日本ペインクリニック学会誌
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学会・研究会
第33回北海道ペインクリニック学会
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2018 年 25 巻 1 号 p. 46-51

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日 時:2017年9月23日(土・祝)

会 場:北海道大学医学部臨床講義棟

会 長:国沢卓之(旭川医科大学麻酔・蘇生学講座)

■ランチョンセミナー

痛み治療の実際~抗うつ薬の使用を含めて~

森本昌宏

近畿大学医学部麻酔科学講座

はじめに,新しい椎間板内治療であるDISC FXの適応と特徴,実際の施行手順ならびに手技につき説明した.

本題では,痛み治療に関する話題を5つのパートに分けて紹介した.

I.痛みとは?

痛みだけでは死なない,痛みを我慢することは美徳であるなどとの考えがあり,痛みの治療は軽視されがちであった.しかしながら,痛みは身体だけではなく,心の健康や社会生活機能にも大きな影響を及ぼし,生存率をも悪化させる.痛みは慢性化するに連れて悪影響を及ぼすため,vicious cycle of reflexesなどによって慢性痛が形成される以前に,なんらかの処置を行うことが肝要である.

II.痛みの治療法

神経ブロックや理学療法を含むさまざまな痛み治療のなかで,薬物療法は重要な位置を占めている.国際疼痛学会,日本ペインクリニック学会などの神経障害性疼痛に対する治療薬のガイドラインでは,Ca2+チャネルαリガンドであるプレガバリンに加え,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬であるデュロキセチン,三環系抗うつ薬などが第一選択薬としてあげられており,痛みに対する抗うつ薬の有効性を示している.

III.鎮痛補助薬

鎮痛補助薬は,鎮痛を目的として開発された薬物ではなく,それ自体には鎮痛作用がないかあっても弱く,痛み治療を側面から補強するものとされ,抗うつ薬,抗けいれん薬,抗不整脈薬などが広く用いられている.慢性的な痛みを有する患者は,長期にわたって不眠や不安に悩まされることで,痛みを悲観的・永続的に捉える思考(破局的思考)に至りやすく,痛みとうつは密接に関連している.

IV.抗うつ薬の位置付け

抗うつ薬による鎮痛効果は,うつ状態の改善のみではなく,モノアミン再取り込み阻害による下行性抑制系の賦活,オピオイド受容体を介する効果,ナトリウムチャネルを介する局所麻酔薬様作用,NMDA受容体との関連などによる.痛みに対する抗うつ薬選択のポイントは有効性と安全性のバランスであり,副作用が少なく,鎮痛効果が優れた薬剤が理想である.

V.線維筋痛症

現在,本邦で線維筋痛症での適応を取得している薬物は,プレガバリンとデュロキセチンである.線維筋痛症の薬物治療には,これらを第1選択とし,その他には適応外ではあるが,アミトリプチリンなども選択肢のひとつと考えられている.線維筋痛症には2~3種類の薬物を併用し,薬物治療以外の治療との組み合わせにより奏効することも多い.

以上,いかなる痛みであっても早期に治療することが重要であり,そのためには,抗うつ薬をはじめとする鎮痛補助薬の適応を考慮することが肝要である.

■一般演題

1. 超音波診断装置による坐骨神経の観察

原田修人*1 寺尾 基*1 岡田華子*1 竹田尚功*3 高田 稔*2 赤間保之*1 的場光昭*1

*1旭川ペインクリニック病院,*2神居ペインクリニック病院,*3永山ペインクリニック病院

坐骨神経は,梨状筋症候群に代表されるように同部位での刺激,絞扼により臀部,下肢における痛みの原因となることが言われてきた.現在では,梨状筋部だけでなく坐骨神経の屈曲が強い大坐骨孔,内閉鎖筋部も痛み,痺れおよび跛行の原因となることが指摘されている.MRI検査でも坐骨神経と周囲の筋肉を観察可能であるが,近年超音波診断装置の解像度が向上することにより静止画像のみならず,動的な診断も可能となってきた.今回われわれは,超音波診断装置による坐骨神経の大坐骨孔から大腿方形筋までの同定,走行および下肢運動時の動的な観察を詳細に行ったので報告する.

