日本ペインクリニック学会誌
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症例
帯状疱疹関連痛に対するパルス高周波の効果
吉河 久美子田代 章悟清永 夏絵西村 絵実大納 哲也上村 裕一
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2019 年 26 巻 1 号 p. 32-35

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Abstract

帯状疱疹関連痛に対してパルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)を施行した症例を,後ろ向きに検証した.対象は,2016年1月から12月までの帯状疱疹関連痛に対してPRFを施行し治療から評価までの間に新規治療の導入のない,7症例(のべ10回のPRFを施行)とした.患者数は7名(男4名,女3名),年齢71.2±12.3(平均±標準偏差)歳に対して治療を行い,うち1名には2回,もう1名には3回施行した.帯状疱疹発症から初めてのPRF施行までの期間は最短で42日,最長で5年3カ月であり,治療から評価までの期間は17±3.6(平均±標準偏差)日であった.評価は治療前後の視覚アナログスケール(VAS)に対してVAS値30%以上低下を有効,VAS値50%以上低下を著効とし検証を行い,また,個々の症例における鎮痛効果に対して考察を行った.結果は,有効が5回,そのうち著効は4回であった.また,いずれも治療による合併症はなかった.今後,病期ごとに分類しVAS値に加え効果持続期間などを項目として前向き研究を行う必要があると考える.

I はじめに

パルス高周波法(pulsed radiofrequency:PRF)は,高周波熱凝固装置を用いて,先端が露出したスライター針から高周波を間欠的に通電することにより,電場を発生させ鎮痛効果を得る治療法である.間欠的に通電することで針先端の温度は42℃以下に保たれる.そのため,神経破壊を伴う熱凝固を起こすことなく治療でき,筋力低下や知覚障害,運動麻痺が生じにくい1,2).近年,PRFは安全で低侵襲の治療法として広く行われるようになったが,帯状疱疹関連痛に関した報告は少ない.このため,今回われわれは,帯状疱疹関連痛に対してPRFを施行した症例に対し,治療効果と合併症の有無を後ろ向きに検討した.

本研究に関しては院内倫理委員会で承認を得た(承認番号:170176疫).

II 症例

1. 対象と方法

対象は2016年1月から12月までの帯状疱疹関連痛に対しPRFを施行した7症例(のべ10回のPRFを施行)とした(表1).患者7名の内訳は男性4名,女性3名で,年齢は71.2±12.3(平均±標準偏差)歳,治療回数は1回のみが5名,2回が1名,3回が1名であった.罹患部位は前額部,胸背部,鼠径部であり,帯状疱疹発症から初めてのPRF施行までの期間は最短で42日,最長で5年3カ月であった.なお,症例抽出においては,治療から評価までの間に新規治療の導入がない症例とし,治療から評価までの期間は17±3.6(平均±標準偏差)日であった.

表1 PRFを施行した患者背景
症例 年齢・性別 罹患部位 発症からPRF
までの期間
50歳・女性 右V1 42日
②‐1 75歳・女性 右L1 8カ月
②‐2 11カ月
③‐1 81歳・女性 左Th3 4年8カ月
③‐2 4年10カ月
③‐3 5年4カ月
77歳・男性 右Th7 3カ月
81歳・男性 左Th3 8カ月
63歳・男性 左Th5 4カ月
67歳・男性 右Th2 5年3カ月

症例①は,超音波ガイド下に眼窩上神経PRFを行った.まず,超音波ガイド下に眼窩上切痕部位をマーキングし,次に,100 Hz,0.4 Vの電気刺激を併用しながら,スライター針[22G×53 mm(Ac-4)]を同部位から穿刺した.疼痛部位へのパレステジアが得られた位置で360秒通電した.症例②~⑦は,X線透視下に神経根PRFを行った.針先の位置はKimらの報告3)を参考に,スライター針[22G×99.5 mm(Ac-4)]を側面像で椎間孔の頭背側に位置するように誘導した.正確な位置は100 Hz,0.5 V以下の電気刺激で疼痛部位へのパレステジアを確認することにより決定した.1%メピバカイン0.5 mlを注入後に360秒通電した.通電時間に関しては,山下4)らの報告を参考にした.いずれも高周波熱凝固装置としてNeuro Therm JK3®を使用した.

