを臨床的に経験するが、未だその明確なエビデンスが得られているとは言えない。
     本講演では、腰部障害に起因する腰下肢症状に対して、我々が開発してきた鍼治療法の一部について紹介する。それらの治療は、臨床研究の結果、動物を用いた基礎的研究データ、そして、治療によるリスクや患者の受ける感覚等を考慮し、現在では選択順位を定めている。先ずは第一選択の治療として、傍脊柱部刺鍼、障害神経走行部への刺鍼、障害神経の支配筋への刺鍼について紹介する。その後に、第一選択の治療で効果を示さなかった場合の第二・第三選択の治療として、陰部神経鍼通電療法、障害神経根鍼通電療法について紹介する。
     具体的な治療法の紹介と併せて、脊柱管狭窄症に対する傍脊柱部刺鍼、陰部神経鍼通電療法、障害神経根鍼通療法の臨床研究の結果を報告する。そして、これらの治療の効果発現機序に関わる基礎的データに関しても同時に提示し、解説を加える。慢性の坐骨神経痛、神経根症状、そして脊柱管狭窄による間欠跛行は、馬尾を含めた坐骨神経血流の低下が原因の一つとされている。したがって、今回提示する基礎的データは、各治療法による坐骨神経血流の変化を観察し、その反応の機序を調査したものである。これらの臨床研究・基礎研究の詳しい内容は各論文を参照されたい。
  • 伊藤 樹史
    2024 年49 巻2 号 p. 21-27
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     兪穴・募穴の位置と内臓求心線維の新デルマトーム領域への反映と一致性を検証した。デルマトーム(dermatome) とは、単一脊髄神経の皮膚面への分布領域である。この領域が視覚的に確認できるのが帯状疱疹である。兪穴・募穴の位置と内臓求心線維の新デルマトーム領域での一致性の検証とは、内臓- 体性(皮膚)反射の現れる領域と兪募穴が一致するかどうかの検証になる。過去に行った旧デルマトームとの検証では不一致の結果であったと報告されている。新デルマトームを使った同じ検証を行ったところ完全に一致した。さらに兪穴の中には臓器を特定できない2つの経穴がある。厥陰兪と三焦兪である。この2つの兪穴が意味する臓器も推定できた。厥陰兪は膵臓と推測できた。三焦兪は前立腺、或いは副腎の両者を検証できた。著者は内臓と交感神経との関連性が強い副腎を強く推薦する。古代に作成された兪募穴の位置は正確であったことも証明できた。このことは大変な驚きである。これによって、兪募穴と体性- 自律神経反射、そして関連痛との相関についての裏付けが確認できた。今後は、兪募穴の積極的な臨床応用とその効果を集積したい。
シンポジウム 「脳卒中後遺症に対する治療と効果のエビデンス」
  • - 鍼灸治療 -
    菊池 友和
    2024 年49 巻2 号 p. 29-34
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     脳卒中は、わが国において死亡原因の第4 位を占め、全介助状態に相当するいわゆる寝たきり(要介護5)になる原因としては第1 位の疾患である。脳卒中の発症に対して、急性期治療および回復期リハビリテーションを行っても、後遺症により今までできていたことができなくなることは少なくない。その結果、うつを発症することが多い。今回は脳卒中ガイドライン2021に掲載されている鍼灸治療について解説し、うつ、中枢性疼痛、肩手症候群に対する鍼灸治療の実際について私見を述べる。今後は、チーム医療に鍼灸師が介入するためには質の高い臨床研究と、脳卒中の主治医や看護師、PT、ST などとの共通言語で共通理解できることが必要不可欠である。
     患者とその家族等は、突然の発症に対する戸惑い、後遺症や後遺障害により自宅での生活が不自由になったことへの悲しみ、将来への不安など様々な悩みや苦しみが出現する。一方、脳卒中に対する医療・ケアは、地域における医療連携や医療介護連携等により行われており、個々の患者とその家族等に対する医療・ケアは、急性期医療機関から回復期リハビリテーション病院、維持期(生活期)の療養型病院・施設などへ転院するごとに新たな別の医療・ケアチームが担当することになる。このような脳卒中の特性から、治療行為を超えて、患者および家族等の悩みや苦しみを和らげる緩和ケアへの継続的な取り組みが不可欠である。このような状況の中、鍼灸師も連携を行うためには、共通言語・評価を行い、何を提供できるのかも提示していかなくてならない。そこで、今回はガイドラインで推奨されている症状とエビデンスと鍼灸の実際について論述する。