2. 坐骨神経に対するfasciaリリースの有効性

寺尾 基 原田修人 岡田華子 赤間保之 的場光昭

旭川ペインクリニック病院

【はじめに】各部の痛み,しびれに対して筋膜リリースと呼ばれる治療法が数多く喧伝されている.筋膜はfasciaの日本語訳であるが,fasciaは筋を包む膜ばかりではなく,内臓や腺を包む結合組織性の膜を意味している.筋膜性疼痛症候群(MPS)研究会では,治療対象が筋膜だけでないことからfasciaリリースと呼んでいる.今回われわれは,下肢の痛み,痺れおよび跛行の治療として坐骨神経周囲に対するfasciaリリースの有効性を検討したので報告する.

【方法】生理食塩水(生食),ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(ステロイド)をエコー下にて,坐骨神経の梨状筋下部,内閉鎖筋上部の神経周囲に注入.

【対象患者】坐骨神経支配領域の痛み,痺れ,跛行が存在.MRI検査で脊柱管占拠病変を認めない.または,脊柱管占拠病変を認めても,脊髄,神経根に対する治療(硬膜外ブロック,神経根ブロック等)が無効.

【症例1】男性80歳代.10年以上前より跛行出現.受診時300 mの歩行で両殿部痛が出現.MRI検査で腰部脊柱管占拠病変を認めず.両坐骨神経周囲に,生食10 ml+ステロイド1 mgを注入.1回の施行で跛行消失が得られ,その後も効果が持続.

【症例2】女性70歳代.受診2カ月前より,左S臀部および下肢背面に痛み,痺れが出現.MRI検査で,L4/5椎間板ヘルニア(中央)を認めた.左坐骨神経周囲に,生食20 ml+ステロイド2 mgを注入.1回の施行で,ブロック治療が必要ない程度に痛みが改善.

【症例3】女性70歳代.受診2カ月前より,100 mの歩行で跛行出現.運動時,刺されるような痛みが,右S1領域に誘発.MRI検査で,L3/4,4/5,L5/S1の脊柱管狭窄を認めた.仙骨硬膜外ブロックは効果なし.右坐骨神経周囲に,生食20 ml+ステロイド2 mgを注入.2回施行したが,症状改善なし.

【結語】坐骨神経周囲への生食注入は,同神経支配領域の痛み,痺れ,跛行を改善するが,無効な症例も存在する.また,運動神経麻痺を生じないため,外来でも安全に施行することが出来た.

3. 耳下腺がんの治療中に三叉神経痛をきたし,脳転移が判明した1症例

宮田和磨 藤井知昭 三浦基嗣 長谷徹太郎 敦賀健吉 森本裕二

北海道大学病院麻酔・周術期医学分野

今回われわれは,耳下腺がんに対する化学療法中に三叉神経痛をきたし,頭部MRIで多発脳転移が判明した症例を経験したので報告する.

【症例】30歳代女性.X−2年に右耳下腺がんに対し右耳下腺全摘,右頸部郭清術が施行された.X−1年に多発肺転移と右頸部リンパ節腫大に対して化学療法を施行した.X年に肺病変と左頸部リンパ節の増大を認め,化学療法目的に入院したが強い嘔気と右側頭部から顔面にかけての痛みが出現し,入院2日目に当院緩和ケアチームに紹介となった.鎮痛薬としてオキシコドン塩酸塩水和物徐放錠10 mg,オキシコドン塩酸塩水和物散2.5 mg,ロキソプロフェン180 mgを内服中であった.

