日本ペインクリニック学会誌
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25 巻, 4 号
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総説
  • 伊東 久勝, 服部 瑞樹, 堀川 英世, 竹村 佳記, 山崎 光章
    原稿種別: 総説
    2018 年 25 巻 4 号 p. 231-237
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    遷延性術後痛(chronic postsurgical pain:CPSP)は,多くの患者のQOLを損失する深刻な手術合併症である.CPSPは侵襲の大きさなどの手術因子,精神・心理的因子や遺伝素因などの患者関連因子,環境因子を含んだ複合的なメカニズムによって発症し,その病態の理解は単純ではない.これまでにCPSP対策として薬物療法,神経ブロック,低侵襲手術の普及などさまざまな治療介入が行われており一定の効果は得られているが,より効果的な治療介入の開発のためにさらなる研究が望まれる.精神・心理的因子はCPSPの明らかな危険因子であり,これらの影響を評価し適切な治療介入を行うためには,痛みの有無や強度のみの単純な評価だけではなく,痛みの多面的評価が必要である.最近では,遺伝子解析やMRIなどの先進的な手法を用いてCPSPのリスクや病態を客観的に評価する試みがなされている.本稿ではCPSP対策の現状と今後の課題を中心に概説する.

原著
  • 伊達 久, 森田 行夫, 北村 知子, 山城 晃, 綿引 奈苗, 渡邉 秀和, 滝口 規子, 堤 祐介, 岩永 浩二, 千葉 知史
    原稿種別: 原著
    2018 年 25 巻 4 号 p. 238-243
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    【目的】慢性疼痛に対しトラマドール含有製剤(以下,トラマドール)が広範に使用されるようになった.そこで日常診療においてトラマドールを長期投与した症例について投与量,効果,副作用などの推移を調査することとした.【方法】当院の診療録を後方視野的に検索し,トラマドールを3年以上長期に投与した症例の投与量,痛みの程度,副作用などについて集計することとした.【結果】トラマドールは2,656例に投与され,そのうち,3年以上継続投与された症例が50例あった.平均年齢は約61歳,痛みの内訳は運動器疾患(腰背部痛)24例,運動器疾患(頸部上肢痛)14例,運動器疾患(下肢痛)7例,帯状疱疹後神経痛4例などであった.痛みの程度については,開始時の視覚アナログスケール(VAS)が平均70.7 mmであったが,投与後3カ月以降はおおむね40 mm以下に推移し,投与後約3年時には平均33.6 mmまでに改善した.おもな副作用はめまい・傾眠・倦怠感,悪心・嘔吐,便秘で,投与期間別に発現頻度をみると,開始後3カ月までの発現率が高かった.【結論】トラマドールを3年間以上継続投与した症例では重大な副作用はなく,トラマドールは患者の観察を行いながら注意深く使用すれば長期に使用できることが確認された.

  • 山田 直人, 大畑 光彦, 高橋 裕也, 三浦 皓子, 鈴木 翼, 青木 優子, 宮田 美智子, 水間 謙三, 鈴木 健二
    原稿種別: 原著
    2018 年 25 巻 4 号 p. 244-250
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    慢性痛患者は,夜間痛による不眠と鎮痛薬の副作用から生じる日中の眠気が問題となる.当科通院中の慢性痛患者100例を対象とし,日中の眠気についてアンケートでの実態調査を行った.日中の眠気は視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)(眠気VAS)で評価し,眠気VAS 50を境として患者を2群に分けて比較し,眠気のリスク因子について検討した.眠気VAS<50(A群)38例,眠気VAS≧50(B群)62例となり,眠気VAS≧50の患者が6割以上であった.また両群を共変量としたロジスティック回帰分析により帯状疱疹後神経痛・抗うつ薬使用が眠気VAS≧50のリスク因子と判明した.Epworth眠気尺度の点数はB群で高かったが,慢性痛と睡眠時無呼吸症候群との関連性は明らかにならなかった.アテネ不眠尺度に群間差はなかったが,両群とも中央値は6点以上であり,夜間の睡眠障害が疑われた.慢性痛患者は不眠傾向にあり,帯状疱疹後神経痛・抗うつ薬使用は日中の強い眠気を引き起こす可能性が示唆された.

