日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
第27回中国四国ペインクリニック学会
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2017 年 24 巻 4 号 p. 383-392

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日 時:平成29年5月13日(土)

会 場:松山市総合コミュニティーセンター

会 長:萬家俊博(愛媛大学大学院医学系研究科麻酔・周術期学講座)

■一般演題I 症例経験

頭蓋内硬膜下血腫を合併した脳脊髄液減少症に対して硬膜外自家血パッチを施行した1症例

齋田昌史*1 中條浩介*1 納田早規子*1 中野安耶子*1 山鳥佑輔*1 伊東祥子*1 宮本沙美*1 野萱純子*2 白神豪太郎*1

*1香川大学医学部附属病院麻酔・ペインクリニック科,*2大樹会総合病院回生病院ペインクリニック科

【はじめに】脳脊髄液減少症による合併症の1つに頭蓋内硬膜下血腫がある.脳脊髄液減少症と頭蓋内硬膜下血腫のどちらの治療を優先するか,あるいは同時並行で治療するかについては意見が分かれる.今回,頭蓋内硬膜下血腫を合併した脳脊髄液減少症に対して,硬膜外自家血パッチを先行し,硬膜下血腫は保存的に経過をみて治癒した1症例を経験したので報告する.

【症例】25歳,男性.仕事中に突然の頭痛を発症し,近医受診.頭部CTで厚さ右11 mm/左12 mmの両側硬膜下血腫,CTミエロで上部頸髄レベル(C1/2)に髄液漏出の所見あり.頭蓋内硬膜下血腫を合併した脳脊髄液減少症が疑われ,当院脳外科に紹介となった.硬膜下血腫,脳脊髄液減少症に対して安静・補液による保存療法を施行中,頭痛増悪と軽度傾眠傾向が出現し,硬膜下血腫の増大を疑った.血腫除去術の適応は神経症状の出現,意識レベルの低下,CTで血腫の厚さが10 mm以上という報告もあり,血腫除去術が検討された.しかし,髄液漏出が持続する限り硬膜下血腫の再発の可能性が高く,血腫除去後の頭蓋内圧低下により,脳脊髄液減少症が増悪することが危惧された.CT,MRIで再評価を行ったところ,硬膜下血腫の増大はなく,橋前槽の狭小化・小脳扁桃の落ち込み・脳幹の扁平化など低髄液圧所見の悪化がみられたため,脳脊髄液減少症の治療を優先する方針とした.硬膜外持続生理食塩水注入療法を8日間行い,さらに硬膜外自家血パッチを施行した.硬膜下血腫に対しては,保存的に治療をした.その後頭痛は改善,硬膜外自家血パッチ施行後13日で退院.3カ月後のフォローアップCT/MRIで硬膜下血腫は縮小し,髄液漏出所見も認めなかった.

【結語】頭蓋内硬膜下血腫を合併した脳脊髄液減少症に対して,硬膜外自家血パッチを施行し治癒した1症例を経験した.治療の順序に関しては,個々の症例で症状や画像所見を十分に検討して決定する必要があると思われる.

臨床症状から上喉頭神経痛と考えられた頸部痛の1症例

武田泰子 清水智恵子 入澤友美 首藤聡子 藤谷太郎 高石 和

愛媛県立中央病院麻酔科・集中治療科

【はじめに】上喉頭神経痛は,三叉神経痛や舌咽神経痛との鑑別を有するまれな疾患である.今回,臨床症状から上喉頭神経痛と考えられた症例を経験したので報告する.

【症例】40歳,男性.20代より糖尿病に対しインスリンコントロール中であった.X−1年9月頃より右耳後部から耳下部の疼痛が出現し,当院耳鼻咽喉科および歯科を受診し精査するも軽度の扁桃肥大を認めるほかに特記すべき異常を認めなかったため,X年1月,原因不明の頸部痛として当科紹介となった.疼痛は発作的であり,食事前より耳下および耳後部への放散痛が始まり,唾液の分泌に伴って痛みが増強するとの訴えがあり,痛みのために食事の摂取が不規則となり不眠も増強していた.疼痛部位から典型的な三叉神経痛は否定的と考え,薬物療法を開始することとした.カルバマゼピンおよびプレガバリンの投与を開始したところ,痛みの持続時間の短縮がみられ,食後の痛みは軽減したものの,食事開始時の痛みが残存していた.さらに漢方薬およびアミトリプチリンの併用を開始し,約3カ月後には食事が1日1食から毎食摂取可能となり,アミトリプチリンの増量により疼痛はNRS 3程度にまで改善し,夜間良眠が得られるようになった.

【考察】本症例は,嚥下動作よりも食事開始時の唾液分泌をトリガーとした,発作性の疼痛を主訴としていたことから,迷走神経由来の神経痛である上喉頭神経痛であった可能性が考えられた.

高度肥満患者に生じた感覚異常性大腿神経痛の1例

中村久美子 角 千恵子 田村 尚

山口県立総合医療センター麻酔科

感覚異常性大腿神経痛meralgia paresthetica(MP)は,大腿部外側に疼痛・知覚異常をみる外側大腿皮神経の単神経障害である.主として圧迫による外側大腿皮神経の障害が病因で,ベルトなどによる機械的圧迫や,運動・体重変化に伴う鼠径靭帯の近傍での神経圧迫が多い.肥満や妊婦の場合には腹部内容の増加が原因となる.今回,病的肥満が原因と思われる両側MPの症例を経験したので報告する.

【症例】54歳,男性.身長168 cm,体重120 kg,BMI 42.5.既往歴:高血圧,高脂血症,睡眠時無呼吸症候群,MP(7年前と3年前).現病歴:2016年11月下旬,右大腿外側に『針でつついたような痛み』が生じ,整形外科医院を受診した.腰椎・骨盤MRIおよび胸部~骨盤造影CT検査では異常を認めなかった.MPと診断され,プレガバリン・クロナゼパムさらにトラムセット配合錠が処方されたが,痛みが非常に強くなり起立困難となったため,12月12日当院に緊急搬送され,神経内科入院となった.高度肥満に対しマジンドールと食事療法が開始され,プレガバリンを漸増,カルバマゼピンを追加投与して漸く痛みは減少した.しかし,めまいやぴくつきが出現し,2017年1月4日当科を紹介された.体重は112 kg,体動時の両大腿外側部の痛みがあり,知覚低下を伴っていた.普段から体を締める服は使用せずサスペンダーを着用,腹部を支えるためのバンドを自ら製作していた.カルバマゼピンを減量し,メキシレチンを少量追加した.症状は改善し,1月18日退院した.