【経過】右眼から右前頭部にかけての痛みと右眼周囲に異常感覚があり,三叉神経第1~2枝の障害が疑われた.内服中のオキシコドン塩酸塩水和物を注射液に変更し,プレガバリン75 mgを開始した.また,嘔気に対してオランザピン2.5 mgを開始した.原因検索目的に頭部MRIを施行したところ,右前頭葉と右メッケル腔に腫瘤病変を認め,多発脳転移による症候性三叉神経痛と診断した.デキサメタゾンと濃グリセリン注射の投与を開始し,全脳照射を施行した.症状緩和傾向となり,入院27日目に自宅退院となった.

【考察】三叉神経痛の約90%は三叉神経への持続的な血管圧迫によるものとされるが,約8%の症例では腫瘍による圧迫が原因であるという報告がある.本症例での三叉神経痛は,特発性三叉神経痛とは痛みの好発部位が異なり,異常感覚を有しtrigger zoneを欠くことなどから症候性三叉神経痛が強く疑われた.特発性三叉神経痛と症候性三叉神経痛の鑑別にはMRI,CTなどの画像検査が有用である.本症例のように若年者において症候性三叉神経痛を呈する場合,腫瘍によるものの場合があるため十分な検索が必要である.

4. 当ペインクリニックにおいて合併する悪性疾患の診断を得た帯状疱疹の5症例

佐々木英昭 御村光子 木村さおり 山澤 弦 宮本奈穂子 高平陽子 高田幸昌 田村亜輝子 杉本美幸

NTT東日本札幌病院麻酔科・ペインクリニックセンター

帯状疱疹が悪性疾患に合併して発症し得ることは知られているが,悪性疾患のない症例が帯状疱疹に罹患したとき,一般には積極的に悪性疾患の検索が行われてはいない.当科において過去5年間に,帯状疱疹に合併する悪性疾患の診断を得た5症例を経験した.

【症例1】74歳男性,左Th4領域の帯状疱疹で紹介となったが,両側胸背部に痛みを訴えた.CTを施行したところT6椎体右側に骨破壊像を認め,腎細胞がんによる胸骨骨転移が判明した.

【症例2】87歳女性,左Th6領域の帯状疱疹で紹介.初診時採血で総蛋白高値,腎機能低下,貧血の所見を認めた.タンパク分画検査を追加し多発性骨髄腫の疑いで血液内科にコンサルトしたところ確診となった.

【症例3】74歳男性,右三叉神経第1枝領域の帯状疱疹で紹介された.初診時採血で炎症反応が高値であったためCTを施行したところ膵がんが明らかとなった.

【症例4】75歳男性,右Th5領域の帯状疱疹の診断で紹介された.皮疹が集蔟,癒合しており基礎疾患の有無の検索のため単純CTを施行したが,軽度肺炎像を認めるのみであった.更なる精査のため造影CTを施行したところ膀胱腫瘍の存在が明らかになった.

【症例5】75歳男性,右三叉神経第1,2枝領域の帯状疱疹の診断で紹介されたが神経ブロックや投薬によっても痛みの軽減が得られなかった.CTを撮像したところ腎細胞がんが判明した.

当科においては皮疹が集蔟するなど重症の帯状疱疹症例については基礎疾患の検索を行っている.今回の5症例では初診時の一般検査としての血液検査,レントゲン撮影に加えてCTスキャン,タンパク分画の検査を加えることにより合併する悪性疾患を診断することができた.帯状疱疹の診察に際しては,悪性疾患の合併について常に念頭に置く必要があり,通常の検査に一手間加えることにより悪性疾患の発見が可能となる場合がある.

5. 超音波ガイド下多裂筋筋膜リリースにおける薬液の広がりの比較:cadaverを用いた検討

菅原亜美 神田 恵 笹川智貴 国沢卓之

旭川医科大学麻酔・蘇生学講座

【緒言】近年,筋膜性疼痛症候群に対して超音波ガイド下筋膜リリースが行われており,生理食塩水のみで鎮痛効果が得られたという報告が散見される.しかし,薬液投与量が多くなると注入時の患者の不快感が強くなる.そこで今回,cadaverを用いて超音波ガイド下多裂筋筋膜リリースにおいて薬液投与量による薬液の広がりについて検討を行った.

