日本ペインクリニック学会誌
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症例
超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックによる三叉神経第三枝急性期帯状疱疹関連痛の治療経験
高橋 亜矢子植松 弘進大迫 正一博多 紗綾鈴木 史子松田 陽一
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2019 年 26 巻 1 号 p. 44-47

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Abstract

症例は34歳,女性.左三叉神経第三枝の帯状疱疹を発症し,左下顎・耳介・耳珠に強い帯状疱疹関連痛が出現した.星状神経節ブロックにより下顎の痛みは改善したが,左耳介・耳珠の強いアロディニアが残存した.超音波ガイド下に浅層での耳介側頭神経ブロックを施行したところ,耳介・耳珠のアロディニアは著明に改善し,計3回のブロックにより消失した.耳介側頭神経領域の痛みが強い三叉神経第三枝の急性期帯状疱疹関連痛に対して感覚神経ブロックを施行する場合には,下顎神経ブロックや深部の耳介側頭神経ブロックを行う前に,浅層でより末梢レベルの耳介側頭神経ブロックを行うことで痛みの改善が期待できる.また,従来ランドマーク法で施行されてきた浅層の耳介側頭神経ブロックを超音波ガイド下法で施行することにより,より少量の局所麻酔薬で安全・確実なブロックが可能となる可能性が示唆された.

I はじめに

三叉神経第3枝(V3)領域の帯状疱疹は頻度が少なく,同領域の帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain:ZAP)に対する神経ブロック治療に関する報告もほとんどない.顔面のZAPに対する神経ブロック治療としては星状神経節ブロック(stellate ganglion block:SGB)が推奨されている1)が,SGBが無効な場合にはV3領域のZAPではオトガイ神経ブロック,下顎神経ブロック,ガッセル神経節ブロックなどの知覚神経ブロックも考慮される.しかし,X線透視下に顔面深部に針を刺入する下顎神経ブロックとガッセル神経節ブロックは外来診療で実施することが容易ではなく,オトガイ神経ブロックは痛みの部位が下顎遠位に限局した症例に適応が限定される.

今回われわれは,SGBによる治療後に耳介・耳珠の強いアロディニアが残存したV3領域の急性期ZAPの症例に対し,浅層での耳介側頭神経ブロックを施行することにより良好な転帰が得られたので報告する.また,ブロック時の苦痛を軽減し,より安全に耳介側頭神経ブロックを行うために,マイクロコンベックスプローブを用いた超音波ガイド下ブロックを施行したので,得られた知見についてもあわせて報告する.

本症例報告を行うことについて,患者本人に説明を行い,承諾を得た.

II 症例

患者は34歳,女性.19年前より全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)に罹患し,プレドニゾロン2 mgを内服していた.39℃の発熱4日後に,左下顎,左側頭部に水疱が出現し,左こめかみと左耳に痛みを自覚したため近医を受診し,左V3領域の帯状疱疹と診断された.発症4日目に当院皮膚科に緊急入院し,アシクロビルの点滴治療が開始された.入院時,水泡形成部に数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)で10/10の疼痛を認めたため,ロキソプロフェンナトリウム180 mg/日,アセトアミノフェン2,400 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤16単位/日およびプレガバリン150 mg/日が処方され,発症7日目には持続痛はNRS 4/10まで軽減を認めた.しかし,発症10日目に薬剤性肝障害のためプレガバリンが中止されると痛みが再度増悪したことから,発症12日目に当科に紹介された.当科初診時,皮疹は痂皮化していたが,左下顎・外耳道・耳介・耳珠に,NRS 8/10の持続痛と,触刺激で誘発され1分間ほど持続するNRS 10/10の電撃痛(アロディニア)がみられ,左下顎の冷覚が4/10に低下していた.顔面神経麻痺はみられなかった.