【考察・まとめ】患者はダイエット・リバウンドを繰り返し,過去2回体重増加時にMPを経験していた.神経ブロック目的の紹介であったが,痛みは減少傾向で,かつ長期にわたる神経損傷も推測されるため施行はせず,症状は改善した.しかし,再発の可能性は高く,今後の体重管理が肝要と考える.

慢性腰痛症に抑肝散が著効した1例

森脇菜々子 田口志麻 中村隆治 河本昌志

広島大学病院麻酔科

【はじめに】抑肝散は認知症の行動・心理症状への効果が注目されてきたが,現在神経障害痛に対しても治療薬としての可能性が期待されている.今回われわれは慢性腰痛症に抑肝散が著効した1例を経験したので報告する.

【症例】65歳,女性.現病歴:約10年前より腰痛が出現,5年前より痛みが増強したため近医を受診した.軽度の脊柱管狭窄症をMRIで指摘されたが,手術適応はないとのことで,NSAIDsなどの内服加療をしていたが効果は認めなかった.転居に伴い新たな病院を受診したが同様の診断を受け,本人の希望によりX年6月に当院を紹介受診した.初診時現症:腰部から臀部,左足の重だるい痛み,ときにピリピリとした痛みと熱感を訴えた.両側腰部と臀部に圧痛点を認めた.経過:慢性腰痛症,左坐骨神経痛,筋筋膜痛の診断でプレガバリン150 mg,トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン配合錠(以下トラムセット)2錠/日の内服と隔週でステロイド添加0.5%メピバカイン10 mlのトリガーポイント注射(以下TPI),低出力レーザー照射を行った.NRSは初診時9/10であったが,とくにTPIの効果が高くX年9月にはNRS 2/10まで低下した.しかしX年12月,再度NRS 8/10に悪化したため,プレガバリン200 mg,トラムセット4錠/日に増量したが効果は乏しかった.X+1年7月に抑肝散7.5 g/日を追加したところNRS 2/10まで低下し,TPIを月1回にまで減らすことができた.副作用として軽度の眠気が出現したが,プレガバリンを50 mg/日にすることで消失した.

【考察】光畑らの報告では,神経障害痛を含む慢性痛患者に対し,証を考慮せずに抑肝散を投与した121例のうち73例(60%)で効果が得られている.抑肝散はセロトニン神経系とグルタミン酸神経系を介した薬理作用が明らかになってきており,今後,慢性痛患者の治療選択肢の1つとなりうることが示唆された.

原因不明の左腹部痛で発症した脊髄腫瘍―ペインクリニック外来における診断の重要性―

山本和一 中田行洋 安部 桂 清水一郎 安部俊吾

松山赤十字病院麻酔科

ペインクリニック外来に来院する患者は,他科で診断を受けた後,ペインコントロールを目的に紹介されることが多い.その中には痛みの原因が不明とされる症例も含まれている.今回,整形外科と内科受診後に当科を紹介され,経過中に脊髄腫瘍が判明した症例を報告する.

【症例】30歳女性.平成28年6月20日の学童保育中,小学2年生男児に背後から抱き付かれ,その後左脇腹に痛みを発症.徐々に悪化し,6月末には激痛で夜間睡眠も障害されるようになった.近医整形外科におけるX-Pは異常なし.NSAIDsとノイロトロピンTMを処方されたが改善せず.7月8日当院内科を受診し,腹部CT,血液検査(WBC:5,930/µl, CRP:0.1 mg/dl以下)でも原因は特定できず.7月15日,当科を紹介され受診した.初診時,姿勢の変化でズキンとする痛みを訴え,座位で増強することより診察中も立位のままであった.局所に圧痛や炎症所見なく,知覚も正常.内科処方のトラムセットTMでやや軽減したとのことだった.神経障害性疼痛薬物療法アルゴリズムに沿って治療を開始.約2週間でトリプタノールTM 30 mg/日,リリカTM 100 mg/日まで増量し,痛みは軽減したが排尿回数の減少を訴えるようになった.8月5日再診時,左下肢筋力低下(左腸腰筋,左大腿三頭筋)と左大腿前面の知覚低下を認めたため,即日当院神経内科を紹介.緊急MRIでTh9~11の硬膜内髄外腫瘍を認め当院整形外科で手術となった.

【考察】当科では,原因不明の左背部痛がC7~Th1の化膿性脊椎炎と診断された症例を経験している(日本ペインクリニック学会誌2014; 21: 429).以来,体幹部に痛みを訴えかつ炎症所見を認める時は全例緊急で脊椎脊髄MRIを行っている.今回は炎症所見がまったくなかったため検査を行わなかったが,その必要性を改めて痛感した.今後このようなケースの増加が見込まれる.ペインクリニック外来においても診断に積極的な姿勢が求められると考える.

オピオイドによるミオクローヌスが疑われた3症例の検討

橋本龍也*1 山本花子*2 榊原賢司*2 和田 穰*2 横井いさな*2 中谷俊彦*3 齊藤洋司*2

*1島根大学医学部附属病院緩和ケアセンター,*2島根大学医学部麻酔科学教室,*3島根大学医学部緩和ケア講座

【はじめに】ミオクローヌスは,どのオピオイドにおいても発現しうる副作用であるが,モルヒネやコデイン,メペリジンによる頻度が高いとされている.その原因は,神経毒性のある代謝物の蓄積によると考えられている.今回,オピオイドによるミオクローヌスが疑われた3症例を経験したので報告する.

【症例1】60代女性,膵がんによる腹部・背部痛に対し,オキシコドン注射液(336 mg/日)を使用中であった.フルルビプロフェンアキセチル,アセトアミノフェン,ベタメタゾン,リドカインを併用していた.オピオイドの投与期間は1年5カ月以上であった.

【症例2】60代女性,肺がんの肋骨転移部の痛みに対し,フェンタニル貼付剤(7.2 mg/日)を使用中であった.レスキューはオキシコドン速放性製剤を使用し,ロキソプロフェン,プレガバリンを併用していた.オピオイドの投与期間は9カ月以上であった.

【症例3】50代男性,上肢CRPSに対しフェンタニル貼付剤(0.9 mg/日)を使用中であった.デュロキセチンを併用していた.オピオイドの投与期間は6年10カ月以上であった.

【考察】ミオクローヌスはオピオイド誘発性神経毒性による症状の一つと考えられ,オピオイドの投与量や投与期間と相関することが示唆されている.ミオクローヌスの対処方法は,オピオイドの減量やオピオイドスイッチングであるが,状況的にどちらの方法も困難であり,薬物による対症療法を行う場合も多い.非がん性痛に対してオピオイドを長期間使用する可能性もあり,症状の出現に注意して対応していく必要がある.