  • 前田 薫, 生駒 美穂
    原稿種別: 原著
    2018 年 25 巻 4 号 p. 251-258
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    【目的】がん患者の痛みを緩和するために,オピオイドを漸増し,結果的に非常に高用量となる症例をしばしば経験する.今回,がん患者のオピオイド投与量に影響する因子について検討した.【方法】2009年1月1日から2014年12月31日までに新潟大学医歯学総合病院緩和ケアチームが関与した患者のうち,20歳以上で固形がんと診断され,オピオイドの処方を開始から死亡まで当院で行った症例について,電子カルテによる後ろ向き調査を行った.オピオイド徐放製剤の量に応じてA群(経口モルヒネ換算で120 mg/日未満),B群(同120 mg/日以上300 mg/日未満),C群(300 mg/日以上)の3群に分け,オピオイド量に影響する因子について検討した.【結果】対象は109名.A群は51名,B群は33名,C群は25名であった.C群では他群に比べ年齢が低く,オピオイドの投与期間が長く,増量幅が大きく,神経浸潤が多かった.【結論】がん患者において,若年,長いオピオイドの投与期間,オピオイドの増量幅が大きいこと,神経障害性痛の要素が,高用量のオピオイド投与に影響する可能性が示唆された.

  • 立岡 良夫, 小野 ゆき子, 海法 悠, 大西 詠子, 村上 衛, 山内 正憲
    原稿種別: 原著
    2018 年 25 巻 4 号 p. 259-262
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    【背景】市販メントールクリームは,皮膚に清涼感と侵害刺激と類似した感覚を生じさせる.その主成分であるL-メントールは,鎮痛効果と痛覚過敏の誘発という二面性を持つことが報告されている.メントールクリームが痛覚と知覚に及ぼす影響を詳細に検討することは,痛み発生メカニズム解明の一助となる可能性がある.【目的】メントールクリームが機械刺激と電流刺激の感受性に及ぼす影響を明らかにする.【対象と方法】健常者80名の前腕にメントールクリームを塗布し,塗布前後でピン刺激に対する視覚アナログスケール(VAS)値とPainVision®[ニプロ(株)]の電流刺激に対する知覚閾値と痛覚閾値を測定した.【結果】ピン刺激に対するVAS値と知覚閾値は塗布前後で有意に変化しなかった.塗布後に痛覚閾値は平均19.2%(95% CI 18.6~19.8,P<0.01)低下し,塗布前の痛覚閾値が高い被験者ほど塗布後の低下が大きい傾向があった(r=−0.39,P<0.001).【結語】メントールクリームは電流刺激に対する痛覚過敏を惹起し,その程度は電流刺激で痛みを感じにくい被験者ほど大きかった.

  • 木村 さおり, 御村 光子, 宮本 奈穂子
    原稿種別: 原著
    2018 年 25 巻 4 号 p. 263-267
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    ペインクリニックにおける診断の際には,常に悪性疾患を念頭に置く必要がある.当科受診により悪性疾患が判明した13症例について,主訴,判明した悪性疾患,症状の発現機序,他科からの紹介の有無,診断に至る経過について後方視的に検討した.13症例中10症例が他院紹介であった.主訴は4症例が帯状疱疹痛であり,9症例は悪性腫瘍原発巣または転移による痛みであった.症状出現から当科受診までの期間,受診から診断までの日数の中央値は各々35日,1日であった.10症例は当科での画像診断により悪性疾患が判明,うち7症例は初診当日のMRI,CT検査により診断された.当日診断に至らなかった6症例は,画像診断が再診以降となった4症例(診断まで3~14日)と,当科初診時に悪性腫瘍を疑い他科に精査を依頼後診断までに時間を要した2症例(28~30日)であった.ペインクリニックでは他科で診断を得たうえでの紹介症例が多いが,他に悪性疾患が潜在している症例もある.今回の研究では,身体所見,検査所見上悪性疾患を疑った場合はペインクリニックでイニシアチブを取り,精査を進めていくことが速やかな診断に結びつくという結論を得た.

症例
  • 寺田 忠徳, 中西 司, 北村 典章
    原稿種別: 症例
    2018 年 25 巻 4 号 p. 268-272
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    新規抗うつ薬であるベンラファキシ(イフェクサー®)を投与した結果,抑うつ症状ならびに神経障害性疼痛の改善を認めた慢性腰痛患者の症例を経験した.症例は80歳代の女性.10年前より腰部脊柱管狭窄症による腰痛症にて近医で投薬,リハビリテーションを施行されていたが改善せず,抑うつ状態も認められ当科に入院加療となった.トラマドールに加え,ベンラファキシンを投与した結果,抑うつ状態の改善ならびに神経障害性疼痛の軽減を認めた.ベンラファキシンは,抑うつ症状の改善や,神経障害性疼痛の軽減効果があり,患者のQOL向上が期待できることから,有用性が高い薬剤であることが本症例から示唆された.