  • - 運動療法 -
    阿久澤 直樹
    2024 年49 巻2 号 p. 35-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     はじめに、理学療法とは病気、けが、高齢、障害などによって運動機能が低下した状態にある人々に対し、運動機能の維持・改善を目的に運動、温熱、電気、水、光線などの物理的手段を用いて行われる治療法である。運動療法は手段の1 つであり、各病時期、対象者によって目的と目標設定が変化するため運動療法の内容も多岐にわたる。人間全体をみるICF(国際生活機能分類)の考えの中での生活機能の3 レベル(「心身機能・構造」・「活動」・「参加」)はそれぞれが単独に存在するのではなく、相互に影響を与え合い、また「健康状態」・「環境因子」・「個人因子」からも影響を受ける。運動療法の最終目標はQOL の向上であることをご理解いただき、その中での脳卒中後遺症に対する運動療法についてご紹介したい。
     急性期では不動・重症化予防、早期の機能回復のために発症直後からベッドサイドで開始され、ADL の早期回復を目指す。急性期でADL の回復や社会復帰が困難と判断された場合、回復期リハビリテーション病棟にて包括的で集中的なリハビリテーションが実施される。リハビリテーションと病棟生活を一体として捉え、積極的にADL とIADL の向上、社会復帰を目指す。機能回復が困難な場合は代償手段として、異なる方法での動作練習、自助具や装具の使用、環境調整などをおこないシステムとして活動の再建を図る。生活期では介護保険サービスなどのフォーマル資源、住民主体のインフォーマル資源を活用し、可能な限り能力の維持・向上を図り、地域社会でのさらなるQOL 向上を目指す。
     上記に共通した脳卒中後の運動機能回復に効果を示す介入は、①運動先行型の活動、②運動実行による皮質脊髄路の発火、③感覚フィードバックの3 つである。今回は姿勢制御、身体性(身体保持感・運動主体感)に配慮した基本動作練習、歩行練習、上肢機能練習について紹介し、ご参加された方の一助となればと考える。
  • - 手技療法 -
    萩原 正博
    2024 年49 巻2 号 p. 41-45
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     脳血管疾患は、急性期の治療が終了したあとも、脳卒中後遺症をはじめとした後遺症に悩まされる患者が多い。本症例は脳卒中後遺症として左片麻痺・構音障害・左空間無視などの高次脳機能障害・長時間の車椅子生活・非麻痺側の右上下肢の筋力低下等により、徐々に生活の質(Quality of Life)や日常生活動作(Activities of Daily Living)が低下した患者に、マッサージを基調に過剰な筋緊張を抑制することで起居動作練習の効果を上げADL の向上を目指した症例である。
     脳卒中後遺症に対するマッサージ施術の目的は、麻痺側の筋萎縮や関節拘縮の改善と筋力低下の回復によりADL の向上を目指すだけでは不十分であり、非麻痺側も含めた全身の協調性を引き出す為に、身体の中心である体幹の動きとバランスの回復を図ることが重要である。
     その為に体幹の動きとバランスを阻害している因子を次の様に推測した。常に右を向いている頭部の位置や骨盤後傾による不良姿勢、端坐位では支持面である臀部からの感覚情報の左右差、立位では左足底の1/3 程度の接地面(支持面)からの少ない感覚情報、体幹の動きを制限している麻痺側の上下肢の痙縮や関節拘縮、必要以上に生じる姿勢反射、その他に非麻痺側の上下肢の筋力低下も要因として考えられた。