【方法】当院に献体され,ホルマリンにて固定したcadaver8体を対象とした.第3腰椎レベルで超音波ガイド下に多裂筋筋膜リリースを両側に行った.薬液はインジゴカルミン5 ccを生理食塩水5 ccで希釈したものを左右のどちらかに5 cc,対側に10 ccをランダムに注入した.薬液の広がりは筋膜を剥離し,頭尾側方向と内外側方向の染色された長さを測定した.薬液注入者と測定者は別な者とし,測定者のみ薬液投与量の割り付けをブラインド化した単盲検法で行った.値は中央値(最小値−最大値)で表した.統計学的分析はMann-Whitney U検定を行い,P<0.05を統計学的有意とした.

【結果】頭尾側方向への広がりは5 cc群9.8 cm(3.3–14.8),10 cc群は15.4 cm(8.3–19.6)であり,統計学的に有意差があった(P=0.0466).内外側方向への広がりは5 cc群3.8 cm(2.7–6.2),10 cc群は4.4 cm(2.8–8.4)であり,有意差は見られなかった.

【考察】薬液投与量が多いほど薬液は頭尾側方向に広範囲に広がるということが示唆された.今回は,ホルマリン固定されたcadaverを用いているため,臨床とは結果が異なる可能性がある.今後は臨床での検討が必要であると考えられる.

6. 骨粗鬆症性椎体骨折の初発骨折と再発骨折における不顕性骨折と骨密度の比較

太田孝一 中郷あゆみ 川岸俊也 長井 洋

江別市立病院麻酔科

【目的】高齢者骨粗鬆症性椎体骨折の初発例と再発例における不顕性骨折と骨密度を比較検討した.

【対象と方法】2014年1月~12月に骨粗鬆症性椎体骨折にて入院した65歳以上の19例を対象とし,初発群9例(21椎体)と再発群10例(18椎体)に分けた.椎体をSQ法にて,骨密度は腰椎DXA法で測定したYAM値にて検討した.

【結果】不顕性骨折(SQ法グレード0)は,初発群では21椎体中13椎体であったが,再発群では18椎体中4椎体と有意に少なかった(P<0.05).初発群のYAM値は平均82.1±13.8%(72–105%),再発群は平均77.0±15.9%(45–97%)で両群間に差はなかった.YAN値80%未満の症例も初発群4例,再発群5例と両群間に差はなかった.

【結論】椎体変形のない不顕性骨折は,再発群では初発群に比べ少ないが,約20%存在した.骨密度は,両群間に有意な差は認められなかった.

7. 筋攣縮の関与が疑われた亜急性術後痛の1例

笠井裕子 実藤洋一 神田知枝

地域医療機能推進機構(JCHO)北海道病院麻酔科

筋の異常攣縮が強く関わったと思われる亜急性術後痛の治療を行った.症例は65歳女性.右上葉肺がん(S2,径38 mm,胸壁浸潤あり)に対し,胸腔鏡下肺切除を施行した.術前より軽度の右胸部痛の訴えがあり,術後鎮痛は持続硬膜外麻酔(0.2%ロピバカイン)とNSAIDs投与で行ったが,咳嗽・体動時の痛みが強かった.経過2週間で退院後,右胸部の痛みが増強し,プレガバリン,セレコキシブ内服は無効であった.術後1カ月目に当科に紹介され,同日に外科再入院となった.右上腕内側から前・側胸部,第4,第6肋間の術創を中心に,発作的な自発痛,触・冷覚脱失,痛覚過敏,触刺激によるアロディニアを認めた.痛みによる不眠,右上肢挙上制限と,左半身の高度発汗を伴っていた.トラマドール200 mg内服開始後に,胸部硬膜外ブロック,創部瘢痕への局麻薬・ステロイド注射,肋間神経ブロックを行ったが,一時的にアロディニアが消失しても自発痛の訴えはまったく変わらなかった.プレガバリン,ロフラゼプ酸エチル,十全大補湯を併用し,不眠が改善.右胸部の温罨法と芍薬甘草湯,スルピリド,のちに半夏厚朴湯の追加処方により,痛みの軽減を自覚するとともに上腕の知覚鈍麻が正常化,異常発汗も改善した.術後2カ月目には痛みが前胸部に限局し,外科を退院.術後7カ月目までにトラマドールを減量・中止した.残存する異常知覚に対し,プレガバリン,半夏厚朴湯,スルピリドを継続している.本症例は長期喫煙歴があり,一秒率43.4%の閉塞性呼吸機能障害であった.鎮痛薬や神経ブロックへの反応から,痛みの成因として神経障害性痛と中枢性過敏だけでなく,術後の呼吸機能低下に伴う筋疲労,筋の異常攣縮,肋間神経刺激症状や,不安神経症の関連が考えられた.発作痛の軽減には局所温罨法と不安感への対処,芍薬甘草湯などが有用であった.

