2019 年 26 巻 2 号 p. 101-106
【目的】椎骨洞神経ブロック(S-Vブロック)の有用性を検討した.【方法】2012~2017年の5年間に施行したS-Vブロック157件(133症例)について,回顧的検討を行った.治療効果判定には数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)を用い,施行1カ月後にNRSが50%以下に減少していれば「有効」とした.【手技】X線透視下斜位で施行し,ブロック針を椎間板線維輪背側部に当てた.ブロック針で線維輪に圧力をかけたときの疼痛の有無とその後の治療効果で責任高位診断を行った.造影剤(イオヘキソール240 mg I/ml)0.5 mlを注入後,薬液(1%メピバカイン0.5 ml+水溶性デキサメタゾン0.825 mg)を線維輪表面に注入した.【結果】有効68症例(51.1%)で増悪症例はなかった.責任高位診断のため複数椎間にS-Vブロックを施行した26症例では,21症例(80.8%)の診断が可能であった.施行に伴う副作用は認めなかった.1年後の転帰では23症例(17.3%)が軽快終診となっていた.【結論】S-Vブロックは椎間板由来の愁訴の診断・治療に有用であった.
椎間板由来の疼痛性愁訴には,椎間板変性による腰痛と椎間板組織の圧迫・刺激で惹起される下肢痛がある.腰痛は椎骨洞神経痛,下肢痛は神経根痛であることが多い.この椎間板由来の愁訴の診断・治療に椎間板造影・ブロック(椎間板ブロック)が有用である.しかし,椎間板ブロックの合併症として,椎間板変性の促進,痛みの誘発,椎間板炎などが起こりうる1).このため椎間板ブロックを積極的に施行している施設は少ない.椎骨洞神経ブロック(sinuvertebral nerve block:S-Vブロック)は椎間板表面での神経ブロックなので,副作用は椎間板ブロックより少なく軽症と考えられる.今回S-Vブロックの有用性について回顧的検討を行った.
なお,本臨床研究はヤマトペインクリニック倫理委員会の承認を得た(2017–01).
2012年2月~2017年1月の5年間にS-Vブロックを施行した133症例(157件)を対象とした.
2. 調査項目年齢,性別,疾患名,愁訴内容,治療効果,診断効果,副作用,転帰について,電子カルテデータより調査することとした.治療効果に関しては,施行4~6週間後再診時の効果判定とした.数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)が4週間以上継続して50%以下に減少すれば「有効」,NRS不変か増悪を「無効」,その他を「やや有効」とした.4週間以内に他の椎間板治療(椎間板ブロックや手術)を受けた場合は「無効」に分類した.転帰は,施行1年経過後の状態について調べた.数値は平均値±標準偏差で表し,統計解析には,t検定,Wilcoxonの符号順位検定,Pearsonのχ2検定を用い,有意水準は0.05と定めた.
3. S-Vブロックの手技椎間板ブロック時の斜位法1)を応用し,椎間板背側よりにブロック針を当てることを心がけて施行した(図1)2).

椎骨洞神経ブロックのシェーマ
椎間板ブロック時の斜位法を応用し,椎間板背側寄りにブロック針を当てることを心がけて施行した.
①患側を上とする側臥位とし,側腹部に枕を入れて目的椎間における側弯を減少させた(痛みが両側性の場合は左側臥位で施行した).側臥位から徐々に体を前面に倒し斜位とし,透視画面上で下位椎骨の上関節突起前縁が椎間板前後径の中央より背側(背側1/4程度)に位置するように体位を合わせた.
②X線管球の角度を目標の椎間板に対して平行に設定した.すなわち頭側終板,尾側終板が一線となるようにした.透視画面上,椎間板高位で上関節突起後縁を刺入点とした(図2).25 G 6 cmディスポーザブル針を用い,1%メピバカイン2~4 mlで皮膚から上関節突起まで局所麻酔を行った.

X線透視下で目標を鉗子先端で示す
目的椎間の上関節突起が透視画面で背側1/4となるように体位を調節し,上関節突起腹側を目標とした.
③22 G 12 cmブロック針を刺入し,上関節突起に当たるまで進めた.ブロック針を上関節突起に当てた後,前縁に接したまま滑らせた.上関節突起を乗り越えたら側方透視にし,椎間板終板を合わせた.ブロック針をゆっくり進め,椎間板線維輪背側部に当てた.ブロック針に圧力をかけたときの痛み,ひびきで疼痛再現の有無(再現痛)を判断した.椎間板背側中央部にブロック針を進めることは物理的に不可能であり,左寄りもしくは右寄りの背側部に当てた.
④線維輪の感受性が高ければ痛みを訴える(責任部位であることが多い).痛みを訴えなくても椎間板内に針が入りそうならば造影する.造影剤(イオヘキソール240 mg I/ml)0.2~0.5 mlを注入し,造影像を調べた.造影剤は椎間板背側にとどまるか,神経根に沿って流れることが多い(図3).血管内注入でないことを確認したのち,薬液(1%メピバカイン0.5 ml+水溶性デキサメタゾン0.825 mg)を椎間板線維輪表面に注入した.その後1時間経過観察を行った.