■教育講演I

温度感受性TRPチャネルと侵害刺激受容(thermosensitive TRP channels and nociception)

富永真琴

自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター(生理学研究所)細胞生理研究部門,総合研究大学院大学生命科学研究科生理科学専攻

感覚神経では,侵害刺激を受容する(侵害刺激を電気信号に変換する)最も簡単で有効的なメカニズムは,陽イオンの流入がもたらす脱分極によって,電位作動性Naチャネルを活性化させて活動電位を発生させることであり,その陽イオンの流入を司る陽イオン透過性のイオンチャネルの中心的分子群の1つが,TRPイオンチャネルである.遺伝子解析の結果,多くのTRPホモログが同定され,TRPイオンチャネルスーパーファミリーは7つのサブファミリー:TRPC(canonical),TRPM(melastatin),TRPV(vanilloid),TRPML(mucolipin),TRPP(polycystin),TRPA(ankyrin),TRPN(nompC)に分けられるが,ヒトでは27のチャネルが6つのサブファミリー(TRPN以外)を構成している.

そのなかでもカプサイシン受容体TRPV1とワサビ受容体TRPA1は複数の侵害刺激を受容し,感覚神経の一部のポリモーダル受容器を説明する.TRPV1は1997年に遺伝子クローニングされ,2000年には遺伝子欠損マウスの表現型が報告されて,侵害刺激受容体として機能することが個体レベルで確かめられた.2013年に低温電子顕微鏡を用いて原子レベルの構造が明らかにされ,2015年には脂質に埋まった構造が報告された.TRPA1は2003年にマウスの侵害性冷刺激受容体として報告されたが,現在ではヒトTRPA1に温度感受性はなく,昆虫から鳥類までのTRPA1は熱刺激受容体であることが明らかになっている.しかし,TRPA1が種を超えて多くの侵害性化学物質受容体として機能することは明らかである.2006年にはTRPA1遺伝子欠損マウスの表現型が報告され,個体レベルで侵害性化学物質受容体として機能することが確かめられている.2015年に低温電子顕微鏡を用いて原子レベルの構造が明らかにされた.

TRPV1を介して流入したCa2+が,TRPV1に結合するカルシウム活性化クロライドチャネルのアノクタミン1(ANO1)を活性化することが明らかになった.感覚神経細胞では細胞内クロライドイオン濃度が高いので,ANO1の活性化はクロライドを流出させて脱分極をもたらす.事実,ANO1活性を阻害するとカプサイシン投与による痛み関連行動は有意に減弱した.これは,新たな侵害シグナル増強メカニズムである.古くから鎮痛剤として使われているメントールが,TRPV1,ANO1を阻害することが発見され,その効果はTRPM8活性化を介してではないと考えられる.そこで,さらなるスクリーニングを行い,4イソプロピルサイクロヘキサノールがTRPV1,TRPA1,ANO1を阻害することが明らかになった.この化合物は,鎮痛薬開発の新たなシーズ化合物として注目される.

■ランチョンセミナー

術後急性期の痛みの管理と遷延性術後痛

濱田 宏

広島大学大学院医歯薬保健学研究院麻酔蘇生学

術後痛メカニズムの理解が進み,新しい薬剤やデバイスが使用できるようになり,術後痛管理を取り巻く環境は近年着実に進歩しているにもかかわらず,いまだに術後鎮痛は不十分であり世界中で多くの患者が術後痛に悩まされている.かつて術後鎮痛法のgold standardであった硬膜外鎮痛は,積極的な周術期抗凝固の普及に伴い,年々使用が制限されるようになってきた.代替手段として急速に普及してきた末梢神経ブロックを含めて,鎮痛機序が異なる複数の方法や,薬剤を組み合わせて術後鎮痛を図るマルチモーダル鎮痛が現在の主流となっている.この背景には非オピオイド鎮痛薬を積極的に使用することでオピオイドの使用量を減らし,オピオイドによる副作用を軽減する狙いがある.しかし,実際には依然としてオピオイドを主体とした術後鎮痛が行われているのが現状である.非オピオイド鎮痛薬と局所麻酔薬ベースの神経ブロックや局所浸潤麻酔をどのように組み合わせれば最適な鎮痛が得られるかについては,術式別に今後さらに研究が必要と思われる.

ペインクリニックの視点から考えると,術後亜急性期から慢性期のいわゆる遷延性術後痛に対する関心が近年高まっている.術後患者の2~10%に強い慢性痛が残っているともいわれており,いかに術後痛の慢性化を防ぐかは,われわれにとって重要な課題である.遷延性術後痛に対する予防効果という観点から,多くの鎮痛薬や鎮痛法が研究されているが,今のところ明確なエビデンスは示されていない.可能性のある薬剤としてガバペンチン,プレガバリンやケタミンなどがあげられているが,いずれも積極的な使用を推奨するほどのエビデンスは示されておらず,今後の研究結果が待たれる.開胸術や乳腺手術は遷延性術後痛の発生頻度がとくに高いものとしてよく知られており,開胸術に対する硬膜外ブロック,乳腺手術に対する傍脊椎ブロックがそれぞれエビデンスレベルの高い予防策として推奨されている.演者の施設では,乳腺手術に対して最近全国的に使用頻度が高くなっているPECSブロックで,遷延性術後痛予防効果の有無を調査しているが,今のところ明確な結果は得られていない.疫学研究には限界があり,今後より質の高い前向き研究が必要と思われる.

術後痛の慢性化を防ぐ意味でも,急性期の痛みはできる限り抑えるべきである.きめ細かい術後痛管理を行うために,演者の施設では,acute pain service(APS)チームで全員の協力のもとに鎮痛対策を講じている.遷延性術後痛発生リスクの高い患者の早期発見や,その後のフォローにおいても,APSでの活動は有効であると考える.本講演が,術後急性期の痛みの管理や遷延性術後痛についての知識整理に役立てば幸いである.

■特別講演

国内外のガイドラインから読み解く慢性疼痛に対するオピオイド治療の方向性

山口重樹

獨協医科大学医学部麻酔科学講座主任教授

オピオイド鎮痛薬は,術後痛,がん性疼痛,非がん性慢性疼痛(以降,慢性疼痛)と幅広い領域において,その有効性が立証されている医療に必須の薬である.一方で,オピオイド鎮痛薬は痛みの緩和のみならず,認知および感情にも影響を及ぼし,その不適切使用は深刻な問題を引き起こす.

