日本ペインクリニック学会誌
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24 巻, 4 号
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総説
  • 長谷川 麻衣子
    原稿種別: 総説
    2017 年 24 巻 4 号 p. 301-307
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    炎症は,生体侵襲が加わった際に恒常性を維持するための,防御反応である.一方,痛みはさらなる侵襲を回避し治癒のために安静を促す,警告的な感覚である.炎症性疼痛は,炎症によって組織の侵害受容器が刺激を受けて生じる痛みであり,痛みの神経学的分類では侵害受容性疼痛に含まれる.術後早期の創部痛のほか,筋膜や筋・骨格,内臓の炎症など,しばしば原因の除去が困難な慢性炎症を背景とする病態に伴うことが多い.このように“長期化する痛み”という前提で鎮痛の着地点を模索する場合,炎症性疼痛へのアプローチは,生体防御に不可欠な炎症反応と鎮痛を両立させるという,相反する介入を繰り返すことといえる.NSAIDs,オピオイド,局所麻酔薬などの鎮痛薬は抗炎症・免疫抑制作用を有するものが多く,鎮痛目的で炎症を抑えてしまうことにより炎症・治癒過程が遷延し,逆に痛みが慢性化する可能性が示唆されている.炎症性疼痛に用いる麻酔・鎮痛薬の作用機序と,鎮痛以外の薬理作用に関する最近の知見から,痛み以外のアウトカムについて概説する.

  • 辛島 裕士
    原稿種別: 総説
    2017 年 24 巻 4 号 p. 308-317
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    transient receptor potential(TRP)チャネルは,さまざまな部位に発現し,多岐にわたる生体機能に関与する.そのうち,一次求心性侵害受容線維終末に発現が多くみられるTRPA1は,痛みに関係するチャネルとして研究が進んでいる.TRPA1は,多様な外因性の刺激物質によって活性化されて急性痛を起こすだけでなく,炎症に関与する内因性物質によっても活性化される.さらに炎症時には発現量の増加や,細胞表面への移動がみられることより,TRPA1は炎症性疼痛にも大きく関与する可能性が考えられている.TRPA1チャネル活性化による炎症性疼痛の増強は,臨床でよく用いられている麻酔薬でも認められることが報告されており留意する必要がある.最近,TRPA1の発現は,一次求心性線維の末梢側だけでなく中枢側にもみられ,中枢側でのTRPA1チャネル活性化は発痛ではなく,逆に鎮痛となる可能性が示された.このことも考慮に入れたうえで,TRPA1をターゲットにした鎮痛薬創薬に期待したい.

原著
  • 松本 園子, 光畑 裕正
    原稿種別: 原著
    2017 年 24 巻 4 号 p. 318-324
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
    [早期公開] 公開日: 2017/08/16
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    腰椎手術後に再度腰痛・下肢痛が出現する腰椎手術後疼痛症候群(failed back surgery syndrome:FBSS)の治療には苦慮することが多い.今回当院外来でFBSS患者での難治性腰下肢痛に対する後仙腸靱帯ブロックの有効性を検討した.2010年4月~2016年3月の6年間に当科に初回受診したFBSS患者64症例のうち,仙腸関節関連痛と認められた55症例について後仙腸靱帯ブロック後の数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)の経時的変化,罹患期間,罹患部位,下肢痛の有無などについて検討した.初診時FBSSと診断した64例中,仙腸関節関連痛と認められた55症例について後仙腸靱帯ブロックのみで痛みが軽減した症例は85.5%(47/55)であった.罹患期間は中央値18カ月で,腰痛だけでなく下肢痛を伴う症例が68.1%(32/47)であった.NRSは経時的に有意に低下した.1回のブロックで50%以上のNRS改善を示した症例は53.2%(25/47)であった.後仙腸靱帯ブロックはFBSSの治療に対して有意に疼痛を軽減し,診断的ブロックとしても治療としても有効であり,FBSSには少なくない割合で仙腸関節関連痛が含まれていた.