椎骨洞神経ブロック(L2/3)の造影写真
a:側面像:椎間板線維輪と硬膜腹側との間隙が造影された.
b:正面像:造影剤は腹側硬膜に沿って頭尾側に広がり,L2神経根に沿った造影像も認められた.
対象は椎間板由来の愁訴を訴えた133症例(M/F:80/53)であり,年齢は49.8±13.4歳(22~79歳),椎間板ヘルニア81症例,椎間板症14症例,混合型脊柱管狭窄症38症例であった.腰痛のみを訴えた症例(腰痛群)は44症例,腰痛のほか下肢痛・しびれを訴えた症例(腰下肢痛群)は89症例であった.対象に対するS-Vブロックの施行目的には,治療目的と診断目的とがあった.
①治療目的(107症例115件):神経学的所見とMRI画像の所見が一致する症例で,神経根ブロックおよび硬膜外ブロックを2~4回施行したが無効か一時的な効果しか得られない症例であった.複数回施行した8症例は,複数病変のため後日他椎間に施行した.
②診断目的[26症例42件(16件は後日施行)]:神経学的所見とMRI所見だけでは病変部の同定が困難で疑わしい椎間板が複数あり,1~2回の神経根ブロック,硬膜外ブロックを施行するが効果不十分で,再現痛も認められない症例であった.16症例は椎間板表面にブロック針を当てたときに痛みを誘発しなかったため,後日(1~3週間後)他椎間に施行した.
施行部位157件の内訳は,L4/5椎間93件,L5/S椎間42件,L3/4椎間10件,L2/3椎間,9件,L5/6椎間2件,L1/2椎間1件であった.
2. 治療効果S-Vブロック施行直前の対象のNRSは5.6±0.8であった.施行4~6週間(4.3±0.6週間)後の診察ではNRSは2.7±1.7へ有意な減少を示した(P<0.05).「有効」68症例(51.1%),「やや有効」47症例,「無効」18症例で,増悪症例はなかった.
愁訴別効果では腰痛群の有効率は59.1%,腰下肢痛群の有効率は47.2%であった.数値上,腰痛群のほうが有効率は高かったが有意差は認められなかった(表1).
| 愁訴 | 症例数 | 有効 | やや有効 | 無効 | 有効率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 腰痛群 | 44 | 26 | 14 | 4 | 59.1% |
| 腰下肢痛群 | 89 | 42 | 33 | 14 | 47.2% |
| 総数 | 133 | 68 | 47 | 18 | 51.1% |
施行1カ月後51.1%でNRSが半減した.愁訴別効果に有意差は認められなかった.
診断目的でS-Vブロックを施行した症例でも治療効果を認め,26症例中10症例(38.5%)が「有効」であった.
3. 診断効果責任高位診断のため複数椎間にS-Vブロックを施行した26症例では,21症例(80.8%)の診断が可能であった.線維輪にブロック針を当てたときに,再現痛が得られ診断できたのは10症例(38.5%)であった.16症例は再現痛を訴えず,薬液のみを注入した.他椎間の施行は1~3週間後に行い,1症例で再現痛が認められ,15症例には再現痛が認められなかった.結局26症例中11症例(42.3%)で再現痛が得られたことになる.再現痛が得られなかった15症例では10症例(66.7%)に鎮痛効果が認められ,責任高位診断が可能であった.
4. 副作用S-Vブロックの施行に伴う重篤な副作用は認められなかった.施行時に再現痛が認められた症例でも,再現痛が長く持続することはなかった.
5. 転帰S-Vブロック施行1年後の転帰は,23症例(17.3%)が軽快終診となり,それ以外では40症例が経皮的髄核摘出術を,7症例が椎間板ブロックを,10症例が観血的手術を受けていた(表2).
| 転 帰 | 症例数 |
|---|---|
| 軽快(終診) | 23(17.3%) |
| 経皮的髄核摘出術 | 40 |
| 椎間板ブロック | 7 |
| 観血的手術 | 10 |
| 治療継続 | 13 |
| 神経根パルス高周波法 | 8 |
| 硬膜外脊髄刺激(一時的) | 2 |
| 不明・中止 | 30 |
S-Vブロック施行1年後では17.3%が治癒していた.
椎間板背側部は椎骨洞神経に,側方部は交通枝により支配されている.後縦靱帯および硬膜腹側部の支配も椎骨洞神経である.椎骨洞神経は神経根から分枝し,交通枝は腰部交感神経幹から分枝する.正常椎間板内部には神経は存在しないが,椎間板変性・炎症により自由神経終末が線維輪内部まで侵入し,炎症性サイトカインが発現して椎間板性腰痛の一因となる3).椎間板知覚は交通枝,交感神経幹を経てL2後根神経節に入力するといわれているが,責任高位診断には直接的な椎間板ブロックが役立つ.
一方,下肢痛や下肢しびれを伴う椎間板疾患は,椎間板組織の圧迫や刺激で惹起された神経根障害であることが多い.硬膜外ブロックや神経根ブロックが効果不十分な症例では,椎間板ブロックや経皮的髄核摘出術が施行される.