最近の慢性疼痛に対するオピオイド治療に関する系統的レビューから考察すると,「わかっていることは長期治療の問題点」と「わかっていないことは長期治療の有効性と安全性」,この2点が明確になっているといえよう.

そのため,慢性疼痛に対するオピオイド治療がすでに定着している諸外国では,オピオイド鎮痛薬に対する考え方は,「積極的使用から,見直し,そして,規制」へと変貌しつつある.国内外の慢性疼痛に関する多くのガイドラインにおいては,「オピオイド治療は他の治療が無効であった際に検討する(オピオイド治療が慢性疼痛治療の最終手段ではないことを強調)」,「オピオイド鎮痛薬の弊害から患者を守るためにその高用量化,長期化を未然に防ぐ(慢性疼痛に対する治療であるが,慢性的にオピオイド治療を継続することの危険性を強調)」等と記載されるようになっている.また,最近の傾向では,トラマドールと他のオピオイド(強オピオイド鎮痛薬)を区別して扱うようになっている.

しかしながら,慢性疼痛に対するオピオイド治療が完全に否定され,ガイドライン等から消え去ったわけではない.多くのガイドラインや系統的レビューでは,「適正使用が保証されるのであればオピオイド治療は慢性疼痛に対する重要な治療の選択肢の一つであることに変わりはない」ことが述べられている.そして,多くの患者が適切なオピオイド治療によって元の生活を取り戻していることも事実である.

本セミナーでは,最近の国内外のガイドラインや系統的レビューを紹介しながら,慢性疼痛に対するオピオイド治療の方向性にについて述べる予定である.

■教育講演II

脊髄刺激療法

檜垣暢宏

愛媛大学大学院医学系研究科麻酔・周術期学講座

脊髄刺激療法は,硬膜外腔に挿入した電極を用い,脊髄後索を刺激することで痛みを緩和させる治療法で,おもに神経障害痛と虚血による痛みに有効とされている.ペインクリニック領域での治療法としては比較的侵襲が大きいが,内服治療に難渋している症例でも鎮痛効果を示すことがあり,治療手段として習熟しておくことは有益である.近年,充電式電池やMRI対応機種,複数リード対応機種などが登場しており,以前よりも植え込みに対する患者の抵抗感は減っていると考えている.また,複数の会社がそれぞれ特徴のあるデバイスを発売しており,植え込みの選択肢が広がっている.

当科では積極的に脊髄刺激療法を行っているが,教科書や論文に載っていないことを経験する.脊髄刺激療法の鎮痛効果機序については不明な部分もあるが,これまで脊髄刺激療法の効果が不明である疾患や病態でも,治療効果が期待できるという報告がある.

本講演では,これから脊髄刺激療法を行ってみたいという人の助けになるよう,現在当科で行っている脊髄刺激療法の実際について概略を示し,また,いくつかの症例を提示して,今後の脊髄刺激療法の可能性についても述べたいと考えている.

■一般演題II 症例経験,症例検討

認知行動療法が著効した非特異的腰痛の1症例

岩佐和典*1 西江宏行*2 中塚秀輝*3

*1就実大学教育学部教育心理学科,*2川崎医科大学附属病院麻酔・集中治療科2,*3川崎医科大学附属病院麻酔・集中治療科1

症例は70歳代女性.X年1月より腹痛が生じた.近医を受診し精査したが,とくに異常は指摘されていない.X年2月には腹痛は軽快した.しかし,次に肩の痛みが生じ,さらに全身の筋肉痛となった.とくに両側臀部の筋肉痛が著明で,長時間の座位が困難であった.当院内科,整形外科に紹介となり,腰椎CT,MRIを含めて精査したが,痛みの原因は指摘できなかった.整形外科から痛みのコントロール目的に当科へ紹介となった.神経学的所見は問題なく,近医で処方されたブロマゼパムは有効であった.当科では認知行動療法の適応と考えて臨床心理士による8回のセッションを行った.開始時点の主な症状評価は,痛みのNRS=8~2,PDAS=31,PCS=38,PSEQ=11であった.

認知行動療法の初回においては,慢性痛の認知行動療法に関する心理教育を行うとともに,治療目標を設定した.その際,抗不安薬を使用すると痛みが軽減した経験が語られたことから,不安と痛みの相関関係を想定することができた.よって,不安を低減して痛みをコントロールすることと,日常生活を充実させることを治療目標として共有した.第2回目にはセルフモニタリングをまとめたうえで,リラクセーション法を導入した.その際,注意コントロールの要素を追加することで,痛みから気を逸らすことができた.第3~5回目までは行動活性化を実施した.その際,不安と拮抗する快感情を喚起するような活動に取り組んだ.第6~7回目は認知再構成法を実施した.結果として,この年齢でどこかが痛いのは当たり前であり,気に病むことではないとの認知変容が認められた.第8回では成果のまとめを行い,認知行動療法は終結した.終結時,NRS最大値は2,PDAS=4,PCS=18,PSEQ=39であった.すなわち,痛みと生活支障が大幅に低減され,破局視とセルフエスティームにも大きな改善がみられた.以上のように,本症例においては認知行動療法による心理社会的介入が著効したものと考えられる.

ペインセンターでの学際的な痛み治療を契機に,ブロック治療から離脱できた慢性痛患者の1症例

森 亜希*1 原田英宜*1 鈴木秀典*2 樋口文宏*3 松本美志也*1

*1山口大学医学部附属病院麻酔科蘇生科・ペインクリニック,*2山口大学医学部附属病院整形外科,*3山口大学医学部附属病院精神科神経科

慢性痛患者は,ときに過度な疼痛の訴えである痛み行動を示すことがあり,それに対して医療者側が応えることで,その痛み行動が強化されることがある.今回,山口大学ペインセンターで学際的な痛み治療を行い,痛み行動を軽減させることができた.

【症例】67歳女性.X−8年に左後頭部痛で当科初診し,変形性頸椎症と診断のうえ,薬物療法と年2回の左頸椎椎間関節ブロック,頸髄後枝内側枝高周波熱凝固療法を施行していた.外来担当医変更に伴い,繰り返しブロック治療を行う治療方針の見直しを検討したが,ブロック治療への依存が強く,「ブロックしてくれないなら,死にます」などの発言がみられた.痛みの軽減をはかり,信頼関係を再構築するためにブロック治療を継続したが,あわせて画像上椎間関節の変形が強く,これ以上のブロック注射の継続では改善が期待できないことを説明した.その後,入院下での学際的痛み治療を開始した(X年).整形外科でも同様の診断であり,リハビリでは頸椎ストレッチとペーシングなどを行い,精神科ではNRSと日常生活行動を患者自身で記載してもらい,痛みの対処法の指導など,認知行動療法的なアプローチを行った.入院時,痛みの為に頸部を動かかすことができないという訴えが強かったが,リハビリ開始後2週間経過した頃より,「リハビリで身体を動かすことが症状の軽快につながる」という発言が聞かれるようになった.1カ月の入院治療の後,他院で週3回のリハビリを継続している.当科外来では薬物療法のみを行っているが,ブロック治療の希望はなく経過している.痛みの評価を入院前後で行い,NRSは低下した.しかし,痛みによる破局化や自己効力感に変化はなかった.その一方で満足度は非常に高かった.