発症12日目と14日目に超音波ガイド下に左星状神経節ブロックを施行したところ,持続痛はNRS 3/10まで軽減したが,左耳介・耳珠のアロディニアは8/10と強く残存した.耳介側頭神経の支配領域に限局したアロディニアに対する治療を行うため,発症17日目に左耳介側頭神経ブロックを施行した.Pinoskyらにより報告されている,耳珠前部の浅側頭動脈背側を走行する末梢側の神経をターゲットとする盲目的ブロック法(ランドマーク法)2)によるブロックを検討したが,触診による浅側頭動脈の拍動が確認しにくく,また耳珠のアロディニアが非常に強いため触診による強い圧迫が苦痛となることから,超音波ガイド下に同部位での耳介側頭神経ブロックを施行する方針とした.患者の体位は顔を健側(右側)に向けた仰臥位とし,耳珠前部にマイクロコンベックスプローブ(SonoSite S-Nerve,富士フィルムソノサイトジャパン)を強く押しつけないように慎重に当て(図1a),カラードップラーモードにて耳珠前方1 cm,深さ1 cmを頭尾側方向に走行する浅側頭動脈を確認した(図1b).同部位で浅側頭動脈に併走する耳介側頭神経を超音波画像上ではっきりと確認することができなかったが,25 G注射針を交差法にて穿刺し,浅側頭動脈の背側に針先を慎重に進め,局所麻酔薬を動脈の背側に浸潤するように緩徐に注入した.針の刺入時に神経穿刺を疑わせる放散痛の訴えはなかった.局所麻酔薬が神経に確実に浸潤することを期待して1%リドカイン5 mlをゆっくりと注入したところ,ブロック直後より左耳介・耳珠のアロディニアは消失した.一時的に顔面神経麻痺による兎眼が出現したが,10分後には消失した.アロディニアは局所麻酔薬の作用時間を超えて一日中完全に消失し,皮膚症状も落ち着いていたため,ブロック翌日の発症18日目に退院し,以後外来通院での治療に切り替えた.退院日以後,持続痛はNRS 3に軽減した状態が維持されたが,左耳介・耳珠のアロディニアはNRS 8/10の痛みが起こる頻度は激減したものの,完全な消失には至らなかったため,発症20日目に外来にて2回目の耳介側頭神経ブロックを行った.1回目の経験をふまえ,超音波ガイド下の穿刺方法は1回目と変更せず1%リドカインの注入量を2 mlにとどめたところ,顔面神経麻痺が出現することなくアロディニアの消失が得られた.2回目の耳介側頭神経ブロック後,左耳介・耳珠のアロディニアは完全に消失したが,再発への不安を訴えたため,発症24日目に3回目の耳介側頭神経ブロックを行った.その後も耳介・耳珠のアロディニアは再発しなかったことから,ブロック治療を終了した.NRS 3/10の持続痛は左耳珠に残存し,左舌に軽度のしびれが持続したため,発症40日目よりデュロキセチンを開始し,60 mgまで漸増したところで持続痛としびれは消失した.以後,症状は再燃せず,発症8カ月後にデュロキセチンを中止し診察を終了した.

図1

超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックの実際

a:耳介側頭神経ブロック時の体位と穿刺部位.仰臥位で顔は健側に向け,耳珠前方で穿刺

b:カラードップラー法による浅側頭動脈の確認.矢頭:浅側頭動脈

III 考察

本論文は,耳介・耳珠に強いアロディニアを呈したV3領域の急性期ZAPに対する超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックの有効性を詳述した,初めての症例報告である.

耳介側頭神経は,下顎神経から中硬膜動脈を挟む形で通常2根から起こり,下顎骨関節突起部で外側上方に曲がり,耳下腺の下で浅側頭動脈の後方に達し諸枝に分かれ,耳介,外耳道,鼓膜,側頭部に達する.耳介側頭神経は上方に曲がるところで顔面神経の上部と合流する交通枝を出す.耳介側頭神経ブロックは,おもに手術麻酔のために用いられるランドマーク法による浅層・末梢側でのブロック2)とX線透視下法による深層・中枢側でのブロック3)が報告されている.X線透視下ブロックでは,ブロック側の口角3 cm外方,2 cm頭側を刺入点とし,X線透視下に卵円孔の下壁やや耳側を目標に9 cm長のブロック針を進め,こめかみ・側頭・頭頂部への放散痛を確認する.下歯槽神経や舌神経をブロックしてしまうとオトガイや舌の感覚麻痺が起こる.また,耳管穿刺や血管内注入のリスクもあり注意が必要である.以上のことからX線透視装置が必要な深層・中枢測ブロックは外来診療で実施するのは容易でなく,汎用性に乏しい.