しかし椎間板ブロックの合併症として,痛みの誘発,椎間板変性の促進,椎間板炎などが起こりうる.椎間板ブロック時に誘発される痛みは,しばしば激しい痛みとなって緊急入院が必要な場合もある.これに対しS-Vブロックは椎間板表面での神経ブロックなので,薬液注入により椎間板内圧を上昇させることはなく,激しい痛みを引き起こすことはない.椎間板内に直接薬液を注入しないため,椎間板変性を進行させる可能性も低い.少なくとも,椎間板内にブロック針を刺入する椎間板ブロックよりは変性を促進しないと推測される.同じ理由で椎間板ブロックより椎間板炎の発生率も低いと考えられる.
椎間板由来の愁訴は,前屈姿勢や座位で増悪することが多い.下肢の神経症状を伴い,MRI上で神経学的所見に一致する椎間板突出や椎間板ヘルニアを認めれば診断は容易である.しかし下肢症状を伴わない腰痛患者でMRI上複数の椎間板突出を認める場合,責任高位診断は困難である.かつては,診断目的で一度に2,3椎間の椎間板ブロックを行っていた.しかし前述した副作用を考えると,椎間板ブロックの施行は必要最小限にとどめるべきである.2010年のS-Vブロックに関する論文4)にヒントを得て,われわれは斜位でS-Vブロックを行うようになった.椎骨洞神経の走行分布から,選択的な神経ブロックは不可能であり,S-Vブロックはコンパートメントブロックである.最初は診断目的で施行したS-Vブロックであったが,治療効果もあることがわかり,治療目的で施行することも増えてきた.
責任高位診断では,ブロック針を用いて椎間板線維輪に圧力をかけたときの痛み,ひびきで再現痛の有無を判断する.しかし再現痛を得て責任高位診断ができたのは26症例中11症例であった.この理由としては,椎間板造影になることを危惧した結果,線維輪にかける圧力が弱くなった可能性が考えられる.また強力な鎮痛薬を服用している症例では,S-Vブロックによる再現痛を感知しなかった可能性もある.残り16症例には後日他椎間にS-Vブロックを施行した.このうち1症例には再現痛が認められたが15症例では認められず,治療効果で診断した.その結果15症例中10症例に治療効果を認め,責任高位が診断できた.再現痛だけから判定した診断効果は42.3%(11/26)だったが,治療効果も含めると診断効果は80.8%(21/26)であった.
S-Vブロック時の薬液は線維輪表面に注入されるが,線維輪と硬膜腹側,その椎間孔から出る神経根が造影される.これは造影剤が抵抗の小さい神経根周囲に流出したものと考えられる.この神経根に対して神経根ブロックやパルス高周波法を施行しても,効果はあまり得られなかった5).対象は薬物療法の効果はほとんどなく,硬膜外ブロックや神経根ブロックも効果不十分で,数日以内に元の状態に戻っていた.そのような対象の51.1%にS-Vブロックは効果的であったが,これは硬膜外ブロックや神経根ブロックよりもS-Vブロックのほうが,線維輪への薬液移行が多いためと考えられる.
両側性腰痛に片側からS-Vブロックを行っても,しばしば両側に効果を認めることや下肢痛を伴う症例にも効果を認めることから,S-Vブロックで注入された薬液は椎間板内にも浸潤していくと推測された.以上からS-Vブロックの奏効機序は,直接的な椎骨洞神経への効果と椎間板内への浸潤効果と考えられる.
1年後の転帰では23症例(17.3%)が治癒終診となっていた.なんらかの効果を認められたが効果不十分であった「やや有効」症例や,1~数カ月以内に効果が消失した「有効」症例では,椎間板ブロックや経皮的髄核摘出術を受けていた.「無効」症例は,経皮的髄核摘出術や観血的手術を受けていた.治癒症例はすべてS-Vブロックの「有効」症例であったことから,「有効」症例の33.8%(23/68)が治癒したことになり,S-Vブロックは長期効果も期待できるといえる.
過去の論文4)では正中椎弓間アプローチでS-Vブロックを施行していたが,これは脊髄造影の手技と同様に副作用として硬膜穿刺後頭痛や馬尾神経損傷を惹起する可能性があり,椎間板ブロックよりも侵襲が大きくなる事態も考えられる.また薬液が硬膜外腔,くも膜下腔に漏出する場合があり,診断的にもあまり正確とは思えない.われわれは従来の椎間板ブロックでの斜位法を用い,椎間板背側よりにブロック針を当てることを心がけてS-Vブロックを施行した.この手技のほうが侵襲は小さく,診断能力もより優れていると考えられる.
S-Vブロックは椎間板由来の愁訴の診断・治療に有用であった.椎間板症・椎間板ヘルニアでは,神経根ブロックや硬膜外ブロックが効果不十分な場合,S-Vブロックをまず施行し,椎間板ブロックもしくは経皮的椎間板摘出術はその次の段階での施行を考慮すべきである.
この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第52回大会(2018年7月,東京)において発表した.