8. 若年女性の術後顔面痛に対して,エタノールを用いた神経破壊術が著効した一症

安濃英里 小野寺美子 佐藤 泉 菅原亜美 神田 恵 神田浩嗣 黒澤 温 笹川智貴 国沢卓之

旭川医科大学麻酔・蘇生学講座

【緒言】神経損傷後疼痛は,早期に治療を行わない場合,長期間続くことが多い.今回,若年女性の眉間部粉瘤切除後に発症した神経損傷後疼痛に対し,神経破壊薬を用いた前頭神経ブロックが著効した症例を経験したので報告する.

【症例】20代女性.

【主訴】左眼周囲の異常感覚,疼痛.

【現病歴】X年1月ごろから眉間部に粉瘤を認め,同月,前医にて切開術を受けた.その後に上記主訴を認め開眼不能となった.当院皮膚科・眼科を受診されたが原因は分からず,社会生活も困難になってきたため,X+1年5月当科紹介となった.外来受診時の現症として,前頭神経領域の自発痛(NRS 10)とアロディニアを認めた.

【治療経過】現病歴と身体所見から,神経損傷後疼痛と診断し,内服薬治療としてプレガバリン・トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠・トリプタノールを開始,また3回の星状神経節ブロックを施行したが,症状は改善しなかった.そこで局所麻酔薬を用いて前頭神経ブロックを施行したところ,症状は一時的ではあるが劇的な改善を認めた(NRS 0).患者は疼痛により社会生活が困難となっており,神経ブロックによる半永久的な効果を希望されたため,今度は神経破壊薬(エタノール)0.3 mlを用い超音波ガイド下に同ブロックを施行した.その後,顔面に血腫や浮腫などの副作用を認めることなく,症状は改善した.

【考察・結語】女性の顔面に神経破壊薬を用いて前頭神経ブロックをする時は,外眼筋麻痺やアルコール性神経炎などの副作用の他,血腫や浮腫など美容の観点からも慎重に検討する必要がある.本症例では,前頭神経ブロックを局所麻酔薬から始め,その効果を検討,神経破壊薬も少量から使用し,超音波ガイド下で行うことで副作用を起こさず,症状の改善を得ることができた.また神経損傷後疼痛を治療することで患者の社会復帰に貢献できた症例であった.

9. 窮屈な下着に起因する感覚異常性大腿神経痛と考えられた1症例

高平陽子*1 佐々木英昭*1 御村光子*2 田村亜輝子*1 高田幸昌*1 木村さおり*1 宮本奈穂子*1 杉本美幸*1 山澤 弦*1

*1NTT東日本札幌病院麻酔科,*2NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター

感覚異常性大腿神経痛は外側大腿皮神経の支配領域に一致した痛み,しびれが出現する疾患であるが,ペインクリニック領域では報告は少ない.今回ガードル装着により発症したと考えられる1症例を経験したので報告する.

