日本ペインクリニック学会誌
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コラム
カンザス大学メディカルセンターペインクリニックと日本との相違
小林 玲音不破 礼美上島 賢哉安部 洋一郎信太 賢治大嶽 浩司
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2018 年 25 巻 4 号 p. 290-291

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I はじめに

今回,昭和大学病院麻酔科教授大嶽浩司先生のご尽力で,カンザス大学メディカルセンターのペインクリニックを見学することができた.数年前,カンザス大学のTalal Khan教授が昭和大学病院に脊髄刺激療法について講義しに来てくださった経緯があり,そのご縁で研修させていただくことになった.

カンザス大学メディカルセンターはベッド750床,手術室40室があり,全米トップ50病院に入っている評価の高い大学病院である.見学したのは特に“Spine Center Clinic”と“Procedure Clinic”であった.“Spine Center Clinic”は日本のペインクリニック外来,“Procedure Clinic”は透視下ブロックまたはインターベンショナル治療を行う透視室を意味していた.

わが国とカンザス大学との相違点を記すにあたり,現在著者が所属しているNTT東日本関東病院ペインクリニック科と比較してみた.当科に関しては以前の報告1)を参考にしていただければ幸いである.

II わが国との相違点

“Spine Center Clinic”と“Procedure Clinic”の医師はペインクリニック専門医が5人,フェロー2人,レジデントが1人で,日替わりで持ち場を変更するシステムであった.専門医のうち2人は,週1日手術室での勤務があった.ナースプラクティショナーというわが国にはない職業のナースも2人,診療に携わっていた.彼女らは週2~3日の勤務で,診療,外来でのブロックまでは行うが,透視下神経ブロックは行えないという制限がある.両クリニックでは彼女らも加えると10人のスタッフが,日々の診療にあたっていた.

Spine Center Clinicは14室の個室があり,専門の受付が3つ,事務員が4人常駐していた.1日の新患は10~12人で再診は20人程度であった.新患と再診をまずフェローまたはナースプラクティショナーが診察し,その結果を上級医(専門医)に伝えた後,上級医が患者のところへ行き治療方針を説明するという流れであった.診察日にはX線撮影,採血,処方はできるが,ブロックは保険が適用されないため施行できず,数日は待たなければならなかった.

処方薬は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),アセトアミノフェン,ガバペンチンが多かった.麻薬は容易には処方されず,麻薬使用量を減らすためにブロックを数多く行っていた2)

Procedure Clinicには,C-arm透視室3室,壁とカーテンで仕切られた回復室10室があり,1日20~30件程度のX線透視下神経ブロックが行われていた.ここには,ナースが8人,放射線技師1人が常駐していた.医師は,ブロック前に回復室で簡単な診察とブロック部位のマーキングを行い,ブロック準備が整った時点で透視室に入るという流れであった.特に多いのは頸椎,腰椎における,硬膜外ブロック,神経根ブロック,後枝内側枝ブロック,後枝内側枝高周波熱凝固法であった.

脊髄刺激療法もわが国に比して数多く行われていた.トライアルは週5件程度施行され,1件につき15分で終了した.術中に刺激部位を確認することはなく,終了直後に脊髄刺激装置販売会社の担当者が調整し,患者は1週間自宅で経過観察を行う.本植え込みに至る評価項目は,痛み〔数値評価スケール(NRS)〕が50%軽減するかどうかの1点のみで,この評価が達成されなければ保険が適用されない.使用できる会社は4社で,10 kHzの高頻度刺激の行えるNevroという会社の製品がよく使用されていた.しかし適応については,まさに研究中であり,明確には決まっていなかった.

その他,経皮的椎体形成術(PVP),ガッセル神経節ブロック(GGB),脊髄くも膜下カテーテル挿入,腹腔神経叢ブロックなども行われていた.わが国と異なる点として,たとえばPVPはDFINETMというデバイスを使用し片側アプローチで行われており,GGBは60℃・90秒と低温・短時間で行われていた.

カンザス大学では臨床研究も盛んに行われていた.リサーチを担当するチームがあり,彼らがデータ収集,解析,図表の作成などさまざまな研究のサポートをしていた.彼らは研究によって患者の家まで赴くこともしばしばで,そのようなデータ収集の煩雑さを改善するためにも,スマートフォンで患者自らデータを入力するシステムを大学が構築した.見学するにつれ,われわれが世界に向けて多くのエビデンスを発信するために,どんな方法がとれるかを考えざるをえなかった.

カンザス大学の強みは,人,物,金の充実であると感じた.英語を母国語とし,3室のC-arm透視室を自由に使え,そして何より充実した多くのスタッフがいることから,世界に向けた情報発信が数多くできていると思われた.しかし保険制度が違うため,日本のように頻繁に患者を来院させて,きめ細かく評価することはなかった.また手技では超音波ガイド下ブロックはあまり施行されていなかったことに加え,パルス高周波や硬膜外洗浄,経皮的椎間板摘出術なども施行されていなかった.

III さらなる発展のために

これらを鑑みると,カンザス大学が優れている点も多いものの,NTT東日本関東病院がカンザス大学よりも優れていると思われる点がいくつもあることを認識できた.外来において頻回に患者を評価して神経ブロックを施行できる点,超音波ガイド下神経ブロックを多く行っている点,ランドマーク法神経ブロックからX線透視下でのパルス高周波や硬膜外洗浄,手術室での経皮的椎間板摘出術まで非常に幅の広い手技を行っている点である.これらの強みを活かしながら,わが国において長年にわたって培ってきた技術を世界に向けて発信するために克服しなければならない問題点があると感じた.

問題点の1つは,わが国のペインクリニックでは特に神経ブロック療法に関する研究をする人員が不足していることである.手術室が忙しく,人的資源をペインクリニックに割けないことも一因であると思われる.ペインクリニックに従事する医師,看護師,コメディカルが施設や地域の枠を越えてチームを作り,中長期的な視点で継続的に臨床研究のために時間を割きあうことが不可欠であると考える.

2つ目は,ペインクリニックでの海外留学の道が未開拓なことである.海外で神経ブロックや脊髄刺激療法などを施行するにはその国の医師免許が必要であることや,国内での英語習得には多少の困難を伴うことを考えると,海外留学は容易ではないかもしれない.しかし,あのカンザス大学の圧倒的なパワーを見てしまった今,海外との交流なしに,これからの発展は考えられなくなってしまった.こうした大きな内的変化を継続して惹起するためにも,まず個人として国際学会での発表や英語論文の投稿をすべく日々努力していきたいと思った.

カンザス大学メディカルセンターのSpine Center ClinicとProcedure Clinicを見学し,日本のペインクリニックよりどのように優れているか,その特徴を把握することができた.一方で,米国の最先端の施設をも上回る日本の神経ブロック療法を,非常に価値のあるエビデンスとして世界に向けて発信していかなければならないと痛感した.

文献
  • 1)  上島賢哉. NTT東日本関東病院ペインクリニック科におけるX線透視下神経ブロックの現状. ペインクリニック 2018; 39: 279–86.
  • 2)   Manion  S,  Khan  TW. Emphasizing Primary Prevention in the Curriculum to Mitigate Prescription Drug Abuse. Acad Med 2017; 92: 725.
 
© 2018 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
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