のべ10回の治療前後の視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)に対してVAS値30%以上低下を有効,VAS値50%以上低下を著効とし検証を行い,また,個々の症例における鎮痛効果に対して考察を行った.

2. 結果

すべての施行例において,疼痛部位へのパレステジアが得られた.10回中有効が5回,そのうち著効は4回であった(図1).VAS値以外では,PRF 10回のうち9回において,治療により痛みが緩和したという患者評価が得られ,その他の改善点として,知覚改善,アロディニア軽減や消失,突出痛の消失,夜間痛消失などを認めた(表2).帯状疱疹から4年以上経っている慢性期にも疼痛の改善を認めており,いずれも治療による合併症はなかった.

図1

PRF治療前後でのVAS値の推移

表2 PRF治療前後の評価と評価までの期間
症例 評価まで
の期間
VAS値
(PRF前)
VAS値
(PRF後)
VAS改善率
(%)
改善点
23日 14 0 100.0 疼痛強度の軽減
アロディニア消失
右眼周囲の知覚改善0/10→2/10
②‐1 14日 36 29 19.4 疼痛強度の軽減
②‐2 21日 24 21 12.5 疼痛強度の軽減
③‐1 18日 87 22 74.7 疼痛強度の軽減
持続痛から間欠痛へ
③‐2 18日 21 16 23.8 疼痛強度の軽減
突出痛消失
③‐3 21日 26 18 30.8 疼痛強度の軽減
痛みの持続時間が減少
14日 64 51 20.3 疼痛強度の軽減
アロディニア軽減
14日 26 27 0 なし
14日 20 10 50.0 疼痛強度の軽減
29日 35 15 57.1 疼痛強度の軽減
夜間痛消失

III 考察

帯状疱疹関連痛に対する治療としては,薬物療法,神経ブロックなどがあるが,近年,帯状疱疹関連痛に対するPRFの有効性が示されてきた3).PRFは神経を破壊させる熱作用を伴わずに電場を発生させることにより,これまで高周波熱凝固では禁忌とされていた後根神経節や神経障害性痛の罹患部位への治療も可能となった1).Kimらは,49症例の帯状疱疹後神経痛患者に対してPRFを施行し,12週間の前向き試験を行い,治療前と比較しVAS値の有意な低下が認められたと報告している3).Wangらは慢性期帯状疱疹後神経痛患者40名を薬物療法群とPRF群でランダムに選択して行ったランダム化比較試験(RCT)で,PRF群での有意なVAS値の低下,および睡眠障害の改善を報告している5)

今回,われわれの研究においても帯状疱疹関連痛に対するPRFは効果的であり,かつ合併症は認められなかった.症例②と③はさらなる治療効果を期待して再施行し,症例③はその後の経過中に疼痛が軽度増強したため,PRF効果が減弱し始めていると判断し再々施行となった.なお,Shiらの報告でも,繰り返しのPRFによる悪影響はないと報告されている6).症例⑤では,症状の改善は認められなかったものの,PRF施行後3カ月までのVAS値は横ばいで推移し,症状の増悪は認められなかった.症例⑦は,PRF施行4カ月後より施行前のVAS値に戻ったため,薬物療法と神経根ブロックなどの神経ブロック療法で対応した.その他の症例では,現在も疼痛軽減は継続しており,内服終了に至った症例もあった.また,Kimらの報告をもとに針先を誘導することによって,すべての施行例で疼痛部位へのパレステジアが得られた.より神経根近傍に針先を誘導することができたと考えるが,今回の症例では,疼痛機序として求心路遮断性疼痛の関与が低いことも考えられた.

本研究でのlimitationとしては,後ろ向き研究であること,症例数が少ないこと,病期が混在していることがあげられる.今後の課題として,病期(急性期,亜急性期,慢性期)ごとに分類し,VAS値に加え感覚評価,QOL評価,効果持続期間などを項目として,症例数を増やした前向き研究を行うこと,通電時間,アプローチ方法などのより適正な施行条件を検討することなどがあげられる.これにより,帯状疱疹関連痛に対するより効果的なPRFのプロトコールの構築が可能になると考えられる.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)において報告した.

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