本症例はV3領域のなかでも,特に耳介側頭神経の支配領域に限局した痛みであったこと,SLEに対しプレドニゾロンを長期内服している易感染性の患者であったことから,超音波ガイド下に浅層での耳介側頭神経ブロックを施行した.浅層・末梢側での耳介側頭神経ブロックは,おもに覚醒下開頭術における頭皮ブロックの一部としてランドマーク法で施行されている2,4,5)が,浅側頭動脈が穿刺部近傍を走行しているため血管穿刺のリスクがある.今回われわれが施行した超音波ガイド下ブロックでは,穿刺点やターゲット部位はランドマーク法と同じだが,超音波画像で血管を確認しながら薬液を注入できるため血管内注入のリスクを減らすことができ,X線透視装置を必要としないため外来で簡便に施行できるというメリットがある.本症例では,耳珠のアロディニアが非常に強かったため,耳珠へのプローブの接触を可能なかぎり少なくするようマイクロコンベックスプローブを使用した.マイクロコンベックスプローブはリニアプローブより浅層の解像度が劣るため,本症例では耳介側頭神経をはっきりと描出することができなかったが,浅側頭動脈の背側に薬液を注入することで確実に神経をブロックすることができた.高性能なリニアプローブを使用すれば鮮明に神経を描出することができる可能性があるが,本症例のように穿刺部のアロディニアが強い症例ではマイクロコンベックスプローブを選択することを考慮してよいと考えられた.

本症例では初回ブロック時に,Pinoskyらの報告に基づき1%リドカインを5 ml使用したところ,一過性に同側の顔面神経麻痺がみられた.耳介側頭神経は顔面神経に交通枝を分枝していること,また,顔面神経幹は通常耳介側頭神経より1 cm深く,やや下方内側を走行する6,7)ことから,薬液が顔面神経の分枝に一部浸潤したことにより一過性に軽度の顔面神経麻痺をきたした可能性が考えられる.McNicholasらは,覚醒下開頭術時に施行した頭皮ブロックのうち,耳介側頭神経ブロックの8.6%に一過性(24時間以内)の術後顔面神経麻痺が認められたと報告している4).その他の頭皮ブロックでは顔面神経麻痺は認められなかったことから,耳介側頭神経の末梢側でのブロックでは顔面神経麻痺への注意が必要であるとしている.本症例では,2回目以降はリドカイン注入量を2 mlに減量したところ顔面神経麻痺は発生せず,耳介側頭神経ブロックの効果も確実に得られた.神経がはっきりと描出できれば,さらに少量の局所麻酔薬で十分な効果が得られる可能性がある.

耳介側頭神経領域のアロディニアが強いV3の急性期ZAPに対する治療では,浅層・末梢側での耳介側頭神経ブロックが有効であった.また,今回われわれが施行した超音波ガイド下耳介側頭神経ブロックは,血管内注入や顔面神経麻痺のリスクを軽減し,従来の盲目的ブロックで報告されている局所麻酔薬の使用量より少ない量で効果を得ることができる,安全性の高い手法であると考える.

この論文の要旨は,第47回関西ペインクリニック学会学術集会(2017年5月,大阪)において発表した.

文献
  • 1)  比嘉和夫, 森真由美, 真鍋治彦, 他. 帯状疱疹に対する星状神経節ブロック. 日本ペインクリニック学会誌 1994; 1: 99–105.
  • 2)   Pinosky  ML,  Fishman  RL,  Reeves  ST, et al. The effect of Bupivacaine skull block on the hemodynamic response to craniotomy. Anesth Analg 1996; 83: 1256–61.
  • 3)  湯田康正. 頭痛の神経ブロック療法. 東京慈恵会医科大学雑誌 1996; 111: 441–61.
  • 4)   McNicholas  E,  Bilotta  F,  Titi  L, et al. Transient facial nerve palsy after auriculotemporal nerve block in awake craniotomy patients. A A Case Rep 2014; 2: 40–3.
  • 5)   Bebawy  JF,  Bilotta  F,  Koht  A. A modified technique for auriculotemporal nerve blockade when performing selective scalp verve block for craniotomy. J Neurosurg Anesthesiol 2014; 26: 271–2.
  • 6)   Myckatyn  TM,  Mackinnon  SE. A review of facial nerve anatomy. Semin Plast Surg 2004; 15: 5–12.
  • 7)   Chan  M,  Dmytriw  AA,  Bartlett  E, et al. Imaging of auriculotemporal nerve perineural spread. Eacancer 2013; 7: 374.
 
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