【症例】75歳女性.154 cm,62 kg.既往歴として高血圧とめまい症がある.30年前より左鼠径部痛があり大学病院を含む外科・整形外科を受診していた.2016年12月ごろより,歩行時にとくに左大腿外側に強い痛みが出現するようになった.2017年5月に近医を受診したが改善しなかった.5分ほどの歩行で出現する「張ったような」痛みであった.左鼠径部に圧痛はなく,大腿動脈は良好に触知された.左大腿前面の触覚は4/5であった.腰椎Xpでは軽度の変形が見られるのみで,腰椎MRIではL4/5の軽度の脊柱管狭窄があった.股関節CTでは滑液包炎などの所見はなかった.除外診断により,左感覚異常性大腿神経痛と診断した.ガードルの使用を中止していただき,その後約1週間痛みが見られなかった.

【考察】感覚異常性大腿神経痛の原因として,急激な体重増加,サイズが合わず伸縮しにくい衣服の着用が多く,妊娠や手術中の体位などもあげられる.患者は1年で4 kgの体重増加があったが以前からのガードルをそのまま着用しており,その圧迫が今回の発症につながった可能性がある.治療としては非ステロイド性抗炎症薬や三環系抗うつ薬,抗痙攣薬などの薬物療法が第一選択となるが,外側大腿皮神経ブロックや大腿神経ブロックなども行われる.大腿部痛を訴える症例を診る際に念頭に置くべき疾患と考えられた.

10. 非がん患者へのオピオイド投与の難しさ~自験例からの反省点~

山崎 裕

市立函館病院緩和ケア科

【はじめに】近年,慢性疼痛患者に対するオピオイド使用に関する問題点が広く知られるようになっている.当院には独立したペインクリニック医がいないため,がん疼痛以外の慢性疼痛患者についても緩和ケアチーム(PCT)にコンサルトされる機会が多い.当科が対応した非がん患者で疼痛コントロールに苦慮した症例から,慢性疼痛でのオピオイド使用の問題点を考察する.

【事例1】59歳男性,慢性膵炎.55歳アルコール性膵炎,腹背部痛でFrey手術施行も症状改善は一時的で,フェンタニル貼付剤を開始.58歳膵尾部切除と腹腔神経節切除施行も2カ月で症状再燃.PCT介入開始,腹腔神経叢ブロック施行も2週間で再燃.以後,フェンタニル増量で対応.現在42 mg/3日.

【事例2】42歳男性,クローン病.23歳時発症後,イレウス等で手術,バルーン拡張などを繰り返す.29歳時から腹痛時,ペンタゾシン対応していた.41歳時PCT介入開始.ブプレノルフィン貼付剤で疼痛コントロールを開始.現在10 mg/週.

【事例3】60歳男性,下咽頭がん術後.54歳同がんで根治術,喉頭全摘施行.放射線治療後から強い頸部痛発症し,PCT介入,オキシコドン徐放剤開始.同年に自殺企図おこし,以後は精神科も介入.現在50 mg/日.がん再発なし.

【事例4】35歳男性,クローン病,潰瘍性大腸炎.26歳発症で結腸全摘手術施行(他院).32歳院内トラブルで同院出入り禁止,以後2つの病院で出入り禁止となり,33歳時から当院フォロー.フェンタニル貼付剤開始,6.3 mg/3日まで増量.腹痛時は救急外来でペンタゾシン,フェンタニル注射で対応していた.最終退院後,外来受診せず,2カ月後に自殺した.

【考察】慢性疼痛ではがん終末期と異なり,患者のQOLを考慮した長期的な疼痛コントロールが必要で,オピオイドは第一選択薬ではない.しかし一度開始すると中止は難しく,むしろ増量してしまう.今秋には慢性疼痛にオキシコドン徐放剤が適応開始となるが,安易な使用は慎むべきである.