学際的な痛み治療とその後の外来リハビリの継続によって,痛み行動を軽減し,ブロックからの離脱を行うことができた.

複合性局所疼痛症候群に対する治療中に反復経頭蓋磁気刺激法で遷延する頭痛が生じた症例

田口志麻 仁井内 浩 大下恭子 吉野敦雄 山脇成人 河本昌志

広島大学病院麻酔科

【はじめに】反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)は,コイルによる誘起電流で経頭蓋的に脳を反復刺激して,うつ病や慢性痛の改善を期待する治療法で,痛みに対しては,視床の感覚中継核と脊髄から交感神経への刺激が伝導を軽減する機序が想定される.実施時の痛みはあっても軽微で,副作用の報告は少ない.複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対してrTMSを実施した後に,頭痛が遷延した患者を経験した.

【症例】男性,受傷時34歳.左足の外傷後3カ月目にCRPSの疑いで当院麻酔科へ紹介された.リドカイン+ベタメタゾンの静脈内局所麻酔,トラマドール・アセトアミノフェン配合錠,プレガバリン等で治療したが抑うつ的となり,受傷後12カ月目に精神科を紹介し,認知行動療法が導入された.さらに,25カ月目に修正型電気痙攣療法(mECT)を開始した.3回目のmECTで紅斑が出現し,被疑薬を変更しても持続した.I型アレルギーが否定できないためmECTは中止した.次いでrTMSを開始したが,2回目に左前頭部頭痛が出現した.頭皮や頭部MRIでは異常はなく,機能性頭痛とも症状が合致しなかった.rTMS施行前より心気的な訴えの強い患者であったため,痛みに対する心理的要因も考慮されたが,頭痛の程度は一過性には足の痛みを上回り,薬物療法に加え発症3カ月目に星状神経節近傍レーザー照射を開始した.半年経過して徐々に改善し,10カ月で薬物療法のみとした.足の痛みには著変なく両診療科で治療を継続している.

【考察】rTMSは,Lefaucheur JPらによる欧州ガイドラインでは,慢性痛に対してレベルAに推奨され,本邦でもHosomi Kらが,神経障害性痛に対する効果を報告している.一方,CRPS患者は他部位のCRPSを発症する可能性があり,まれに頭頸部のCRPSもある.本症例で生じた治療開始後の遷延する頭痛は,rTMSが原因である可能性を否定できない.CRPS患者に対する治療は,ときに新たな慢性痛を誘発する可能性があることを認識すべきことが示唆された.

当院における頸椎・頸髄損傷とその疼痛等に関する検討

村上 翼

高知赤十字病院救命救急センター

【はじめに】当院には毎年頸椎・頸髄損傷(以下頸損という)患者が多く搬送され,その多くに痛みの訴えがある.その実態がどのようなもので,またどういった対応がされているかを検証した.

【対象と方法】2013年4月1日~2016年3月31日までに当院に入院した頸損患者46名.年齢,性別,手術実施の有無,入院中の疼痛の訴えとそれに対する対応,転帰等について後方視的に検討した.

【結果・結語】年齢は21~93歳(平均値70.2,中央値70),男性25名,女性21名であった.転帰は自宅退院9名,転院34名,死亡3名であった.入院後15名に固定術などの手術が実施された.37名に入院中になんらかの疼痛の訴えがあり,その内容は大きく分けると骨折や手術などによる疼痛,脊髄損傷後に起因する「痺れ」に関する疼痛が多かった.34名に鎮痛剤が処方され,内容はロキソプロフェンやプレガバリンの内服が多かった(ロキソプロフェン単独11名,プレガバリン単独6名,ロキソニン,プレガバリン併用4名).処方を受けた34名のうち23名が退院時に疼痛は消失,またはほぼ消失したのに対し,残存している症例は11名と多く,頸損に伴う疼痛はコントロールが難しく,患者のQOLに大きく影響するものであると思われた.

頭頸部悪性腫瘍への(化学療法併用)放射線治療で生じる痛みの経過について

仁熊敬枝*1 萱原沙織*2 大西 藍*3 井上一由*3

*1香川県立中央病院緩和ケア内科,*2香川県立中央病院看護部,*3香川県立中央病院麻酔科

【目的】頭頸部悪性腫瘍に対する化学療法(chemo)併用の放射線治療(RT)は,治療中から放射線性咽頭炎や皮膚炎による強い痛みが生じオピオイドを使用する症例も多く,RT終了後もその痛みがしばらく遷延する場合もある.どのように経過するかを知るために検討を行った.

【方法】2014年7月~2016年12月に治癒を目指すRT(±chemo)に関連する,症状緩和のため緩和ケアチームに紹介された20症例について,背景,鎮痛薬の種類,RT開始からオピオイド開始までの期間,RT終了からオピオイド終了までの期間などについてカルテから後ろ向きに検討した.

【結果】平均年齢63.7,男女比16:4,原発巣は咽頭7例,舌5例,声門部2例,その他6例.RT線量は66または70 Gry.がん性痛がありRT開始時からオピオイドを使用していた症例5例,オピオイドを使用しなかった症例4例,RT開始後2~3週でオピオイド開始した症例7例,3~5週で2例,6週以後2例だった.使用した主たるオピオイドはトラマドール3例,モルヒネ速報製剤(OP)3例,OP+徐放製剤(粒状)2例,フェンタニル貼付剤(FT)3例,FT+OP 3例,タペンタドール1例,オキシコドン1例.RT終了後からオピオイド終了までの期間(がん性痛の残存症例は除く)は平均41.8日だったが,範囲が6~127日と広く,中央値は33日だった.