  • 木本 勝大, 渡邉 恵介, 藤原 亜紀, 篠原 こずえ, 福本 倫子, 橋爪 圭司, 川口 昌彦
    原稿種別: 原著
    2017 年 24 巻 4 号 p. 325-331
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    2004年12月から2016年2月にかけて,当科にて脊髄造影CT(CT myelography:CTM)で脳脊髄液漏出症(cerebrospinal fluid leakage:CSFL)と確定診断し透視下で硬膜外自家血パッチ(epidural blood patch:EBP)を施行した58症例について,疫学的背景,起立性頭痛や脳硬膜下血腫の有無,造影MRIでの全周性硬膜増強像の有無,治癒に要したEBPの回数や注入自家血量を後方視的に検討した.好発年齢は30歳代後半~40歳代(平均42.9歳),先行する交通事故は3症例に認めたがむちうち症はなく,55症例が特発性であった.起立性頭痛は79.3%(46/58),造影脳MRIで全周性硬膜増強像を87.9%(51/58)に認めた.また脳硬膜下血腫は34.5%(20/58)に合併し,40.0%(8/20)に穿頭術が施行された.EBPは最多で6回を要し(中央値2.0),全症例で症状は消失した.74.1%(43/58)が1~2回のEBPで治癒した.CSFLの多くは起立性頭痛があり,造影脳MRIで硬膜増強像を呈し,EBPが有効であることが示唆された.

症例
  • 安島 崇晃, 濱口 眞輔, 篠崎 未緒, 佐藤 雄也, 坂口 結夢, 武村 優
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 332-335
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
    [早期公開] 公開日: 2017/08/16
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    胸郭出口症候群による交感神経依存性疼痛に対して,反復する胸部交感神経節ブロックが有効であった症例を経験した.症例は35歳の男性で,左尺骨神経領域の痛みと感覚異常,第5指冷感を主訴に受診した.当初は頸椎症性神経根症と肘部管症候群が疑われたが,各種誘発試験と,上肢拳上時の磁気共鳴血管造影で鎖骨下動脈途絶所見がみられたことから,胸郭出口症候群と診断した.鎮痛薬などの内服でADLの低下を認めたために治療方針を再考し,星状神経節ブロックが有効であったことから交感神経依存性疼痛と判断して胸部交感神経節ブロック(thoracic sympathetic block:TSB)を行った.後方法で高周波熱凝固を行った結果,痛みはほぼ消失して鎮痛薬不要となった.しかし,6~12カ月ごとに症状が再燃したため,2回目以降は前方法で高周波熱凝固や神経破壊薬の投与を組み合わせたTSBを行い,現在までに計6回のTSBを反復することで良好に経過している.胸郭出口症候群の交感神経依存性疼痛に対して,星状神経節ブロックが有効な症例では,TSBの反復は有用であると結論した.

  • 小川 真生, 土田 英昭
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 336-340
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
    [早期公開] 公開日: 2017/08/16
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    患者は76歳の男性.6年前に三叉神経痛を発症し,カルバマゼピン(CBZ)が投与された.しかし,薬剤性過敏症症候群を発症してプレドニゾロン(PSL)が投与され,その後に痛みは改善した.2年前にも左三叉神経痛が再発したが,プレガバリンで改善した.今回,左奥歯から顎にかけての痛みが会話時に出現し,三叉神経痛の再発と診断してプレガバリンを開始したが十分に効果を認めず,嚥下痛や咀嚼痛のために固形物の摂取が困難になった.リドカインを口腔内へ散布したところ痛みが改善し,器質的所見を認めないことから,舌咽神経痛の発作と診断した.患者の強い希望によりCBZを開始すると痛みは改善したが,2日後に薬剤性過敏症症候群が発症した.CBZを中止し,PSLパルス療法を開始すると,薬疹のみならず疼痛も改善した.PSLを中止しても疼痛は再発しなかった.ステロイドパルス療法は,治療の困難な典型的三叉神経痛や舌咽神経痛に対して試みる価値がある治療法となる可能性がある.