     私の術式は特別のものではないが、特に痙縮の強い麻痺側の左上下肢の筋腱移行部にマッサージ施術をすることで痙縮を抑制することができた。さらに注意したことは姿勢反射から起きる過剰な筋緊張に対して姿勢を安定させ筋緊張を抑制させることも重要であった。この二つの抑制効果により関節モビリゼーション、ストレッチ、自動介助運動が行いやすくなり、体幹バランス練習、起居動作練習が向上し、立位動作や移乗動作の介助量が軽減できたことを述べる。
スキルアップ講座
  • - 顔面神経麻痺に対する鍼治療のエビデンスとその役割 -
    粕谷 大智
    2024 年49 巻2 号 p. 47-50
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     12 年ぶりに改訂された顔面神経麻痺診療ガイドライン2023 年版について、鍼治療に関連する内容を中心に紹介した。今回の改訂では、鍼のClinical Question の①鍼は麻痺の早期回復に効果はあるのか(急性期)②鍼は後遺症の症状を軽減させる効果があるのか(慢性期)の2 つについて推奨度が出され、両者とも“弱く推奨する”と今までの“推奨しない”から大きく改訂された。この結果については、急性期の麻痺の回復や慢性期の拘縮やこわばり感などの後遺症の軽減に従来の治療(コントロール)と比べ、鍼治療の介入は効果が期待できるSystematic Review がいくつか出されていること、その中でも特に後遺症を予防・軽減することでQuality of Life の向上に寄与することが示唆され、今後は医療機関との連携を密にしながら麻痺の急性期か慢性期(後遺症を自覚)かの病期を把握し、その病期に応じた鍼治療とセルフケアの指導も鍼灸師の役割と考える。
  • 堀部 豪
    2024 年49 巻2 号 p. 51-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     末梢性顔面神経麻痺は、顔面神経の核下性障害により発生し、表情筋麻痺を主症状とする。最も多い原因はBell 麻痺で、次いでRamsay Hunt 症候群が挙げられる。Bell 麻痺は比較的予後は良好であるが、 Ramsay Hunt 症候群の予後は不良である場合が多い。これらの疾患は顔面神経の炎症・腫脹・絞扼によって神経血流が阻滞し、局所的脱髄や軸索変性を引き起こされることで生じると考えられている。
     神経変性の程度はSeddon 分類やSunderland 分類によって評価され、神経変性の程度により軸索の回復過程が異なり、高度な神経変性は軸索の迷入再生を来たす可能性が極めて高い。Electroneurography (ENoG) は神経変性の推定に有効であり、予後予測に活用されているが、鍼灸臨床で実施することはできない。柳原法も重症度推定に活用されるが、検者間のばらつきが指摘されている。一方、顔面神経近傍の経穴に鍼通電刺激を行うことで表情筋収縮反応を誘発することができ、収縮の程度によってENoG 値が異なるため、鍼灸臨床においても活用できる可能性がある。
     顔面神経麻痺診療ガイドライン2023 年版では、近年のエビデンスの蓄積により鍼治療の推奨度が「弱い推奨」となった。鍼治療は治癒率の向上に関連しており、早期介入が有効であることも報告されているが、以前としてバイアスを多分に含んでいる結果であることに留意する必要があり、今後の更なる臨床研究の発展に期待する。
     顔面神経麻痺に対する鍼治療の実際について、当科では患者の重症度に応じた治療方法を実践している。軽症例には表情筋麻痺の回復を目的に聴会や下関に1Hz の鍼通電療法を行い、中等症から重症例には後遺症の抑制を目的に表情筋への置鍼を行う。
  • - 顔面拘縮の軽減を目的としたアプローチ -
    林 健太朗
    2024 年49 巻2 号 p. 55-61
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