【考察】放射線治療時の皮膚障害は,2~3週目20~30 Gry照射時に出現し始める.その時点での障害は発赤等とされており,痛みが生じるのは35 Gry以上の照射となる3.5~4.5週ごろとされている.咽頭粘膜では,皮膚よりも障害が早く進むと考えられ,RT開始後2~3週間でオピオイドを必要とする痛みが出現する症例が多かった.使用したオピオイドはさまざまだったが,OP(オプソ®)を食前に定期使用していた症例が多く,咽頭炎でも比較的飲みやすい薬剤と考えられた.RT後の痛みの遷延期間は個人差が大きく,最長4カ月程度オピオイド投与が必要な症例もあり,十分なフォローが必要と思われた.

■一般演題III 帯状疱疹

整形外科より紹介となったC5,C6運動麻痺を合併した帯状疱疹の1例

穴山玲子 野中裕子 青野 寛

高知医療センターペインクリニック科

帯状疱疹は日常診療で接することの多い疾患であり,ときに運動神経麻痺を伴う.Ramsay-Hunt症候群や外眼筋麻痺などの脳神経麻痺を合併することは一般に知られているが,四肢運動神経麻痺の合併は比較的まれであり,皮膚科・ペインクリニック科領域以外ではあまり認知されていない.われわれは整形外科より紹介となったC5,C6領域の帯状疱疹に運動神経麻痺を合併した症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

【症例】82歳男性.肩こりのような痛みを自覚した翌日,左肩から母指・示指に至る上肢橈側に皮疹が生じ,近医整形外科を受診した.帯状疱疹と診断され抗ウイルス薬を処方されたが,疼痛増悪に伴い左上肢の運動神経麻痺が生じ,上肢挙上困難となった.頸椎の精査後当院整形外科に紹介となり,肩関節の精査ののち第34病日に当科に紹介となった.初診時,皮疹はすでに上皮化しており色素沈着を認めるのみであったが,依然夜間不眠を伴う強い疼痛が持続していた.上肢挙上はできず,手指は可動するものの,握力は右26 kgに対して左4 kgと著明に低下していた.超音波ガイド下神経根ブロックを2回施行後は,運動器リハビリを積極的に取り組めるようになり,発症から5カ月後には疼痛は残存するものの,上肢運動神経麻痺は左右差を認めないまでに改善した.

【考察】帯状疱疹に伴う運動神経麻痺は,一般的に保存的療法のみで予後は良好である.Ramsay-Hunt症候群では,ステロイドと抗ウイルス薬が治療法として確立しており,帯状疱疹に伴う四肢運動神経麻痺でもステロイド療法の有効性を示唆する報告が複数あるが,適応については十分な検討が必要である.本症例では糖尿病合併のためステロイド内服を避け,神経ブロックでステロイド薬を使用するにとどめたが,2回の神経ブロック後は疼痛が軽減し運動器リハビリも積極的に行えるようになり,運動神経麻痺を残さず症状は軽快した.

帯状疱疹の経過中に上肢の運動障害を認めた1例

中布龍一 権 理奈 佐倉 舞 黒田皓二郎 森 洋子 瀬浪正樹

JA尾道総合病院麻酔科

【症例】72歳の女性.右肩~上肢の帯状疱疹(HZ)を発症し,数日後から右上肢の運動障害が出現した.近医を受診後(抗ウイルス薬の使用は不明)に他院の皮膚科で継続加療されていたが,発症1週間後から痛みが出現・増強しコントロール不良となったため,発症4週間後に当院紹介となった.初診時,右肩~上肢のC4~6領域に焼けつくような,腕がちぎれるような持続痛を訴え,安静時のnumerical rating scale(NRS)は10/10で,アロディニアを認めた.痛みのため食欲不振と不眠を伴っていた.三角筋と上腕二頭筋の筋力低下を認め,徒手筋力テスト(MMT)で各々2/5,3/5であった.鎮痛薬は,ロキソプロフェン180 mg/日,プレガバリン25 mg/日,ジクロフェナック坐(50)1回/日が処方されていた.星状神経節ブロック(SGB)により一時的な疼痛軽減が得られたので,入院して連日SGBを行う方針となった.入院後からアセトアミノフェン2,400 mg/日の併用とプレガバリンの増量(150 mg/日)を行った.14日間のSGBとトラマドール100 mg/日の併用で,NRSの改善(4~5/10),アロディニアの軽減,不眠の解消,食欲の改善が得られて退院となった.退院後のNRSは4~7/10で経過し痛みは持続していたが,筋力はHZ発症約6週間後から回復の兆候を認め,三角筋・上腕二頭筋のMMTは6週間後(2+/5・3+/5),8週間後(3+/5・4/5),10週間後(3+/5・5/5),12週間後(4+/5・5/5)となった.

【考察】帯状疱疹に関連した運動神経麻痺の発現頻度は0.5~30%と報告されている.発現部位の多くは脳神経領域で,体幹や四肢はまれである.約80%は3~6カ月で回復する.ステロイドやSGBが奏功したという報告が散見され,本症例では幸いほぼ完全回復したが,ステロイドの使用を検討すべきであった.

急性期の中枢性感作が疑われた帯状疱疹痛の1症例

山本花子*1 本岡明浩*1 中谷俊彦*2 榊原賢司*1 齊藤洋司*1

*1島根大学医学部附属病院麻酔科,*2島根大学医学部附属病院緩和ケア講座

【序文】急性期帯状疱疹痛に対して持続硬膜外ブロックが奏功せず,下行性痛覚抑制系賦活薬の併用が有用であった症例を経験した.

【現病歴】70代女性.左背部痛があり,その2日後から同部に皮疹が生じTh5帯状疱疹と診断され,ファムシクロビル処方された.約1週間後から前医で単回硬膜外ブロック開始されたが,局所麻酔薬注入後約1時間で痛みが増強した.ロキソプロフェン180 mg,メコバラミン1,500 µg,プレガバリン100 mg内服したが痛みが改善せず,当院ペインクリニックを紹介受診した.

【経過】同日入院し持続硬膜外ブロックを開始した.Th5/6間より硬膜外カテーテルを挿入し,1%メピバカイン2 mlを試験注入し,Th4~5の冷覚低下を確認した.0.2%ロピバカイン3 ml/hで持続注入開始したが,約2時間後より痛みは施行前と同程度まで増強した.翌日再度1%メピバカイン3 mlを試験注入し,Th3~12の冷覚低下を確認したが,約1時間後痛みが増強した.デュロキセチン20 mg,トラマドール25 mg屯用,トラマドール徐放製剤100 mgを追加処方した.3日目にカテーテルの自然抜去によりブロックを終了したが,NRSは2~3まで低下し8日目に退院した.