  • 田中 ふみ, 井上 潤一, 中村 武人, 松村 陽子, 前田 倫
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 341-344
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    がんへの放射線治療により発生する口内炎などの粘膜炎の薬物治療には,抗炎症薬や局所麻酔薬の含嗽,非ステロイド性抗炎症薬や麻薬などの鎮痛薬があるが,その効果は十分といえない.粘膜炎による痛み,感染,栄養状態の悪化のために放射線治療を中断することは予後に直結するため,新たな治療薬が期待されている.今回,放射線治療による肺腺がん患者の食道粘膜炎と頬粘膜がん患者の口内炎に対し,桔梗湯を使用することで症状の改善を認め,放射線治療を完遂した症例を経験した.桔梗湯は桔梗と甘草からなる漢方薬であるが,桔梗・甘草それぞれに抗炎症,抗潰瘍効果があることが報告されており,桔梗湯にも同様の効果があると想定され,放射線性粘膜炎に対する有効な支持療法になりうると考えられる.

  • 中島 邦枝, 肥塚 史郎
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 345-348
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    電子付録

    小児における下腿の複合性局所疼痛症候群症例に対し,薬物療法と鏡療法の併用が有効であったので報告する.症例は11歳,男児.持久走中に転倒し右足関節を受傷した.近医に通院するも軽快しないため受傷から3カ月後当院へ紹介となった.受診時,右足関節以下に強いアロディニアと右足優位に冷感を認めた.関節可動域は完全に制限されていた.わずかな運動でも痛みを強く訴え,数値評価スケール(numerical rating scale)は10/10であった.プレガバリンの内服を開始し,増量後多少の効果が認められた.鏡療法の併用とクロナゼパムの追加投与を行ったところその3週間後にはアロディニアが軽減し,6週間後には部分歩行が可能となりプレガバリンを減量した.初診後11週で歩行が可能となりクロナゼパムの内服を中止した.初診時より6カ月後の受診時では日常生活は問題なく,痛みがないためプレガバリンの内服を中止した.その後1年半以上経過したが再発はみられていない.小児の複合性局所疼痛症候群では,診断の遅れが重症化に影響するため早期の診断が重要であり,集学的に治療する必要性が高いと考えられた.

  • 藤井 知昭, 三浦 基嗣, 長谷 徹太郎, 敦賀 健吉, 森本 裕二
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 349-352
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    常染色体優性多発性嚢胞腎(autosomal dominant polycystic kidney disease:ADPKD)患者の多くはなんらかの痛みを有しており,その管理法として段階的治療が提唱されている.今回,多発肝嚢胞を合併したADPKDに伴う痛みの症例を経験した.非ステロイド性抗炎症薬やアセトアミノフェンよりもトラマドールが有効であったことと,低濃度局所麻酔薬を用いた硬膜外ブロックにより痛みが軽減したこと,リドカイン全身投与が無効であったことから,内臓由来の痛みが主であると判断した.腹腔神経叢ブロックの有効性も検討したうえで,オピオイド治療を開始することにより,良好に管理しえた.オピオイド鎮痛薬はバソプレシン作用増強による腎嚢胞増大の可能性に注意する必要があるが,内臓由来の痛みに対しては有効と考えられる.

  • 安平 あゆみ, 檜垣 暢宏, 藤岡 志帆, 藤井 知美, 萬家 俊博
    原稿種別: 症例
    2017 年 24 巻 4 号 p. 353-357
    発行日: 2017/10/25
    公開日: 2017/11/08
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    複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)の症状は,時に他の四肢に拡大する.われわれは,CRPSの症状拡大をみた症例に対し脊髄電気刺激(spinal cord stimulation:SCS)法を施行し痛みの軽減を得たので報告する.症例1は50代,男性.X−10年,転落外傷後の左大腿外側部の痛みに対しSCS埋め込み術を施行した.X−1年,同側の踵の痛みにより歩行不能となった.精査の結果CRPSの症状拡大と考えSCS埋め込み術を施行した.左大腿外側部および踵の痛みは改善し歩行可能となった.症例2は40代,男性.X−8年,右手根管開放術後に右手CRPSを発症したが胸部交感神経節切除術により痛みは消失した.X−6年,胸部手術後,創部のアロディニアが出現し,徐々に痛みは胸背部に拡大した.SCS埋め込み術を施行し痛みは改善した.X−1年,左臀部から左下肢にかけての痛みが出現し,精査の結果CRPSの症状拡大と考えた.SCS埋め込み術を施行し,痛みの改善と歩行距離の延長を得た.CRPSの拡大した痛みに対しSCSは有用と考えられた.

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