11. 在宅末期がん患者はあまり痛まない?~末期がん在宅看取りでのオピオイド使用の検討~

磯 淳典

えべおつファミリークリニック

在宅療養支援診療所の当院では末期がんを含めた年間3~6名程度の在宅看取りがある.過去5年間,当院で末期がんでの在宅看取りとなった症例についてオピオイドの使用量と投与ルートなどについて検討したので報告する.対象は当院過去5年間で,進行がんで1週間以上の在宅療養を経て在宅看取りまで行った17名.死亡時年齢は54~91歳(平均76.5歳),平均在宅日数81.7日(担がん患者として訪問診療を行った期間)で,市内総合病院からの在宅ターミナル目的の紹介が多かった.17名のうち,なんらかのオピオイド使用は12名(70%)だか,おもに臨終期の鎮静や倦怠感の緩和のために短期間使用した5名を除くと7名(41%)であった.使用薬剤と投与経路は,経口オキシコドンで開始し持続皮下モルヒネへの移行のパターンがほとんどであった.オキシコドン(内服)は5~20 mg/日,モルヒネ(注射)は5~30 mg/日(平均13.6 mg/日)と比較的少ない量であった.持続皮下モルヒネの期間は平均3.25日と短く,ほとんどが内服困難になって,亡くなるまでの2~3日のケースが多かった.疼痛コントロールの難しい方はそもそも在宅に移行されない前提はあるが,在宅ではオピオイドの使用が不要であったり,使っても少量で,疼痛管理に関してはそれほど苦労なく,穏やかに過ごされている傾向がうかがえる.

12. 進行がん患者のspinal emergencyへの対応に関する考察

小田浩之*1 高田 優*2 合田由紀子*1

*1市立札幌病院緩和ケア内科,*2市立札幌病院放射線治療科

【はじめに】転移性腫瘍による脊髄圧迫による不可逆的脊髄麻痺を回避するためのゴールデンタイムは,麻痺発症から48時間といわれる.このspinal emergencyが進行がん患者に生じたときには,主治医と整形外科医,放射線治療医等の迅速な連携が問われる.ついては当院の現状を最近の2症例で検討した.

【症例1】54歳男性.小細胞肺がん.X年8月から抗がん剤治療実施.X+1年6月多発脳転移を認め全脳照射(30 Gy/10 fr).X+2年1月ごろから両下肢痛を認め2月22日MRIでTh12-L1に硬膜内髄外腫瘍を認めた.脳外科受診を予定したがその後急速に下肢脱力・疼痛など進行し,2月27日救急搬送された.Th6などにも転移あり手術適応なしとされ,同日オキシコドン・ケタミン注による鎮痛を行い放射線照射開始した(30 Gy/10 fr).その後立位保持など機能回復認め,分子標的薬治療など再開できた.

【症例2】68歳女性.右乳がん.Y年12月から放射線照射,ホルモン療法,化学療法,手術実施.Y+1年11月構音障害など認めていた.12月8日両下肢脱力出現し臨時入院,Th12椎体骨折・脊髄圧迫を認めたが,その他にも複数個所の脊柱管内浸潤があり手術適応なしとされ,12月10日から放射線照射を開始した(30 Gy/10 fr).その後歩行器を使った歩行練習など可能なまでに機能回復した.

【考察】spinal emergencyに対しては,無作為比較試験の既報告から,手術療法後に放射線治療を併用することが推奨されているが,臨床現場では緊急手術の対応が困難な場合もあり,また進行がん患者ではそもそも手術適応とならないケースも多い.今回の2例では手術適応はなく,放射線治療がその後のQOLの確保に貢献し得た.spinal emergencyへの対応については診療科間の連携による迅速な診断・適切な治療の検討が望ましい.

13. 舌痛に対し漢方治療が有効であった2症例

佐藤 泉*1 早崎知幸*2 小野寺美子*1 神田 恵*1 神田浩嗣*1 国沢卓之*1

*1旭川医科大学麻酔・蘇生学講座,*2慶友会吉田病院漢方科

【緒言】舌痛症は国際頭痛分類第3版では,「口腔内灼熱症候群」の名称で中枢性顔面痛の一つとして分類され,「口腔内の灼熱感あるいは異常感覚が1日に2時間以上,3カ月以上にわたって連日繰り返すもので臨床的に明らかな原因病変を認めないもの」と定義される.一方,なんらかの病気が背景にあって,舌痛症と同様の痛みを起こしたものを二次性の舌痛症と呼ぶ.今回,一次性および二次性の舌痛症に対し,漢方治療が有効であった2症例を経験したので報告する.