【考察】本症例では,急性期の帯状疱疹痛に対し持続硬膜外ブロックを行ったが効果不良であった.硬膜外カテーテルからの試験注入で充分なブロック領域を確認できたが,ボーラス投与の効果消失後は痛みが増強した.カテーテルの自然抜去後は内服のみで痛みが軽減したことから,帯状疱疹発症早期に中枢性感作が起こり,末梢の侵害入力の遮断のみでは痛みが取りきれなかったと考えられる.早期に下行性痛覚抑制系賦活薬を開始し,順調に痛みが軽減したこともこの考察を支持すると考える.

【結語】硬膜外ブロックで改善しない帯状疱疹痛に対しては,中枢性感作による痛みの機序を考慮した治療計画が大切である.

急性期帯状疱疹における薬剤治療の有効性に関連する因子の検討

石川友規 福島臣啓 進 吉彰 石井瑞恵 岩崎衣津 小林浩之

岡山赤十字病院麻酔科

帯状疱疹は,知覚神経節の不顕性水痘帯状疱疹ウイルス感染が,再活性化して生じる片側性の痛みと水疱によって特徴づけられる.急性期に強い痛みを伴い,しばしば慢性の痛みを残す.慢性化を防ぐ方法は確立されていないが,早期の疼痛のコントロールが重要であると考えられている.近年,プレガバリンやトラマドールなどの非がん性疼痛に使用可能な鎮痛補助薬,オピオイドが使用でも十分な鎮痛が得られず,急性期の鎮痛目的でペインクリニック外来へ紹介される患者も多い.そこで,2015年10月~2016年9月に,皮疹出現から30日以内に疼痛コントロール目的に当科に紹介された患者で,短縮版マクギル疼痛質問表(SF-MPQ),痛みの性状,発症からの時間など治療の有効性に関連する因子について検討を行った.

該当症例20症例(男性10名,女子10名)で,年齢は74(68.8~76.5)[中央値(四分位範囲)]歳であった.痛みは来院時visual analogue scale(VAS)38.5(12.8~62.5) mm/100 mm,最大VAS 75.5(60.0~85.5) mm/100 mmと強く,15名で痛みによる不眠を訴えていた.当科で投薬の調整を行ったところ,受診10日前後でVASは10(0~23)/100 mmと軽快した.SF-MPQにおける痛みの性状と有効な鎮痛薬に関しては,明らかな関連性はみられなかった.プレガバリンは皮疹発症からの時間によらず鎮痛効果がみられた.早期には消炎鎮痛薬・解熱鎮痛薬のみでも投与法の工夫で鎮痛が可能な患者も多かった.一方,後期になると,オピオイドやノルトリプチリンを必要とする患者が存在した.

急性期帯状疱疹痛の薬剤による痛み管理を向上するには,発症からの時期を考慮した薬剤の調整が必要であると考えられた.

喉頭・舌腫瘍摘出術の既往をもつ帯状疱疹後神経痛の1例

井関明生 保岡宏彰 米田 弘 保岡正治

保岡クリニック論田病院麻酔科

今回,われわれは喉頭全摘術ならびに舌がん根治術後に生じた発声障害と嚥下障害が,疼痛管理を行ううえで問題となった胸部帯状疱疹後神経痛の症例を経験した.

【症例】79歳,女性.7年前に喉頭がんのため喉頭全摘術と永久気管切開孔造設術を,また1年前に舌がんのため舌部分切除術を受けている.術後は甲状腺機能低下をきたしたものの,流動食や粉末,飲水の摂取は可能で全身状態はよく,生活もほぼ自立できていた.その他,術前検査で造影剤アレルギー(蕁麻疹,軽度の呼吸困難?)の既往もあった.患者は右背部から腹部にかけて広範囲の水疱と疼痛を訴え,発症2日目にかかりつけ医を受診,発症後10日目に当院紹介となった.かかりつけ医からバラシクロビル3,000 mg/日,メコバラミン1,500 mg/日(何れも粉砕),ビダラビン軟膏が投与されていたが,疼痛が強くて眠れないことから翌日より入院とし,持続硬膜外ブロックを開始した.入院後12日目にはVAS 50/100程度まで軽減したため持続硬膜外ブロックは中止し,右胸部神経根ブロック(Th10)を行ったところ,ほぼ無痛状態が得られた.しかし,その後徐々に痛みが現れ,19日目にはVAS 80/100まで増強したため,再度胸部硬膜外ブロック,右神経根ブロック(Th9,10)を行うとともに,粉砕したノリトリプチリン10~20 mg/日,カルバマゼピン100~200 mg/日を併用することで,最終的にはなんとかVAS 20~30/100まで軽減し,入院後35日目に退院することができた.

【考察】本症例には発声障害のためコミュニケーションがとりづらく,患者の訴えたい痛みの性状や変化を捉えにくかった.そのため疼痛評価や治療効果の確認に手間取った印象がある.また嚥下困難は鎮痛薬の選択や内服の方法に留意すべき点もあり,こういったことが本症例での疼痛コントロールを難しくしたのではないかと思われた.

■一般演題IV 神経ブロック,術後痛,SCS

難治性会陰部痛に対し,不対神経節ブロックが有効であった2例

遠藤 涼*1 大槻明広*2 青木亜紀*2 藤井高宏*3 舩木一美*3 稲垣喜三*1

*1鳥取大学医学部麻酔・集中治療医学分野,*2鳥取大学医学部附属病院手術部,*3鳥取大学医学部附属病院麻酔科

【はじめに】不対神経節ブロックは,特発性会陰部痛,直腸がん術後の旧肛門部痛,痔核手術後の持続性疼痛,外傷後の難治性肛門部・会陰部痛,会陰部帯状疱疹後神経痛,会陰部および臀部の多汗症などが適応となる.このたび慢性会陰部痛に対し,不対神経節ブロックが有効であった症例を2例経験したのでそれぞれ報告する.

【症例1】84歳女性.悪性黒色腫にて当院皮膚科に入院加療中であった.以前より慢性的な会陰部痛があり,骨転移が疑われたものの骨転移は否定的あった.認知機能障害があり,痛みの評価は不正確であったが,73歳時に痔核手術を受けており,痔核術後の会陰部痛と診断し,仙骨硬膜外ブロックを行ったところ,一時的な疼痛緩和が得られた.また,寒冷により疼痛が増強することより,フェノールによるX線透視ガイド下不対神経節ブロックを施行したところ,疼痛緩和が得られた.

