日本ペインクリニック学会誌
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
短報
ペインクリニック外来受診をきっかけにリウマチ性多発筋痛症(PMR)が判明した1症例
鈴木 有希蓑田 祐子東 美木子上村 裕一
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 25 巻 2 号 p. 91-93

詳細

I はじめに

リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)は50歳以上の中高年に発症し,体幹,四肢近位部の痛みやこわばりを特徴とする原因不明の炎症性疾患である1).患者はまず内科や整形外科を受診することが多い傾向にあるが,そこで診断が得られなかった場合,ペインクリニック外来を受診するケースがある.

今回,他院で脳卒中後痛を疑われてペインクリニック外来に紹介となったが,身体所見や血液検査からPMRを疑い,診断を確定できた症例を経験した.

なお本症例報告にあたり,現在,患者本人が意思表示のできない状態であるため,患者家族の同意を得た.

II 症例

症例は57歳,女性.X−1年4月頃より,全身倦怠感を自覚した.近医を受診し,慢性胃炎と診断され加療されるも改善なく,しだいに全身痛を伴うようになった.うつ病を疑われ,精神科で内服治療も受けたが,症状は改善しなかった.X年2月脳外科を受診し,頭部MRIで左被殻放線冠に陳旧性脳梗塞所見を認めたため,脳卒中後痛を疑われ,当科紹介受診となった.

既往歴:53歳時より糖尿病(インスリン療法中).

初診時所見:右側優位に全身痛を訴え,特に肩,腰の痛みが強かった.痛みによる中途覚醒はないが,起床時は動作開始に1時間以上かかっていた.脳梗塞領域の右上下肢に軽度の筋力低下[徒手筋力テスト(MMT)4/5)は認めたが,明らかな麻痺や感覚障害は認めなかった.血液検査で,貧血(Hb 8.9 mg/dl)を認め,白血球は正常であったがCRPの上昇(9.11 mg/dl)を認めた.血糖コントロール不良(HbA1c 8.3%)もあり,炎症性疾患や悪性疾患の存在を疑い精査した.赤沈は>140 mm/hと著明に亢進していたが,リウマチ因子や抗核抗体などの自己抗体は陰性であった.CEAやCA19-9などの腫瘍マーカーは陰性で,全身CTでも悪性疾患を疑う所見は指摘されなかった.これらのことから,PMRが疑われた.当院総合内科に紹介し,さらに全身PET/CTで精査した.PETでは両側の肩関節,胸鎖関節,股関節,膝関節に強い集積を認め,頸椎や腰椎の棘突起間,大腿骨の小転子や大転子近傍にも異常集積を認めた.また,PMRに合併することがある側頭動脈炎を疑う所見は認めなかった.以上の結果からもPMRが強く疑われ,プレドニゾロン(PSL)15 mg/日の内服を開始した.翌日には全身痛が消失し,2週間後の血液検査でCRPも正常化し,PMRの診断が確定した.全身痛は消失したが,血糖コントロール不良と抑うつ症状が続いていたため,4週間後にはPSL 7.5 mg/日まで減量された.その後も当院でPMRの治療を継続する予定だったが,低血糖脳症を発症し,他院での入院加療が必要な状態となった.現在は寝たきりで自宅療養中である.

III 考察

PMRの臨床症状は,比較的急速に両肩,上腕,腰部,大腿部を中心に筋肉のこわばりと痛みが出現する.前駆症状として微熱,倦怠感を伴うことがある1).発症から時間が経過すると体重減少や抑うつ症状も出現してくる.本症例では非特異的な全身症状が強く,また脳梗塞所見を認めたため,前医ではPMRを疑うことが難しかったと思われる.

これまで多くのPMRの診断基準が提唱されているが,2012年にEuropean League Against Rheumatica(EULAR)/American College of Rheumatica(ACR)からPMR暫定分類基準(表1)が発表された2).50歳以上で両肩の痛みを新たに生じた患者において,超音波検査(US)なしの場合,項目の合計が4点以上であれば感度68%,特異度78%でPMRをPMR類似疾患から鑑別できる.USを取り入れた基準も提唱されており,USを含む項目の合計が5点以上でPMR診断の感度は66%,特異度81%であった.USの追加は関節リウマチとの鑑別には寄与しなかったが,他の類縁疾患との鑑別には有用としている2).本症例では,エコー所見なしで5/6点であり,診断基準を満たしていた.しかし,いずれの診断基準を用いてもPMRに特異性の高い項目はなく,鑑別疾患(図13)は常に念頭に置かねばならない.

表1 PMR暫定分類基準(EULAR/ACR 2012)
[対象患者の必要条件:50歳以上,両側の肩付近の痛みがある,CRP and/or赤沈の上昇がある]
  US所見
なし あり
・45分以上続く朝のこわばり 2 2
・股関節痛or股関節の可動域制限 1 1
・リウマトイド因子および抗CCP(cyclic citrulinated peptide)抗体が陰性 2 2
・肩関節,股関節以外の関節に症状がない 1 1
US所見    
・少なくとも一方の肩で三角筋下滑液包炎,二頭筋腱鞘滑膜炎,肩関節滑膜炎のいずれか,かつ少なくとも一方の股関節において滑膜炎/転子包炎を有する 1
・両方の肩で,三角筋下滑液包炎,二頭筋腱鞘滑膜炎,肩関節滑膜炎のいずれかがある 1
US所見のない場合は4点以上で,
US所見がある場合は5点以上でPMRと分類する

(文献2より改変)

図1

近位筋の筋痛と硬直に対する評価のためのアプローチ

(文献3より改変)

PMRの治療は少量のステロイドが第一選択である.EULAR/ACRの最新治療指針ではPSL 12.5~25 mg/日より開始することを勧めている4).また,緩徐なステロイドの減量が推奨されており3,4),英国の治療指針で推奨されるレジメンでは,PSL 15 mg/日を3週継続,12.5 mg/日を3週継続,10 mg/日を4~6週継続,その後4~8週ごとに1 mgずつ減量としている3).高齢発症の例が多いため,ステロイド性消化管障害や骨粗鬆症予防に関して十分注意する必要があり,長期にわたる合併症の管理や再発のモニタリングが必要である.本症例では糖尿病の合併のため血糖コントロールに苦慮した.

1年近く遷延する全身痛の原因がPMRと診断に至った症例を経験した.ペインクリニック外来で全身痛を訴える中高年患者を診察するときは,詳細な問診や身体診察を行い,筋骨格系に痛みやこわばりがある場合はPMRも念頭に置く必要がある.

本稿の要旨は,第35回九州ペインクリニック学会(2017年2月,福岡)において発表した.

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
feedback
Top