     末梢性顔面神経麻痺(以下 麻痺)に対する鍼治療は、『顔面神経麻痺診療ガイドライン2023 年版』の中で、後遺症が出現した慢性期においても弱く推奨された。麻痺後遺症は患者のQOL を低下させることから、その予防・軽減を目的に発症後早期からの定期的な介入が重要とされる。鍼治療・手技療法に関しても同様と考えられる。しかし、実地臨床においては後遺症が出現した後に治療を開始する患者も少なくない。したがって、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師は、麻痺後遺症を有する患者に遭遇する可能性があり、そのような患者に対応できるよう基本的な知識を身につけておく必要がある。
     麻痺の主な原因は、Bell 麻痺やRamsay Hunt 症候群であり、自然治癒する患者がいる一方で、不全治癒や後遺症が出現する患者も存在する。後遺症は、麻痺発症後10 日~14 日時点での柳原法10 点以下やElectroneurography 値40% 未満の場合、発症後4 か月頃より生じる可能性がある。代表的な後遺症には、病的共同運動、顔面拘縮があり、安静時および表情形成時の顔面部非対称性や顔面部不快感を生じることがある。これらの後遺症は、患者の日常生活や社会生活を制限し、QOL を低下させる。
     後遺症のひとつである顔面拘縮の代表的な評価方法は、Sunnybrook 法の安静時対称点、日本語版Facial Clinimetric Evaluation Scale の顔面の感覚分野やその程度をVisual Analog Scale で評価する方法があり、これらを組み合わせて定期的に評価する。
     我々が行なっている鍼治療・手技療法は、後遺症、特に顔面拘縮が予想される場合は予防、既に生じている場合は軽減を目的に行う。鍼治療は、表情筋上にある経穴を指標に30 ミリ・12 号のディスポーザブルステンレス鍼を用いた15 分間の置鍼、手技療法は表情筋部を中心に行う。鍼治療・手技療法時には、温熱療法、セルフケアおよび日常生活指導を併用している。治療計画として、治療頻度は、1~2 週に1 回を基本に、発症後12 か月まで継続することが多い。鍼治療・手技療法は、安静時対称性および顔面部不快感の改善により患者のQOL 向上に寄与できると考える。
原著
  • - 探索的研究および効果の検討 -
    魚住 麻美, 田ヶ谷 浩邦, 井上 真里
    2024 年49 巻2 号 p. 63-72
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】鍼灸、マッサージ等の睡眠障害への影響については一定の効果が認められる一方、指圧の影響や効果の検討を行った研究は現在数少ない。本研究では60 歳以上の高齢者の主観的な睡眠の問題に対して指圧療法の影響の探索的研究を行い、その効果を比較検討した。
    【方法】主観的な睡眠の問題を有する60 歳以上の高齢者10 名(男性5 名・女性5 名、平均年齢73.1 ±4.28 歳)を対象とし、指圧先行群・シャム先行群のランダム化クロスオーバー比較試験を行った。1 週間のベースライン、週1 回60 分の施術(指圧又はシャム)を4 週行い、1 ヶ月以上間隔を空けもう一方の施術を同頻度で実施した。ベースライン時に基本特性(性別、年齢、BMI、主観的な睡眠の問題等)、それ以降は各介入前後の計4 回でエップワース眠気尺度、ピッツバーグ睡眠質問票、レストレスレッグス症候群重症度スケール、POMS 短縮版、健康関連QOL 尺度アキュートを実施した。生理学的指標ではアクチグラフィを使用し、ベースライン・各介入4 週間ずつ睡眠指標(睡眠効率、中途覚醒時間)を継時計測した。また、各介入施術前後に血圧・心拍数、心拍変動(平均心拍数、緊張指数、HF〈副交感神経指標〉、LF/HF〈交感神経指標〉)をHeart Sensor TM にて測定した。解析は群間及び群内比較を行った。本研究は北里大学医療衛生学部倫理審査委員会による承認を得て実施した(2020-006B)。
    【結果】全ての評価項目で介入内容、介入前後による有意差はみられなかったが、心拍数、心拍変動の平均心拍数、緊張指数は施術後に有意に減少、HF は有意に増加した。
    【結語】介入内容による違い、4 週間の介入による変化はみられなかったが、短期的な変化が反映される生体指標(心拍数、平均心拍数、緊張指数、HF)では指圧・シャムともに施術後にリラックスや副交感神経活動優位を反映する所見が得られた。