【症例2】66歳女性.内痔核に対し硬化療法後,痔核根治術を受けた.術後より疼痛の訴えがあり,他院にて再手術を受けたが改善せず,当院消化器外科受診.形態学的な異常は認めず,外科的介入は必要としなかったが,疼痛の改善はみられず当科紹介受診となった.トラマドール,プレガバリンの内服で疼痛は緩和されるものの,便秘やふらつきなどの副作用が強く,薬剤の増量は困難であった.また,仙骨硬膜外ブロックを行ったところ,十分な疼痛緩和が得られたが効果は一時的であった.そこでフェノールによるX線透視ガイド下不対神経節ブロックを施行したところ,疼痛緩和が得られた.

【考察】会陰部の交感神経由来の痛みに対して,不対神経節ブロックは有効である.本症例の様な内服困難症例や定期的なブロックが必要な症例では,神経節ブロックは良い適応であると考えられる.

イオントフォレーシスが有効であった術後痛の2例

清島 隆 内田雅人 山本智久

山陽小野田市民病院麻酔科

4%リドカインとメチルプレドニゾロンを用いた,イオントフォレーシスにより痛みが軽減した術後痛を2例経験したので報告する.

【症例1:乳房切除術後瘢痕部痛】50歳代女性.左乳腺葉状腫瘍に対して左乳房全摘術が施行された.創の一部に瘢痕を認め,同部の痛みが持続するため,手術から約4カ月後に当科へ紹介となった.初診時,瘢痕部にひりひりする痛み(NRS=7)があり,アロディニアを伴っていた.知覚低下は認めなかった.内服薬や神経ブロックは希望されなかったため,イオントフォレーシスを行った.週に1回,計4回施行し,痛みはNRS=3と改善した.

【症例2:鼠径ヘルニア術後痛】80歳代女性.左鼠径ヘルニアに対して根治術(メッシュ・プラグ法)が施行された.左鼠径部から大腿内側にかけて痛みが持続するため,手術から約1カ月後に当科へ紹介となった.初診時,ぴりぴりした痛みと発作痛があり,NRS=8だった.鼠径部に軽度アロディニアを認めた.知覚低下は認めなかった.プレガバリンを処方したがふらつきのため途中で中止した.エコー下腸骨鼠径下腹神経ブロックや創部への浸潤ブロックを行ったが,効果がなかったため,イオントフォレーシスを行った.週に1回,計4回施行し,痛みは徐々に軽減しNRS=2となった.

【考察】イオントフォレーシスは手技が簡単で痛みを伴うことなく,繰り返し行うことが可能である.発症から比較的早期の術後痛にまず行ってもよい治療法と考えられた.

鏡視下肩関節手術の術後痛に対する高濃度単回+低濃度持続斜角筋間ブロックの効果とリバウンドペイン

武智健一 吉村有三

愛媛県立今治病院麻酔科

【背景】肩関節手術に対し単回斜角筋間ブロックを施行された患者は,24時間以内のリバウンドペインを経験する(1).鏡視下肩関節手術に対し,高濃度単回+低濃度持続斜角筋間ブロック施行例の術後痛を後方視的に検討した.

【方法】2016年6~12月,当院で鏡視下肩関節手術を施行された25例で,患者背景,麻酔方法,帰室後の痛み(numerical rating scale 0~10),痛みの増強(リバウンドペイン)の有無と程度(NRS),ブロックから痛み増強までの時間,痛み増強時の斜角筋間ブロック間欠投与やその他の鎮痛剤の効果の有無を調べた.

【結果】患者は平均年齢65歳(16~84歳),術式はバンカート修復術2例,腱板修復術23例であった.全例で,全身麻酔導入前に超音波画像補助下に斜角筋間にコンティプレックスC(B-Braun)が留置され,カテーテルから0.75%ロピバカイン10 mlを投与された.術中にオピオイドは使用されなかった.全身麻酔覚醒後留置カテーテルから0.2%ロピバカイン6 ml/hrが開始され,痛みが出現した場合,3 ml(ロックアウト時間30分)が追加投与された.追加投与の効果が乏しい場合,ロキソプロフェン内服かジクロフェナク座薬が使用された.

帰室直後の痛みは平均0.24(0~5)で,23例の患者で0であった.しかし翌日までに18例の患者で,NRS 3以上の痛みの増強を訴えた.単回ブロックからリバウンドペインまでは,13±4時間(mean±SD)であった.リバウンドペインに対し,ロピバカイン追加投与は3例で,NSAIDは11例で有効であった.

【考察】今回の検討から,低濃度ロピバカイン持続投与と追加投与は,リバウンドペインを抑えるには不十分であった.今後はNSAIDの予防投与やオピオイドの併用を検討する.

【文献】Anesth Analg 2015; 120: 1114–29

乳がんの腕神経叢転移による神経障害性痛に対し脊髄刺激療法が有効であった1例

渡邊愛沙*1 安平あゆみ*1 藤岡志帆*1 檜垣暢宏*1 藤井知美*2 萬家俊博*1

*1愛媛大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2愛媛大学医学部附属病院緩和ケアセンター

乳がんの腕神経叢転移による神経障害性痛に対し,脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:以下SCS)で良好な鎮痛を得られた症例を経験したので報告する.

【症例】症例は60歳代,女性.14年前に右乳がんで手術を受け,その後放射線療法,化学療法を受けていた.4年前に右尺骨神経領域の痺れと痛み,右第1背側骨間筋萎縮,右手指屈筋と伸筋の筋力低下(MMT 2/5)を自覚し,精査で右腕神経叢への乳がん転移を指摘された.化学療法で転移巣は一時消失し,痛みもプレガバリン300 mg/日,アミトリプチリン50 mg/日,オキシコドン10 mg/日,アセトアミノフェン2,400 mg/日内服で落ち着いていたが右腕神経叢に腫瘍が再発した.痛みが徐々に強くなり内服でのコントロールが困難となったため,当科を紹介された.初診時右前腕から第4,5指にかけてのジンジンと痺れるような痛みがあり,右手と右第1~3指の感覚低下,第4,5指の感覚消失があった.また第2胸椎左側椎弓根から横突起にかけて骨転移を認めたが同部位に痛みの訴えはなかった.

SCSトライアルは,第2胸椎左椎間関節部に溶骨性変化を認めていたため,右側からリードを挿入した.トライアルで鎮痛効果を認めたので1カ月後に植え込み術を施行した.右第5指への刺激感は得られなかったが,NRS 5/10と痛みの改善を認め,痛みのため動かせなかった右上肢の動きも改善した.

【考察】通常,がんの痛みは侵害受容性痛が主であるが,丁寧に診察すると神経障害痛が含まれていることがある.SCSは神経障害性痛に対し適応があるが,予後の長いがん性痛で神経障害痛の要素が大きい場合,本症例のようにSCSが良い適応となる可能性がある.

 
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