抄録
三叉神経痛の診断基準は患者の主訴によるが,くも膜下出血による高次脳機能後遺障害があり意思疎通が困難で,画像検査でも原因を特定できなかったため,三叉神経痛の治療に難渋した症例を経験した.症例は73歳,女性.主訴は摂食時の右側口腔内の痛み.問診,診察では痛みの詳細な性状は把握できず,頭部CT,MRIでも原因を特定できなかったが,経過から右三叉神経第3枝痛が疑われた.カルバマゼピンを中心とした内服薬と神経ブロックで加療したが,各治療の効果を評価するのは困難であった.痛みは寛解した期間もあったが,再燃を繰り返したため,試験的に開頭術を施行したところ2本の動脈が三叉神経に接触しており,微小血管減圧術を施行した.2本の動脈のうち,1本の存在は画像検査では明らかではなかった.手術は著効し,術後5カ月が経過した現在まで良好な経過を経ている.症例を省みると,本例のような意思疎通困難な患者では,表情などの身体表現をスコア化して痛みを評価する方法を用いていれば,各治療の効果をより正確に評価できた可能性がある.また,画像検査で明らかな原因がなくとも,難治性の三叉神経痛には,試験的な開頭術を考慮すべきことが示唆された.