  • 旭爪 章統, 横川 直美, 山本 陽子
    原稿種別: 症例
    2018 年 25 巻 4 号 p. 273-277
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    肋軟骨損傷による季肋部痛を訴えるスポーツ選手に対し,肋間神経へパルス高周波法(PRF)を行うことで鎮痛を得て復帰できた症例を経験したので報告する.症例は20歳代の男性.スポーツ競技練習中に他選手に押しつぶされて左肋軟骨を損傷し,体動時,特に初動時の左季肋部痛のためプレーに支障が出る状態であった.受傷5日後に受診.左季肋部の圧痛部位を確認し該当範囲の肋間神経へ対しマイクロコンベックスプローブ・平行法を用いた電気刺激併用超音波ガイド下穿刺手技でPRFを施行したところ,痛みの軽減を得て競技に復帰することができた.肋軟骨損傷は多くの症例が保存的加療となるが,治癒までは体動に伴う刺激で痛みが継続する.しかし“副作用のため内服が困難”,“生活上安静が困難”などの理由から鎮痛維持が難しい症例も存在する.PRFは神経組織の変性を起こす可能性が低く筋力低下や知覚障害などを生じにくい治療手段であり,肋骨や肋軟骨損傷に伴う急性痛に対して同治療は有効な一手段になりうると考える.またその際にマイクロコンベックスプローブを用いて平行法で穿刺を行うことが安全担保に寄与しうる.

  • 前田 愛子, 塩川 浩輝, 外 須美夫
    原稿種別: 症例
    2018 年 25 巻 4 号 p. 278-282
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    電解質異常は重篤な合併症をきたす可能性があり,速やかな原因検索と治療を必要とする.今回,眼部帯状疱疹に伴う電解質異常をきたした症例を経験したので報告する.症例1は75歳の女性.左眼部帯状疱疹を発症し当科受診した.血清ナトリウム低値(119 mEq/ℓ),血清カリウム低値(2.6 mEq/ℓ),血清浸透圧の低下と尿中ナトリウム排泄の上昇がみられ,抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)および低カリウム血症と診断した.水分制限と電解質補充で改善した.症例2は74歳の男性.右眼部帯状疱疹を発症し当科受診した.血清ナトリウム低値(127 mEq/ℓ),血清浸透圧の低下と尿中ナトリウム排泄の上昇がみられSIADHと診断した.水分制限のみで改善した.両症例ともに浮腫や脱水,中枢神経疾患や肺疾患はなく,診断基準を満たすことから低ナトリウム血症の原因はSIADHと診断した.過去の文献では帯状疱疹関連SIADHは三叉神経領域の報告が多い.また,低カリウム血症は低ナトリウム血症に一定の割合で伴うと報告されている.まれな合併症であるが,帯状疱疹治療中は電解質異常をきたす可能性を念頭におく必要がある.

  • 三浦 美英, 三浦 真奈, 吉本 裕代, 近藤 里美
    原稿種別: 症例
    2018 年 25 巻 4 号 p. 283-286
    発行日: 2018/10/25
    公開日: 2018/11/07
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    高齢者の急性痛3症例に対し,音楽療法士による音楽療法(music therapy:MT)を施行したところ,退院への意欲向上と痛みのさらなる軽減を認めたので報告する.症例は,腰部脊髄神経根症による腰下肢痛再発の78歳,および帯状疱疹痛の84歳と85歳のいずれも女性であり,初診時の数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)10の痛みに加え睡眠障害や抑うつなどの併存症がみられた.3症例とも神経ブロックと薬物療法により痛みレベルが低下した.しかし,退院可能と判断された後も抑うつ傾向が残存し,退院は拒否された.腰下肢痛再発の症例1において,長期化する入院生活の質向上を目的にMTを導入したところ,予期せず退院への意欲向上に有効であった.また,NRSのさらなる低下も得られた.その経験を続く2症例にも適用し,同様の効果が認められた.MTの有用性は慢性痛ですでに報告されているが,急性痛でも抑うつなどの精神症状を併存する場合に試みてよい治療法と思われた.

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