抄録
脳血管疾患は、急性期の治療が終了したあとも、脳卒中後遺症をはじめとした後遺症に悩まされる患者が多い。本症例は脳卒中後遺症として左片麻痺・構音障害・左空間無視などの高次脳機能障害・長時間の車椅子生活・非麻痺側の右上下肢の筋力低下等により、徐々に生活の質(Quality of Life)や日常生活動作(Activities of Daily Living)が低下した患者に、マッサージを基調に過剰な筋緊張を抑制することで起居動作練習の効果を上げADL の向上を目指した症例である。
脳卒中後遺症に対するマッサージ施術の目的は、麻痺側の筋萎縮や関節拘縮の改善と筋力低下の回復によりADL の向上を目指すだけでは不十分であり、非麻痺側も含めた全身の協調性を引き出す為に、身体の中心である体幹の動きとバランスの回復を図ることが重要である。
その為に体幹の動きとバランスを阻害している因子を次の様に推測した。常に右を向いている頭部の位置や骨盤後傾による不良姿勢、端坐位では支持面である臀部からの感覚情報の左右差、立位では左足底の1/3 程度の接地面(支持面)からの少ない感覚情報、体幹の動きを制限している麻痺側の上下肢の痙縮や関節拘縮、必要以上に生じる姿勢反射、その他に非麻痺側の上下肢の筋力低下も要因として考えられた。
私の術式は特別のものではないが、特に痙縮の強い麻痺側の左上下肢の筋腱移行部にマッサージ施術をすることで痙縮を抑制することができた。さらに注意したことは姿勢反射から起きる過剰な筋緊張に対して姿勢を安定させ筋緊張を抑制させることも重要であった。この二つの抑制効果により関節モビリゼーション、ストレッチ、自動介助運動が行いやすくなり、体幹バランス練習、起居動作練習が向上し、立位動作や移乗動作の介助量が軽減できたことを述べる。