  • 工藤 滋, 小又 淳, 岡 愛子, 前田 智洋
    2024 年49 巻2 号 p. 73-80
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】あん摩、鍼は視覚障害者の職業別就職状況で最も高い割合を占めているが、近年特別支援学校の理療関係学科の在籍生徒数は減少し、卒業生の就労先職種にも大きな変化がみられる。こうした状況を踏まえて、適切な進路指導を行うためには、生徒の就労に関する意識を把握する必要がある。そこで全国調査により生徒の就労希望職種とその選択理由を明らかにし、理療関係職種への就労を促すための方策を検討した。
    【方法】特別支援学校理療関係学科生徒725 名にアンケート用紙を送付し、無記名自記式質問紙法により回答を求めた。調査項目は、「学校名、学科名、学年、年齢、性別、視力、主な使用文字、視覚障害者を対象とする特別支援学校入学時の年齢、理療関係職種への就労希望の程度とその理由、理療科教員としての就労希望の程度とその理由、施術者としての就労希望職種とその理由、施術者としての就労希望職種への就労可能性の意識とその理由」であった。
    【結果】44 校(75.9%)、 367 名(50.6%)より回答が得られた。理療関係職種を希望する者は約95% で、理療への興味・関心、患者との交流の得手・不得手、経済的安定性が影響していた。理療科教員を希望する者は約13% で、業務の魅力と負担感、雇用の安定性が関係していた。施術者としての希望就労先職種は、治療院、ヘルスキーパー、高齢者施設の順に多く、選択理由はその職種への興味・関心と就労の可能性であった。
    【考察】生徒の就労意欲を高めるためには、理療関係職種全体については理療の魅力の情報提供、コミュニケーションの機会の設定、視覚障害を補うための福祉制度の活用が有効な方策となる可能性が示唆された。理療科教員については仕事のやりがいや魅力についての情報発信が必要であると考えられた。施術者については、各職種で働く視覚障害者からの視覚障害を補うための工夫点の情報共有が効果的である可能性が示唆された。
  • 福島 正也
    2024 年49 巻2 号 p. 81-88
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】視覚障害者のアクセシビリティに配慮した電子カルテシステムを開発し、そのユーザビリ ティを評価すること。
    【方法】電子カルテシステムはMicrosoft Access を用いて構築し、視認性の高いインターフェースとスクリーンリーダ対応を指向した。ユーザビリティ評価として、臨床実習の授業を履修している大学4 年生4 名(全盲1 名、弱視3 名)を対象に、System Usability Scale(SUS)を含む、操作性やユーザビリティに関するアンケート調査を実施した。
    【結果】SUS の中央値は第1 回調査で62.5、第2 回調査で73.8 であり、有意な上昇がみられた(p=0.007、ウィルコクソンの符号順位検定)。操作面では、患者検索、患者基礎情報の閲覧、カルテの閲覧、カルテの入力、音声読み上げ対応において高評価であった。一方で、導入初期の操作方法の習得が課題となっていた。
    【考察】結果から、今回開発した電子カルテシステムが、視覚障害者に良好なユーザビリティを提 供していることが示された。今後、円滑な電子カルテの導入を支援する方策の検討が必要である。
  • 楠田 真由, 髙柳 和貴, 松村 一輝, 井上 英, 徳竹 忠司
    2024 年49 巻2 号 p. 89-96
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【はじめに】あん摩マッサージ指圧の骨格筋伸張性に及ぼす影響に関する研究は圧迫法が多く、揉捏法の検討は少なく、鋸切状揉捏について検討した研究は我々が渉猟した限りみられない。骨格筋の伸張性が向上する作用はスタティックストレッチの機序であるⅠb 抑制があり、筋腱移行部の十分な伸張が必要になる。本来、手技療法では筋線維の長軸への伸張が難しい。我々は筋線維を大きく歪ませることで筋腱移行部が伸張されⅠb 抑制が生じると考え、圧迫法よりも揉捏法による刺激がより骨格筋を歪ませると考えた。本研究では揉捏法の1 つである鋸切状揉捏を採用し、骨格筋の伸張性に及ぼす影響を観察し、骨格筋への揉捏刺激が骨格筋の伸張性を向上させることができるかを検討した。