【症例1】73歳,男性.X−2年に前歯の歯垢を取ってから舌のただれるような痛みと違和感が出現し,他に冷え,疲れやすい,夜眠りが浅い,唾液が出ないなどの症状があり,X年7月,漢方外来を受診した.気逆,気うつ,気虚を目標に半夏厚朴湯と補中益気湯を合方で処方したところ,翌月には舌の症状がやや改善,X年11月には50年来の足白癬が治り,熟眠できるようになった.X+1年6月には唾液も出るようになり,舌痛はほぼ改善した.

【症例2】62歳,女性.X−2年ごろより口の渇き,舌の痛みが出現.同じころより朝,手がこわばる感じもあり,精査を行ったところ,シェーグレン症候群と診断された.その他,立ちくらみ,手足のほてりなどの症状もあり,X年12月,漢方外来を受診した.漢方医学的所見では腹診で臍傍部の圧痛を認め,お血を目標に煎じ薬にて温経湯を処方したところ,1カ月後には舌の痛みは改善傾向を認めた.数日,内服できないと舌の痛みは増悪するが再開すると改善,また手足のほてりも気にならなくなった.

【考察】舌痛に対し,漢方薬が奏効した症例を2例経験した.2症例とも舌の痛みのみならず,他の症状も改善が認められた.舌痛症の治療にはビタミン剤や抗不安薬,抗てんかん薬等が用いられることがあるが治療に難渋することも多く,これまでにも漢方治療が有効であったとの報告も多い.証に合った漢方薬を処方することで舌痛のみならず他の付随する症状の改善も期待できる.

14. 一時的脊髄電気刺激法が痛みの軽減と運動療法施行に有用であった複合性局所疼痛症候群の1症例

高田幸昌 御村光子 杉本美幸 田村亜輝子 高平陽子 佐々木英昭 木村さおり 宮本奈穂子 山澤 弦

NTT東日本札幌病院麻酔科

【はじめに】脊髄電気刺激法(spinal cord stimulation:SCS)は複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)の治療に有効とされている.今回,一時的SCSが痛みの軽減と運動療法施行に有用であったCRPSの1症例を経験したので報告する.

【症例】50代の女性.10カ月前に左第3指PIP関節橈骨側副靱帯損傷を生じ,靱帯縫合術が試行された.術後より左3–4指の腫脹および疼痛が出現.運動療法を継続していたが,拘縮および手指の骨萎縮を認め,CRPSと診断された.当科初診時にはnumerical rating scale(NRS)5/10の持続痛,暗赤色調変化,アロディニアを認めた.疼痛が運動療法の障害となっていると考え,神経ブロック併用下で運動療法を施行する方針とした.持続硬膜外ブロックおよび持続腕神経叢ブロックでは一定の除痛は得られるものの,運動療法,とくに他動運動後に疼痛が増強した.また,局所麻酔薬濃度を高くすると鎮痛効果は高まるが,運動神経麻痺のため自動運動が不可能となった.続いて,SCSトライアルを行ったところ,開始直後よりNRS 1/10と著明な鎮痛効果が得られた.また運動神経に影響を与えないことから自動運動による運動療法が可能であり,神経ブロック併用時に問題となった他動運動後の疼痛増強も見られなかった.7日後SCS抜去した疼痛増強を認めず,第25病日に退院となった.

【考察】本症例では一時的SCSが安静時痛,動作時痛に対し有効であり,神経ブロックと比較し運動神経に影響を与えないSCSの特性が理学療法施行において有用であった.発症より1年未満の経過であったことが一時的SCSによるCRPS症状の改善において大きな要因であったと考えられる.

 
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