日本ペインクリニック学会誌
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短報
両肩治療中にリウマチ性多発筋痛症合併RS3PE症候群を発症し,さらにうつ状態を呈した1例
清水 洋子臼井 要介白川 香水谷 彰仁
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2019 年 26 巻 2 号 p. 129-130

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I はじめに

われわれは,両肩痛治療中にリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatic:PMR)合併のRS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群を発症し,さらにうつ状態を呈した症例を経験したので報告する.

なお,本症例の発表については患者および施設の了承を得ている.

II 症例

患者:59歳,男性.

既往歴:高コレステロール血症.

現病歴:X年9月,両肩痛と腰痛を主訴に近医整形外科を受診した.頸椎症,両側肩関節周囲炎の診断のもとリハビリテーションを行い,右肩関節にはヒアルロン酸注射を計3回施行した.また,ロキソプロフェンナトリウム,エペリゾン塩酸塩錠,インドメタシン貼付剤が処方された.X年11月,両肩痛・腰痛ともに症状改善せず,さらに3週間前より右手背に圧痕性浮腫を認めた.頸椎MRI検査および全身CT検査を実施したが,悪性疾患を含め異常所見は認めなかった.治療困難となり当院に紹介受診となった.

初診時は両手背に圧痕性浮腫を認めた.また疼痛誘発試験や筋力テストはともに問題なかった.血液検査では,CRP 5.12 mg/dl,赤血球沈降速度(erythrocite sedimentation rate:ESR)1時間値70 mm,2時間値114 mmと炎症反応の上昇を認めた.抗cyclic citrullinated peptide(CCP)抗体陰性,蛋白分画ではγ-グロブリン18.4%と正常なことより,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)や慢性炎症疾患の可能性は低いと考えられた.以上よりPMR診断基準(表11)を満たし,さらに臨床症状から,RS3PE症候群を合併していると考えた(表22).そこで,プレドニゾロン15 mg/日投与開始とした.2週間後,CRP 0.14 mg/dl,ESR 1時間値10 mm,2時間値25 mmと炎症反応の低下を認め,両手背の圧痕性浮腫も軽減した.また両肩痛および腰痛は初診時の半分以下に改善した.しかし,この頃より不眠を訴え,うつ性自己評価尺度(self-rating depression scale:SDS)58点,患者の健康に関する質問票-9(patient health questionnaire:PHQ-9)10点と中等度のうつ状態を認めた.臨床症状と炎症反応は改善していることからプレドニゾロンによる副作用と考え,プレドニゾロン10 mg/日に減量し,ミルタザピン7.5 mg/日の内服を開始した.また治療経過において,プレドニゾロンに反応しない,もしくはRAを疑う際はリウマチ科と併診する方針とした.その後プレドニゾロン1 mg/日まで漸減した.治療開始5カ月後,再度CRP 1.15 mg/dlと軽度上昇したためプレドニゾロンを増量したところただちに正常値となり再度漸減,治療開始8カ月後に寛解し治療終了となった.抑うつ状態に関しては,ミルタザピンの内服を開始してから徐々にうつ状態は軽快し,睡眠障害も改善した.その後1年以上症状再燃なく経過している.

表1 PMRの診断基準:Birdの基準(1979)
1. 両肩の疼痛,および/またはこわばり
2. 2週間以内の急性発症
3. 赤沈の亢進(40 mm/h以上)
4. 1時間以上持続する朝のこわばり
5. 年齢が65歳以上
6. 抑うつ症状および/または体重減少
7. 両側上腕部筋の圧痛
上記7項目中3項目以上,または上記1項目以上で臨床的,病理的に側頭動脈の異常を認めた場合,疑診例とする.疑診例で,プレドニゾロンが有効であれば確診例となる.

(文献1より引用)

表2 RS3PE症候群に特徴的な所見
①高齢発症
②急性発症の多関節炎
③リウマトイド因子陰性
④対称性の手背足背の圧痕性浮腫
⑤予後は良い

(文献2より引用)

III 考察

PMRおよびRS3PE症候群はいずれも高齢発症の炎症性疾患であり,その特徴は,リウマトイド因子陰性,自己抗体陰性,炎症反応の上昇を認めることである.いずれも治療は低用量のステロイド薬が第一選択となる.しかしステロイド薬は悪性腫瘍との関連が示唆されており,腫瘍随伴症状の場合は効果が乏しいといわれている2,3).近年,PMRの診断においてはMMP-3(matrix metalloproteinase-3),またRS3PE症候群の診断においては血管内皮細胞増殖因子の有用性も指摘されているので,今回の結果を今後に役立てたいと考えている.

治療中にうつ状態を発症したことに関しては,PMRやRS3PE症候群によるものか,またはステロイド薬の副作用によるものかの鑑別が重要となる.PMR合併のRS3PE症候群にうつ状態を呈した症例の報告は少ない.副作用が出現した場合は基本的には投与薬剤の中止とするところだが,今回はステロイド薬による治療反応性も良く中止困難と判断し,抗うつ薬投与とした.

また,PMRは約20%が1年以内にRAに移行するという報告もある4)ので,治療中はRAの発症に注意する必要がある.

PMRおよびRS3PE症候群はいずれも複数科にまたがる疾患であるが,主訴が“痛み”であることから,ペインクリニック科での初期診断・初期治療は重要と考える.なお適用にあたっては,ステロイドの副作用に対し十分注意する必要がある.

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
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