    【方法】①研究方法:クロスオーバー方式で実施。②対象:健康成人26 名(男性18 名、女性8 名、年齢21~49 歳、平均年齢32.0 ±8.0 歳)。③施術部位・手技:下腿三頭筋に対し、鋸切状揉捏を実施。④測定項目:筋の伸張性の変化を評価するために介入前後でa. 足関節最大他動背屈関節可動域(Range of motion、以下ROM)、b. 足関節最大他動背屈時の足趾先端から測定板までの垂線の長さ(以下、背屈距離)、c. 足関節最大自動背屈ROM、d. 足関節最大自動背屈距離。⑤統計処理:Wilcoxon の符号付順位和検定。本研究は筑波大学人間系研究倫理委員会東京地区委員会の承認を得て行った(第 東22-120 号)。
    【結果】本研究では介入群の介入前後の比較で他動による足関節最大背屈ROM と背屈距離において数値が向上する有意な改善(p<0.05)がみられた。
    【考察】足関節背屈の制限因子の可能性がある下腿三頭筋に鋸切状揉捏を行うことで、下腿三頭筋の筋腹だけでなくアキレス腱の伸張が促され、足関節背屈関節可動域を向上させる可能性が示唆された。
文献レビュー
  • - 課題の探索を目的とした文献レビュー -
    藤倉 光慈, 井畑 真太朗, 山口 智, 屋嘉比 康治
    2024 年49 巻2 号 p. 97-106
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/07
    ジャーナル オープンアクセス
    【目的】機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia: FD)の有病率は高く、世界全体では20.8%とされ、QOL を低下させ、労働生産性にも影響を与える重要な疾患である。しかし本邦においてFD を対象とした鍼治療の臨床研究は極めて少ない。本研究では、FD に対する鍼治療に関する臨床研究の現状を調査し、今後の課題を検討することを目的に文献レビューを行った。
    【方法】分析対象論文の包含基準は、FD に対する鍼治療の臨床研究であり、国内外において2006年の1 月1 日から2022 年12 月31 日に発表された原著論文とした。国内文献は医中誌Web、海外文献はPubMed を用いて検索した。
    【結果】包含基準を満たす論文は国内0 編、海外26 編であった。内訳はFD 患者全体の研究が16 編、サブタイプ別患者の研究が10 編であった。後者の内9 編がサブタイプである食後愁訴症候群(Post‒prandial distress syndrome: PDS)のみを対象としており、1 編はPDS と心窩部痛症候群(Epigastricpain syndrome: EPS)に関する研究であった。また、海外26 編中、25 編で鍼治療の有効性が示されていた。使用経穴は、FD 患者全体の研究/PDS 患者のみの研究の別を問わず、足三里、内関、中脘、公孫が頻用されていた。
    【考察】海外では鍼と薬剤の併用治療の有効性が報告されており、併用療法は本邦においても最も実臨床に即した治療法である。対象論文の内、PDS 患者のみを扱った論文は近年急増し、本邦、海外共に患者数はPDS が大半を占めている。過去の国内外の研究では、PDS は過敏性腸症候群との関連が深く、合併による消化不良症状の重症化傾向が指摘される一方、海外においてPDS に対する鍼治療の有効性を認める報告は多い。以上より、本邦においてもPDS を対象とした研究が望まれる。
    【結語】今後は海外での知見が本邦にも適用し得るかを検証するため、本邦のPDS 患者を対象とした、鍼と薬剤の併用による質の高い臨床研究を推進しなければならない。
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